友人の清水愛一さんが、『フライの雑誌』について感想を書いてくださいました。清水さんの許可を得て転載します。
『フライの雑誌』の104号が出ました。
101号から「みいさんに会いに」という堀内さんの文が連載されています。今回で四回目。コジマさんとくろさんとわたしの三人でコジマさんが借りてきたトラックに乗って、旭川の実家に帰省しているみいさんに会いに行く、という内容の旅行記というか、エッセーというか、愚生の見解では、立派な私小説なのです。
海を見たいコジマさんと渓流っぽいところでフィッシングをしたいわたしの間に生じた齟齬だとか、池袋のお店のことなんかも語られていて、そこに堀内さんの人生や人生観なんかも引き寄せられていて、面白いのです。
101号のしょっぱなからコジマさんは登場します。
こんな登場の仕方です。
「おれも北海道へ連れて行ってくれないけ?」
とコジマさんは言った。ここは池袋の外れの間口一間のバーで、コジマさんはそこの店主だ。夏に北海道へ釣りに行く計画を立てていたわたしは、コジマさんの店のカウンターでお客同士で会話していて、ふと口の端にすべらせたところ、カウンターの逆の端っこにいたコジマさんが、ずいっと横すべりでよってきた。
薄くなりかけた七十年代風の長髪が目尻にかかるのを手ではらい、オレンジ色の照明に光るヤニ色の上下の歯を見せて、にっかにっかと笑っている。酔っている。
ぜひ、手にとって読んでみてください。フライ専門の雑誌ですが、大岡玲氏や猟師の方の文章なんかも載っていて、上質の雑誌です。
牧浩之氏の「命を”いただきます”」や山崎晃司氏の「熊と遭ったらどうなるか」なんかを読みながら梅原猛の本に書かれていたことを思い出したのでした。
「神様は、熊の肉体を土産として人間に施すのであり、そのいのちを無駄なく頂いたら魂を神様に返さなければならない。その返却の儀式が熊祭り(=イヨマンテ)なのだ」
うろ覚えですが、そんな内容のことが書かれていたはずです。
山国に住んでいるぼくには狩猟文化は避けては通れないイシューなので、両氏の文章を心して拝読しているのです。
上質な雑誌だと、改めて思うのでした。
(清水 愛一 2015年3月8日)
清水さんは『葛西善蔵と釣りがしたい』も清水さん一流のことばで書評してくださいました。清水さんの文章を読むと、池袋のコジマさんの店のカウンターに清水さんと並んだ夜を、つい昨日のことのように思い出します。