単行本『山と河が僕の仕事場』(牧浩之著)の増刷分、第2刷が完成した。すでに追加注文をいただいている。書店取次の地方小出版流通センターさんへ発送する。宮崎の著者、牧浩之さんへも何冊か贈呈して、続篇執筆のプレッシャーをかける。
先週、牧さんとはたしか、「週明けには原稿ぜんぶできます!」と、電話で話したような気がする。とっくに週明けだが、タイムスリップしたらしい。牧さんの原稿は、編集サイドと互いに意見を出し合いつつ、進められる。そして最後の最後で著者になにかが降臨して、革新的で核心的な要素がボコッと追加される。
「海フライの本」「海フライの本2」「山と河が僕の仕事場1」ではそうだった。『フライの雑誌』毎号の連載ではいつもそうだ。とうぜんスケジュールは遅れるが、そこを受け止められないで、なにが編集者かである。
最新の『フライの雑誌』第110号を出した直後なので、あちらへふらふら、こちらへふらふらと、せわしなく漂っている。いまどれだけふらふらするかで、次号の出来が変わってくる(と信じてる)。
西武線練馬駅でなんとか魚雷さんと会えて、ホンモロコを釣って食べさせてくれる室内釣堀「Catch&Eat」さんへ行って、釣って、うまかった、ところまで書いて、そのままになっていた。
それ以降のメモ。
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練馬からバス便で高円寺へ移動。都内中央線沿線で南北方向の移動はバスに限る。おっさん二人で横に並んで座る。高円寺に着いて、さっそく古本屋さんをめぐる。ある古本屋さんの前で、魚雷さんに「お店に顔ばれしてませんか。」と聞くと、「店長と呑み友達です。」と恥ずかしそうに言っていた。さすがだ。
何冊か買ったところで、小腹がすきましたね、と二人で一致した。そういえば朝からホンモロコしか食べていない。魚雷さんおすすめの「ふつうの」ラーメン屋さんへ入る。カウンターの隣りで少しお疲れな感じのお姉さんが、「ビールとラーメン」を一人で食べていた。かっちょいい。
阿佐谷へ向けて歩く途中で、やはり魚雷さんおすすめの昭和な喫茶店へ入る。「今日は5時で閉まるの。あと30分だけどいい?」とお姉さんに聞かれて、魚雷さんはコーヒー、わたしはチーズケーキセット。お店を出るときにドアを見たら、「火曜定休」と書いてある。今日休みじゃん。魚雷さんによると「そういうお店なんです」とのこと。高円寺感あふれる。
中央線の北側、むかしわたしが住んでいた東高円寺の風呂なしアパートのような、年季の入った建物が両脇に居並ぶうねうねとした小道を、阿佐谷へ向けてうねうねと歩く。21世紀の風呂なしアパートはこの辺りに集中して残っているらしい。こういう町を歩く連れとしては魚雷さんが日本でいちばんふさわしいのではないか。以前秋葉原へ行ったとき、超細身のかっこいいタキシードを着た、男だか女だか分からない美形に呼びとめられて、「秋葉原をご案内しましょう。1時間5000円。」と営業されたことがある。むろんお断りしたのを思い出した。なんであの時断ったんだろう。
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阿佐谷中杉通りを北上して古本屋を何軒かめぐる。中央線界隈の古本屋は火曜定休が多いらしい。念のためにコンコ堂をのぞいたがやはり休み。ちょうど、はす向かいの貸本屋の名物おじさんが、店の前で掃除を始めたところだった。このおじさんはむかしの少女マンガに異様にくわしいらしい。
コンコ堂手前の古本屋さんに入る。このお店は値付けの根拠がよく分からない。日共系の書籍はやたら安いので、その類いを売りたいらしいことはビンビンと伝わってくる。なにか買わないと悪い気がして、「うつにならない食生活」という新書を100円で買う。お店を出てから、「100円でうつにならないなら安いもんです」と調子づいたことを魚雷さんに言って、直後に反省する。
阿佐谷駅についたが、吐夢の開店まで間がある。阿佐谷時代から買っているパールセンター先の豆屋さん、ブラウンチップへ魚雷さんにつきあってもらう。パールセンターを二人でふらふらと歩いてゆく。収穫した古本を入れる用のデイパックを背負った魚雷さんは、歩くときに両足を引きずり気味である。ずりっ、ずりっ、と音がする。一方わたしは単純に足が遅い。女の子にも子どもにも負けたことがない。パールセンターのお店の生々流転をくさしながら、二人でだらんこだらんこと歩く。すべての人々に追い抜かされる。ちょうどいい感じだ。
ブラウンチップで豆を買って駅へ戻り、吐夢をのぞいたらまだ開いていなかった。じゃあ、ということで、スターロードを荻窪方向へ向う。鳥安さんでカモの薫製を買って、さいきんわたしがお気に入りのブネイコーヒーさんへ魚雷さんを案内する。残念なことに今日はお休みだった。ヴィオロンもまだ開いていない。中央線の夜は遅い。また駅へ戻って、もいちど吐夢の通りを見やるとまだ看板がでていない。しかしその辺の呑みやさんへ入る気にならないのは、お互い分かる。
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駅前まで来て、「そうだ、あの喫茶店に行きましょうか。」とわたしが思いついて言うと、「あのブランコの席のある。」と魚雷さんが言って、店の前まで来て「そうそう、gion (ギオン)」。名前が出てこない。おっさん二人で店に入る。ここは中央線でも吉祥寺の「ゆりあぺむぺる」に次ぐ、ラブリーな店だ。お好きな席へどうぞ、とかわいいウエートレスさんに言われてブランコの席、ではなく、それでも充分にラブリーな白いラウンドテーブルの窓際の席に座る。
なんとなく今日買った古本を見せあう。魚雷さんは言うまでもなく古本のそのすじの方である。わたしごときの買った本を見てもらうのは失礼なように思って、今まではいっしょに古本屋さんを回ったあとも、あえて見せなかった。あれ、今日はどうしたのかな。二人のこころの距離が近い。あだち充さんならバックに三葉虫を飛ばす。おっさんだけど。
魚雷さんと朝から二人で待ち合わせしてなかなか会えないで、釣りして散歩してラーメン食べて古本屋さん回って、これから吐夢へ行く。ほとんどデートだ。おっさんだけど。
gionを出て、そろそろ吐夢も開いたかなとお店へ向かうその前に、駅でパスモをチャージする。一万円札をくずしておきたかった。ずっと以前、おつり切れの和子さんをコンビニへ走らせたことがあった。それ以来、知り合いのお店に入る前には、一万札はくずしておくことにしている。
(お店に入るまでで長くなったので、続きはまた来週)
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