うちの池の水が減る。
「たくさん蒸発するなあ。暑いからだなきっと」と思いながら差し水をしていた。しかし、あまりにも水位減少が早すぎる。前日夜に満水状態だったのに、朝になってみると池の縁の石組みが根本までそっくり露出している。さすがに「なんかおかしいぞ」と思うようになった。
あまりに減るので、はじめは人為的な関与を疑った。「だれかが明け方にうちの池にやってきて、バケツで水を汲みだしてるんじゃないか。」と推理した。だとすれば、もっともあやしいのがいる。コロコロコミックを読んでいる夏休みの9歳児を、「あのうお前、トマトに水をやるのに、バケツで池の水を汲んだりしてないよな?」と問いただした。するとひとこと、「やるわけない」と一蹴された。
間をあけて何回も聞いたら、その内コロコロコミックを音立てて閉じてキッと振り返り、「いいかげんにして」と真顔で怒られた。仏の顔も三度までか。わるかったよ。そんなに怒るな。
犯人は9歳児ではないらしい。ならば、見知らぬ第三者が闇に乗じてやって来て、池の水をいたずらしているのかなあと考えたが、「きもちわるいこといわないで」とこんどはうちの人に怒られた。たしかにきもちわるい。そもそもなんのために。
では、近所のイヌかネコがやってきてうちの池の水をごくごく呑んでいるのか、とも思ったが、イヌやネコはそこまで水呑まないだろう。そんなところ見たことないし。じゃあトリ? あさ川からカワウが飛んで来て、うちの池で毎朝水浴びしているとか。いやあ。
ためしに水が減っても足さずに放っておいた。だいたい一日で3センチ減るようだ。じわじわと、確実に水が減る。ああ。やはりそうなのか。
・・・わたしは本当はわかっているのだ。でもその事実に向き合いたくないがために、9歳児を疑い、イヌやネコ、見知らぬ第三者、カワウまでをも持ち出した。みなさん正直スマンかった。
〝うちの池が水漏れしている〟というおそろしい現実が、今わたしの目の前にある。