銀行は苦手だ。

やむにやまれぬ用事のために、日野市役所前にある都銀の支店へ出かけた。窓口に痩せたベラみたいな女が出てきて、わたしが依頼した用件は、ここではできない、と言う。女は慇懃無礼をベラにしたような態度で、申し訳なさそうな表情をしてみせながら、その実少しも申し訳ないなんて思っていないのがありありと分かる。

ベラ曰く、ここではできない、他の支店へ行け、ただしそこでもお前の依頼を受けるどうかは〝上役が〟判断する。こういう内容を、もってまわったベラ語で語る。作り笑いとともに。ベラの上役なんかこっちは知るもんか。ベラだからクチビルがでかいや。

ベラのでかいクチビルが右に左にひん曲がるのを見ている内に、わたしは急速に自分の感情を抑えきれなくなった。それを自覚することでさらに昂奮が募り、しまいにはいい歳して中学2年生みたいに「じゃあもういいですから!」と叫んで銀行を飛び出した。そんなわたしの背中に「ありがとうございました~。」という気どったベラの声が突き刺さる。なんたる屈辱。

だいたいにおいて、わたしは昔から銀行が苦手だ。窓口で和やかな雰囲気になった試しがない。嫌だなあと思って窓口に座るから、最初からカウンターを挟んで険悪ムードでのスタートだ。和やかになろうはずもない。イヌだってこっちが警戒したらうーっと舌を出す。

銀行なんていうところは役所と同じで、表づらではした手に出ながら、心の中では自分たちが一番エライと思っている。客は客ではなく自分のシモベみたいなもので、シモベを自分の都合に従わせるのは当然だと思っている。ただ彼らは頭がいいからそれを慇懃にやる。そこが余計に腹立たしさを募らせる。

わたしは赤い看板の銀行を飛び出して、激おこぷんぷん丸のまま道路をたったかたーと歩き出した。そのままかなり歩いてふとポケットに手を入れ、探った。おや、携帯電話がない。さっきの銀行の窓口に忘れたみたいだ。取りに戻らねばならないねえ。

ベラのさらに勝ち誇った顔が目に浮かぶ。

かーっ。

※写真と内容は少し関係があります。

相談するわけでもないのに窓口へ座っただけでドキドキするわたしはどうすればいいですか。
相談するわけでもないのに窓口へ座っただけで気が変になりそうになるわたしはどうすればいいですか。
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