白昼の訪問者

サザエさん

フライの雑誌社は東京の西、日野市の片田舎の住宅街の中にあるオンボロな一軒屋にある。平日の昼間に二階の編集室にこもって仕事していると、いろんな方がやって来る。玄関のチャイムが「ぴんぽ〜ん」と鳴れば、ハーイと叫んで階段を駆け下りてゆくのは、私の仕事だ。サザエさんみたいだなおれ。

室内に年代物のインターフォンがあるにはあるのだが、こわれていて受話器をとると台座ごと足の上に落っこちてくる。何回か喰らったが、これが死ぬほど痛い。だから最近はインターフォンを使わずにいきなり玄関ドアを開けている。防犯上はよくないのだろうが、強盗されるよりも台座に足を直撃される方がこわい。

切った方がいいね

さて、先週はぴんぽんでハーイと出たら、頭にねじり鉢巻をしたいなせな職人さんが立っていた。白い歯を見せてニカッと笑う。どこかで見たことあるなと思ったが思い出せない。「どうも! 忘れちゃった?」。そうか、去年うちに飛び込みでやって来た植木屋さんだ。「一年経ったら顔忘れちゃうよな! あははは」。植木屋さんは爽やかに豪快にからからと笑った。

気が小さくて頭の悪い私は、人の顔と名前を覚えるのが昔から苦手である。顔を正面から見られないし記憶力も悪いから、これまでたくさんの相手に不愉快な思いをさせてきた。編集者的には致命的な欠陥だろう。

一年ぶりの植木屋さんが言うには、「去年切った木がまた伸びたから剪定した方がいいよ。今なら去年と同じ値段にしとくよ。」とのこと。もちろんうちは職人さんに頼んで剪定するほどの銘木が植わっている豪邸ではない。個人的には雑草も木も伸び放題にしてトトロの森に暮らしたい。

お断りできない理由がある

でも爽やかな職人さんにグイッと押されると、曖昧に笑って「じゃあ、お願いしようかな。」と言ってしまった。去年仕事してもらっているときはあんなに親しげに接していたのに、一年経ってすぐに相手の顔を思い出せなかったという、自分のココロの引け目が大きかった。それもこっちの勝手な思い込みだけれども。

植木屋さんはニコニコ笑って仕事してくれて、うちの周りは散髪したてみたいに涼しくなった。剪定料は即金で払った。そこはポリシーだから。世の中的にはわずかな額でも不急不要のお金である。お金ないのにな。ふぅ。

おいもやさんと私

植木屋さんが帰ってからふと考えた。なんだかこれって、秋から春にかけて、毎週うちを目指してやってくる石焼き芋屋さんから、なぜか私が毎週おいもを大量に買っている構図と同じである。

おいもやさんのおじさんは、夏は競輪と競馬を追いかけての旅暮らしらしい。春の最後の日に「10月になったらまた来るよ。」と言っていた。まだこれからが夏本番だ。今年もおじさんは来てくれるのかな。

そんな感慨にふけっていたら、またピンポーンと玄関が鳴ったよ。

さすがにそれは

はーいとドアを開けたら、白いワイシャツにネクタイをした人の良さそうな小柄な眼鏡のおじさんが立っていた。このおじさんには会ったことがないはずだ。たぶん。

おじさんは品のよい営業スマイルで私を見て、すこし小首をかしげてから言った。

「◯◯互助会の者です。…えーと、お父さんかお母さんは、いますか?」

おじさん、おれ今度43です。お父さんかお母さんってトシでもないと思います。