〝サクラマス増殖事業の放流効果は低いことが明らかになりつつある。資源増殖には天然個体群やその生息環境保全が必要〟という旨が、水産学会誌の論文に明記してあった。
10年前とはえらい違いだと思う。このような言説は以前は業界的にタブーだった。
なぜならサクラマスの増殖事業には、ばく大な税金がつぎ込まれて来た。サクラマスの増殖研究に生涯をかけた先達もいるし、もちろん現在進行形で、よい結果を出そうと、サクラマスの増殖事業でがんばっている方々がたくさんいる。
たとえ事実だとしても、誰だって言いたくないことはあるし、言いづらいことはある。しかし、増殖事業の場合は数字が実態を示す。サクラマスの増殖事業はうまくいっていない。
見えている現実を、関係者がしぶしぶ認める前に、日本の川からサクラマスが絶滅してしまうのは、普通にありえる。
サクラマスはややこしい魚だ。そんなサクラマスを増やすには、天然個体群が自然再生産できる生息環境を保全すればいい。ほっとくのが一番だ。
サクラマスは人間がコントロールできない魚らしいと、公に言える情況を醸成するまでには、それなりの時間がかかった。背景には、各地の多くの人々によるサクラマスへの不断の関わりがあった。
そしてほんとに地味だけど小社が出した一冊の本のもたらした波及効果もある。(と思ってる)。
だから、この本は色々な意味でほんとにほんとに大変だったけど、版元として社会的に意味のある出版だったと信じる。現世ないし後世を、サクラマスと人間にとってよいと思える方向へ、1ミリずらした。