「後出しじゃんけん」のように相次ぐ東電の発表に不信感を強めるのは、魚を食べる消費者も同じだ。
福島沿岸で2011年夏から調査を継続中の東京海洋大の神田穣太(じょうた)教授は「汚染水漏れのニュースが出始めてから特に魚の汚染が悪化したわけではないと捉えています」と語る。しかし、だから安心という話ではない。「今、急に漏れたのではなく、海中の放射性物質のデータを見れば、原発事故当初から流出は続いていた。どの研究者も同じ見解を持っていました」
警戒すべきはセシウムだけではない。骨への蓄積が懸念されるストロンチウム90が港湾内で検出されている。神田教授によると、減少ペースはセシウムよりストロンチウムの方が遅い。「港湾内に流れ込むセシウムの量が1日30億ベクレルとすれば、最低でもその3倍のストロンチウムが流れ込んでいる。
1970年代から原発建設反対を訴え、魚と環境の研究を続ける水口憲哉・東京海洋大名誉教授は「現在のモニタリング調査は『食べて大丈夫か』を判断するのに十分なレベル」としながらも、神田教授と同じく「気になるのは魚の放射性物質の数値が下がりきらないこと。事故後の予想に反し、だらだらとセシウムの検出が続いている。地下水や原発敷地内の地表からの汚染水流入が心配されている理由も、そこにあります」と指摘する。
水口名誉教授が勧めるのはちりめんじゃこや海藻を食べることだ。「ちりめんじゃこやシラスとして流通しているカタクチイワシやマイワシの稚魚などは体が小さい分、海水の影響を受けやすい。コウナゴがそうだったように、海が汚染された当初は一時的に放射線値が高くなりますが、海水がきれいになれば、その後はむしろ安全になります。海藻も野菜とは違って根からではなく、海水中から養分を吸収するのでほとんど影響はありません」
水口名誉教授は、後手後手の東電や国の対応を厳しく批判する。「数値だけを見れば、魚は安全になってきていると言えます。しかし『実はその時に汚染水を流していました』『もっと高い数値が計測されました』と後で発表されるのが怖い。数値そのものより信頼関係の問題なんです」
分かりやすくまとめられて批判力、提案力ともに高い記事。
毎日新聞えらい。