池を作ろうと思う。47

池を作り直そうと思う。理由は、いまの池がじわじわと水漏れしているから。この間、防水ゴムシートをあれこれと修復してみたが、じわじわとした水漏れが一向にとまらなくて、いやになった。大雑把な性格のくせにむかしからいったん小さなことが気になるといつまでも心の端っこでじくじくと思い悩んで落ち着かない。さいきん夢にもじわじわと水漏れする池がでてくるようになって、このままでは日常生活にも支障が出るのではと思うようになった。まっくらな独房で水滴がポタン、ポタン、と落ちる音を聞かせ続けると囚われの人はわずか24時間で気がくるうと聞いたことがある。まさか自分もとは思わないが、水漏れする池はすでに池ではない。せっかく作ったのに。思えば去年の春休みに9歳児が庭に「温泉」を掘り始めたのが、池を作るきっかけだった。温泉はやめてくれ、池を作ろうと提案して、二人で作った池だ。あれからちょうど一年、二人で作った池を今年の春休みに作り直すのも時の流れであろう。9歳児も10歳児になった。池づくりの戦力としても成長しているにちがいない。よし、もういちど池を作ろうじゃないか。
池を作り直そうと思う。理由は、いまの池がじわじわと水漏れしているから。この間、防水ゴムシートをあれこれと修復してみたが、じわじわとした水漏れが一向にとまらなくて、いやになった。大雑把な性格のくせにむかしからいったん小さなことが気になるといつまでも心の端っこでじくじくと思い悩んで落ち着かない。さいきん夢にもじわじわと水漏れする池がでてくるので、このままでは日常生活にも支障が出るのではと思うようになった。まっくらな独房で水滴がポタン、ポタン、と落ちる音を聞かせ続けると囚われの人はわずか24時間で気がくるうと聞いたことがある。まさか自分もとは思わないが、水漏れする池はすでに池ではない。せっかく作ったのに。思えば去年の春休みに9歳児が庭に「温泉」を掘り始めたのが、池を作るきっかけだった。温泉はやめてください、池を作ろうよ、と提案して、二人で作った池だ。二人で作った池を一年たった今年の春休みに作り直すのも時の流れであろう。9歳児も10歳児になった。池づくりの戦力としても成長しているにちがいない。よし、もういちどぼくらの池を作ろうじゃないか。
もういちどしげしげと、今の池をながめてみる。春に作った池が夏を越して秋をすぎ冬を迎え、先月のあの大雪で埋もれて「地球のニキビ」となっても、池はやはり池のままであった。ろ過器は太陽光発電システムを三台壊して、けっきょく秋頃から東京電力の100ボルトにお世話になっている。冬の間放置しておいたら、いつのまにかろ過層にコケと水草みたいなのが生えてきていた。導入した太陽光発電システムはそれぞれあっというまに壊れたが、東電は粛々と電気を送り続けて一回も止まったことがない。わたしたちは原発で作った電気で池をろ過したくはありません、とジブリみたいなことをおっさんが言ってもだれも笑ってくれない。べつにいいです。
しげしげと、今の池をながめてみる。春に作った池が夏を越して秋をすぎ冬を迎え、先月のあの大雪で埋もれて「地球のニキビ」となっても、池はやはり池のままであった。ろ過器は太陽光発電システムを三台壊して、けっきょく秋頃から東京電力の100ボルトにお世話になっている。冬の間放置しておいたら、いつのまにかろ過層にコケと水草みたいなのが生えてきていた。導入した太陽光発電システムはそれぞれあっというまに壊れたが、東電は粛々と電気を送り続けて一回も止まったことがない。わたしたちは原発で作った電気で池をろ過したくはありません、とジブリと似たようなことを市井のおっさんが言ってもだれも笑ってくれない。べつにいいです。

