福島第一原発による放射能汚染地域のモミの木に起きた異変についての環境省の調査報告が話題になっている。放射性物質による野生生物への影響は、以前から広く知られていた。関連情報を紹介。
1.原発の敷地周辺ではサクラの花びらの数が違う
水口憲哉・緊急インタビュー〈これからどうなる、どうする〝海の放射能汚染〟 放射能に立ち向かうために知っておくこと〉より(2011年6月15日公開)
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─ チェルノブイリ・アントというフライパターンがあります。ふつうはありえないサイズの、巨大なアリの毛鉤なのです。
水口 それはゴジラが生まれたということでしょう。ゴジラじゃなくても、ほとんどの人が気づかないことに変化が出てきます。たとえば、通常運転している原発であっても、原発は日常的に放射能を空気中へ捨てています。原発の敷地周辺ではサクラの花びらの数が違うという報告があります。
─ 奇形ということですか。
水口 奇形ではなくて異状です。なにをもって奇形とするか、人間なんてある意味では奇形の生物ですよ。社会との関連では、野生生物にひとつの異状が起こったときに、人間にも影響が及ぼされます。
TBT(有機性すず化合物)はもともと貝を殺すために開発された薬品でした。アフリカで兵士が活動するときに寄生虫に悩まされる。その中間宿主の巻貝を殺すためにドイツで開発されたものです。フジツボなどの貝類が付着しないように、船底へ塗っていた。その結果、メス巻貝類のオス化現象(インポセックス)が広く発生しました。
野生生物に出る影響が人間でも同じことが起こるとは限りませんが、考える入り口、出発点にはなります。 TBTでは人間に影響が出る前に防ぐことができた。原発についても、今回のような事故が起こる前に、防ぎたいということで今までやってきたわけだけれど、残念ながら事故が起きてしまった。
汚染の数値が低くても自然のものには放射能の影響は出ています。ゴジラが生まれなければいい、ということではない。原発近くのサクラの花びらの数の変化は、ふつうの人が数えて分かる変化です。小さいけど大きいそういった身近な変化は、だれでも肌身で感じとれます。
むずかしい機器や計算式、誰かが決めた基準値はいりません。それぞれがそれぞれの立場で、これから始まる長い時間を放射能に立ち向かっていかなければならないということです。・・・
〈全文は『フライの雑誌』第93号に掲載しています〉
2. チェルノブイリ原発事故と淡水魚の異変
『淡水魚の放射能―川と湖の魚たちにいま何が起きているのか』水口憲哉2012 より
多くの人々が淡水魚の放射能汚染に関心をもつのは汚染した魚を食べても大丈夫かという自分の健康や生命への影響を心配してのことである。
しかし、被曝した放射線の量が多ければ淡水魚の健康や寿命にも影響している。その事を考えるのに参考になる研究報告を知ることが出来るのは、ヤブロコフ他2名編(2009)『チェルノブイリ・人々と環境に対する惨劇の結果』の中でヤブロコフがロシア語の文献も多数紹介している、10章「生物相に対するチェルノブイリの放射能衝撃」である。
この中のウクライナやベラルーシ、ロシアにおける研究報告は厳しい。
●チェルノブイリ原発冷却貯水池のハクレンの繁殖群で数世代に渡って観察された精液の量と濃度における顕著な減少と精巣の破壊的変化。(ヴェリギンその他1996)
●1986年1-2才のときに被曝しその後長期にわたり低線量の放射能のもとにいたコクレンでは、精巣の結合組織の異常増殖、精液濃度の低下、そして異常精子の数の増加が観察された。(マッケーバその他1996)
●コイの精液や卵に結合している放射性物質のレベルが多くなると、受精率、稚魚数、稚魚生残率などが減少し、奇形の頻度が増加した。(ゴンチャロワ1997)
●ベラルーシのゴメリ州にあるスメルチョフ湖とプリピヤチ川から採取したブリームで核の解体、卵胞膜の厚化、卵母細胞の発生異常、正常な卵母細胞と核の大きさの変化など配偶子形成における逸脱が見られた。この変化は貯水池の放射能汚染のレベルに対応していた。(ペトゥコフとコクネンコ1998)
●惨劇後の始めの時期ひどく汚染した場所ではミミズの成虫が多かったが、管理区域では成虫と幼虫が同量であった。(ヴィクトロフ1993、クリボルツキーとポカルチェフスキー1992)
●惨劇の9年後ひどく放射能汚染した水体のイトミミズで20%が性細胞を持っていた。この種は通常無性生殖を行なっている。(ティツギナその他2005)
原発反対。