第五夜

ものすごいオーバーハングの岩をクライミングして深山の温泉宿にたどり着いた。風呂へ入ろうとつづら折りの階段をとんとんと降りていったら秘湯のはずなのにやけに人が多い。ふと振り返ると、私が着いたのは宿の裏口で、表側には国道が隣接しており立派な駐車場があって観光バスが列をなしているではないか。せっかくここまで苦労して来たのにナ。浴場の入り口には「緑湯」ののれんがかかっていた。いよいよ世帯じみてきたぞ。がらりと戸を開けたら大浴場は混浴で(またか)、私はなぜかフライロッドを持って裸のおじいとおばあの群れを目がけてフォルスキャストするのである。
締切前の今は昼も夜もみっちり釣りである。嫌いじゃないけどねえ。