次号の『フライの雑誌』の企画で考えるところあって、

この一週間ほどCS放送を集中的に見ている。100近くもあるCS番組を(アダルトとPPV以外は)ほぼ全部視聴できる状態にある。ドキュメンタリー、海外の速報ニュース、古今東西の名画劇場、エンターテイメント、アニメ、サッカー、自転車競技など、まさによりどりみどりのジャンルを視聴したい放題である。

ところが私と来たらこれだけチャンネルがあるのに、釣りとプロレスと格闘技の番組しか見ていないことにふと気づいた。早い話が「釣りビジョン」と「ファイティングTVサムライ」ばかりである。これではなんのための『豊富なチャンネルを徹底的に楽しむためのスカパー!』なのか。

私は釣りとプロレスに関してはたいていの人よりそこそこ詳しくて、同志を見つけたら一晩くらいは熱く語りあかせると思う。けれどもいかんせん世界が狭いことには変わりはない。脳内メーカーやったら釣りとプロレスで頭の中が埋め尽くされているにちがいない。こんな体たらくでは働き盛りを迎えた40男的にいかがなものか。せっかくなんだからディスカバリーチャンネルとかCNNとか見ればいいのに。そのほうが頭よさそうじゃん。

今週の「ファイティングTVサムライ」では、「大日本プロレス15周年記念 BJWアーカイブスSP」というのをやっていた。15周年を迎えた大日本プロレスがこれまで繰り広げてきた栄光の闘い絵巻を一気に振り返ってお見せしましょう、という豪華企画だ。ブッチャーとかアメリカの狂犬集団CZWとかが来日してがしゃがしゃやっていた時代の映像もあって面白い。

で、CZWの親玉ザンディグと、当時の大日本のエースであるシャドウWXが、BJW認定デスマッチヘビー級王座決定トーナメントの決勝で激突した試合が放映された。「CZWカリビアンスタイル有刺鉄線・蛍光灯&蛍光灯ボード&ボブワイヤーチェスボードデスマッチ」ということで、デスマッチの一種は一種なんだろうけどすでになんだかよく分からない。場所は新川崎小倉陸橋下特設リング。日付は2000.5.14とある。もう10年も前なんだな。

抜けるような5月の爽やかな青空の下で、ボロボロの血染Tシャツをまとった禿頭のザンディグと、顔面にまがまがしいペイントを施したシャドウWXが、いい大人のくせにホチキス(向こうの大型のステープラー)の玉をリング上で撃ち合ったり、しかもそれを素早くスウェーで避けたり、蛍光灯でお互いの頭をぶん殴ったりしている。ばかだなあ。

このころの大日本プロレスはまだコアなマニア向けプロレスから抜け切れないながら、一般プロレスファン相手に弾ける一歩手前の寸前の内向きのエネルギーをぎゅうぎゅうにためこんでいて、非常に面白かった。私も何回か会場に足を運んだ。

テレビの前に寝転がってなつかしく試合を見ていたら、ドキッとして起き上がった。

トーナメント決勝戦のリングサイドに張り付き、リング上へ向けて何やら応援とも罵声ともつかない大声をわめきちらしている長髪の男がいた。できればあまりお近づきになりたくない感じのいかにもうさんくさい30男、それは10年前の私だった。10年の時を越えてCS放送の画面で自分を見るとは思わなかった。

そういえばこの試合を私はわざわざ川崎まで見に行ったんだった。机を探ったら当時のブッチャーの写真が出てきた。その日の試合が終わった後、優勝したシャドウWXに記念写真のポラを撮影してもらったことも思い出した。WXの応援Tシャツを着ていた私は、「また(それ着て)応援してね」とWXに言ってもらえてすごくうれしかったんだった。

というわけで、新刊『桜鱒の棲む川 サクラマスよ、故郷の川をのぼれ!』を校了した今日もまたこれからプロレス観戦へ行ってくる。やっぱり脳内には釣りとプロレスしかないのか。来週は桂川だし。

当時の写真。この方は有名なブッチャー。爪先に注目。左にいるのはまだ巨大化する前の関本大介選手。