あからさまに阿佐谷っぽい細々した住宅街の路地を、ギャルソンを着た(時代だな)小柄なYちゃんが突き進んでいく。(Yちゃん歩くの早いす)。「こっちよこっち」。指さされたのは古ぼけた民家で、看板もなにもない。Yちゃんは慣れた風に一人で引き戸を開けて入ってしまった。(こんなところに寿司やなんてあったのか)。恐る恐る扉を開けると(Welcome my homeと彫った札が下がってる)、コの字型のカウンターがあって真ん中でしゅんしゅんとお湯が沸いている。東池袋の立ち飲み屋でこんなのがあったっけ。Yちゃんはすでにカウンターの向こう側に位置して、何をもたもたしているんだと言わんばかりにこっちを見てる。お客がぎっちり回っているので、Yちゃんの隣りへ行くには靴を脱いでカウンターをよいしょとまたがねばならず、引っ込み思案な私は一見さんの店でそんなえらそうなことはできない。Yちゃんの私を見る目がだんだんきつくなってきた。耐えきれず他の客に目をそらすと、白魚の軍艦巻きを口へ放り込もうとしているところだ。しゃりの上に並んだ白魚が全員ピンクのビキニをつけてサングラスまでして腰に手をあててポーズをとっている。なんで白魚に手足があるんだよ。しかもそんなの食べるなって。Yちゃんは明らかにむくれている。『フライの雑誌』第76号の発行まであと25日。