透明な水の奥に苔や藻が着生した底石が見えている。こういう景色をつねに傍らに置いておきたかったのが、池を作りたかった動機のひとつだ。ほんとうは「釣り堀にしよう」と思っていたのだが、自分で作った箱池に自分で捕まえてきた魚を放して自分で釣る、という自家発電的な核燃料サイクルは心情的にすぐに破綻した。破綻が自明の事業からはすぐに撤退すべきだ。けっきょくわたしのこの池に釣り糸を垂らしたことは一回もない。9歳児は、いまはもう10歳児だが、友だちを連れてきて釣りをさせるのを楽しみにしていたようだ。「いつ釣りするの」「池がもう少し落ち着いてからだ」と言い続けてごまかしてきた。10歳にしてかなわぬ夢におわったな。夢なんて夢見ているうちが華なのだ。きみはこれからたくさんのかなわぬ夢を抱えたまま大人になっていくに決まっているのだ、それが人生なのだ、と夕食のときに説教しかけたら「やめてください」とママにおこられた。
透明な水の奥に苔や藻が着生した底石が見えている。こういう景色をつねに傍らに置いておきたかったのが、池を作りたかった動機のひとつだ。ほんとうは「釣り堀にしよう」と思っていたのだが、自分で作った箱池に自分で捕まえてきた魚を放して自分で釣る、という核燃料サイクルみたいな自家発電のアイデアは心情的に破綻した。けっきょくわたしはこの池に釣り糸を垂らしたことは一回もない。9歳児は、いまはもう10歳児だが、友だちを連れてきて釣りをさせるのを楽しみにしていたようだ。「いつ釣りするの」「池がもう少し落ち着いてからだ」と言い続けてごまかしてきた。10歳にしてかなわぬ夢におわったな。夢なんて夢見ているうちが華なのだ。きみはこれからたくさんのかなわぬ夢のかけらを抱えて大人になっていくのだ、それが人生なのだ、と夕食のときに説教しかけたら「やめてください」とママにおこられた。

旧池の全景。こうして見ると、たいした池じゃない。でもこの池の中には、わたしが移入してきた無数の生物たちが蠢いている。一年間いのちをつむいできた。浅川から移入したオイカワたちは、すべてあの憎っくきカワセミに食われてしまった。わたしはカワセミよりもオイカワが好きだが、世の中の多くの人々はおそらく、カワセミの方を愛でるだろう。にんげんなんてそんなものだ。それぞれのご都合主義でにんげんは動く。生物多様性とやらも、、、なんて方向に思いをはせようとして、めんどくさくなってやめた。そういえば池田清彦氏の『生物多様性を考える』という本はおもしろかった。池田氏はリバタリアンを自称している。わたしも国家主義からの解放を是とするリバタリアニズムはよしと思う人であるが、ビンボウなリバタリアンというのは、どうなんだろう。いくら自由な個人主義を貫徹させたくとも、先立つカネがないことには自分のやりたい好きなこともできず、もちろん福祉も医療も受けられない。地元の陸橋下を生息場所にしているリヤカー引きのおじさん、あなたはどうやって日々の生活費をかせでいるのですか。老後はどんな人生設計ですか。池を作るといろいろなことを考えられていいな。
旧池の全景。こうして見ると、たいした池じゃない。でもこの池の中には、わたしが移入してきた無数の生物たちが蠢いている。一年間いのちをつむいできた。浅川から移入したオイカワたちは、すべてあの憎っくきカワセミに食われてしまった。わたしはカワセミよりもオイカワが好きだが、世の中の多くの人々はおそらく、カワセミの方を愛でるだろう。にんげんなんてそんなものだ。それぞれのご都合主義でにんげんは動く。生物多様性とやらも、、、なんて方向に思いをはせようとして、めんどくさくなってやめた。池田清彦氏の『生物多様性を考える』という本はおもしろかった。池田氏はリバタリアンを自称している。わたしも国家主義からの解放を是とするリバタリアニズムはよしと思う人であるが、ビンボウなリバタリアンというのは、どうなんだろう。いくら自由な個人主義を貫徹させたくとも、先立つものがないことには自分のやりたいこともできず、医療もまして福祉も受けられない。国道16号の陸橋下を生活の場にしているリヤカー引きのおじさん、あなたはどうやって日々の生活費をかせでいるのですか。老後はどんな人生設計をお持ちですか。池を作るといろいろなことを考えられていいな。

水漏れする池はもうかんべんなので、出来合いのプラスティック製の池を買ってきたことは、前回の本欄「46」で書いた。池を作ろうなんてエコっぽいじゃんわたし、みたいに小鼻をふくらませているくせに、池本体が石油製品ってどうなのよ、とも思う。まあにんげんなんて矛盾まみれの存在だから。ホームセンターで買ってきたプラ池を、旧池の側に置いてみた。でかいかな。いや、間違いなくでかい。わたしはこれでも写真を撮り慣れているほうなので、釣った魚を実際よりでかく見せるテクニックを駆使して池を撮っている。それでも物理的に全長で300ミリ、幅で最小150ミリ、最大350ミリほどでかい。へたすると庭が池で占領されるのではないか。クリミア半島に巨大なプラ池が侵出してきた感じ。この先わたしの庭はどうなってしまうのか。まずはG8から脱退させねばなるまいね。
水漏れする池はもうかんべんなので、出来合いのプラスティック製の池を買うことにしたのは前回の本欄「池を作ろうと思う。46」で書いた。池を作ろうなんてエコっぽいでしょ、みたいに内心で小鼻をふくらませているくせに、池本体が石油製品ってどうなのよ、と思う。まあにんげんなんて矛盾まみれの存在だから。ホームセンターで買ってきたプラ池を旧池の側に置いてみた。でかいかな。いや、間違いなくでかい。わたしはこれでも写真を撮り慣れているほうなので、釣った魚を実際よりでかく見せるテクニックを駆使して池を撮っている。それでも物理的に全長で300ミリ、幅で最小150ミリ、最大350ミリほどでかい。へたすると庭が池で占領されるのではないか。クリミア半島にとつぜん巨大なプラ池が侵出してきた感じ。この先わたしの庭はどうなってしまうのか。まずはG8から脱退させねばなるまいね、プラ池を。そういえば10歳児がクリミア占領を宣言する記者会見の中継でくまのプーチンをみて、「この人笑わないねえ。」と言っていた。ひとさまの国を占領した後にヘラヘラ、ニヤニヤされていても困る。10歳児の素朴で正当な疑問には、「このおじさんは元秘密警察で柔道家でスパイだからね。ゴルゴ13みたいな。」と間違った情報を教えておいた。

池の作り替え工事のプランを10歳児に説明した。まず、旧池の水を抜く。バケツでくみ出すのが手早いだろう。抜いた水と泥は、あらかじめ用意している衣装ケースにうつす。この水と泥こそは新しい池で生き物が棲んでいくのにたいせつなものだ。環境を保持した上で旧池から生き物をうつそう。水と泥と生き物を衣装ケースにうつしたら、ゴムシートを撤去して周囲の石をどかし、新しいプラ池にあわせて池の周囲を掘る。今日はどこまでできるだろう。10歳児とバケツリレーを開始した。先は長そうだ。
池の作り替え工事のプランを10歳児に説明した。まず、旧池の水を抜く。バケツでくみ出すのが手早いだろう。抜いた水と泥は、あらかじめ用意している衣装ケースにうつす。この水と泥こそは新しい池で生き物が棲むのにたいせつなものだ。旧池の環境ごと生き物をうつそう。水と泥と生き物を衣装ケースにうつしたら、ゴムシートを撤去して周囲の石をどかし、新しいプラ池にあわせて池の周囲を掘る。今日はどこまでできるだろう。10歳児とバケツリレーを開始した。先は長い。

葛西善蔵と釣りがしたい 堀内正徳著(『フライの雑誌』編集人)
葛西善蔵と釣りがしたい 堀内正徳著(『フライの雑誌』編集人)