認めたくないものだな、二日遅れの筋肉痛など、アイタタ

待ちに待った解禁がやっときて、まとまって出るはずのコカゲロウがパラッとしかでなくて、オオマダラカゲロウのスーパーハッチをみごとに外し、暑い暑いと出渋っているうちにテレストリアルの夏が駆けぬけ、あっというまに、本当にあっというまに、渓流釣りのシーズンが終わった。

秋の入口の一日、今年も秩父の山のなかで、仲間とヤマメとイワナの人工産卵場をつくった。

本来なら放っておいて魚が増えるのが一番だけれど、物理的な諸条件で渓流魚の産卵場所が少なくなってしまっている。そこで人間が手伝って産卵に適した条件の場所をふやし、イワナやヤマメに気にいってもらって卵を産んでもらおう、というのが人工産卵場の発想。

もとはといえば、人間が森を荒らし、ダムとか堰堤とか護岸を乱造し、バンバン殺しまくったせいで魚が減った。だから自然保護だとかコンサベーションだとかといって胸を張れる善行ではなく、むしろ申し訳ないですという反省の気持ちでいっぱいの、刑務作業みたいなものです。

ことしは中津川支流の学沢(禁漁区)につくることにした。もろもろの判断と道具の準備は秩父漁協の人間重機、内田洋さんにすべてお任せ
右奥が内田さん。人工産卵場の技術を日本で初めて確立したのは、現・中央水研の中村智幸さんだ。中村さんが「フライの雑誌」の第46号(1999)から連載を始めた〝イワナをもっと増やしたい〟の記事を読んで、内田さんが地元の秩父で、たったひとりで人工産卵場をつくりはじめたのが2003年。親魚の隠れ場所をつくるといった内田さん独自のアイデアは、今では〝内田方式〟として中村さんも各所で紹介している。10年くらい前から当時のトラウト・フォーラムつながりで釣り仲間のわたしたちも手伝うようになった。まあ正直なところをいうと、手伝うっていうより、邪魔してるに近い
ことし、内田さんが目をつけた場所。流れの構成はわるくないのに、水流が弱く、底に泥と落ち葉がたまっている。このままだと魚が産卵できない。上流部の水落ちをよくして、泥と落ち葉をさらい、底を掘り下げて、産卵に適した砂利を投入するという作業をする。あとで判明したことだが、意外と面積が広くて、とくに砂利集めがものすごくたいへんだった
人工産卵場つくりは多くの場合で、底の掘り下げと砂利集めがもっともたいへん。いまは全国のあちらこちらで渓流魚の人工産卵場つくりが行なわれている。地域によっては、重機で川を堀り、土建業者さんから砂利を購入して、川へ投入して産卵場をつくっているケースもある。その費用を公金で補助するという。そうなると、いろいろ微妙な話になってくる。渓流魚の人工産卵場を世の中へ最初に紹介した単行本『イワナをもっと増やしたい!』(2008)で、中村さんはすでにそういう本末転倒な事態を予測していた。まあいろいろある。水口憲哉さんが言うように、ものごとはらせん階段のようにぐるぐる回って、いい方向へ進んでいく。その川のその場所の砂利を使うのが基本
われわれが砂利集めでモタモタと引っかいていたら、見かねた内田さんが人間重機発動。すげえ早いぞ
約3時間で完成。三つ前のビフォア写真と比べると、見違えるようにキレイになった。こりゃ絶対ここで産むだろ!と思うのだが、え、そんな条件の悪いとこに産むの? せっかくこっちに作ったんだからこっちに産んでくれればいいのに、という悲劇を今まで何回も経験した。こと人工産卵場においては、往々にして人間の思惑はあっさり魚にすかされる。ちなみにいまは少し増水気味。これから平水、減水になった時の水量を予測して、造成場所と造成形状を判断しなければいけません。やっぱり現場での経験がなにより大事
初参加のしみずさんが、泥に埋もれた小淵を見つけた。内田さんに判断をあおいだところ「こっちに作ってもいいだんべー」ということで、追加で作っているところ
二カ所目、完成。こりゃこっちで産むかもしれない。人工産卵場のくわしい作り方は『イワナをもっと増やしたい!』をどうぞ
しごとが終わってスキレット会。さいきんは準備と片付けが面倒な七輪に代わり、家庭用のガスコンロとスキレットでかんたん野外料理することが多くなってきた。労働のあとはなんでもうまい
この区間はこういう看板が川への降り口の全て、なおかつ川沿いの随所に掲げられている。にも関わらずこの日、ルアーロッドを持ち、ビクをぶらさげた二人組が、しかも禁漁区でルアーを投げていた。さっそく内田さんが大声で(ほんとに大声で)道路から声をかけ、お引き取り願った。「知らなかったんです」。そうなんだー
作業がおわったあと、みんなで「こんにゃく食品製造 ふるさと両神」へ。これはカツ丼棒300円。うまい
こんにゃく食べ放題200円、もう食べられません
来シーズンに向けて、川の事前調査中。来年はでかいのたくさん釣ろうぜ。というわけで、二日後のいま、全身筋肉痛でロボット状態です。内田さんはこれから台風シーズンまで、産卵場のメンテナンスと見回り、さらに増設へ精を出すそうです。じぇじぇ(古)
イワナをもっと増やしたい!「幻の魚」を守り、育て、利用する新しい方法
中村智幸(2008) AMAZON
フライの雑誌-第112号 フライの雑誌大特集オイカワ/カワムツのフライフィッシング(2)
身近なビッグゲーム 中村善一×島崎憲司郎 異分野対談 
画家の視線とシマザキワールド 後篇
○ニジマスものがたり 最終回 ─研究者として、釣り人として 加藤憲司
○連載陣も絶好調
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『フライの雑誌』第112号
本体1,700円+税〈2017年7月31日発行〉
ISBN 978-4-939003-71-4 AMAZON
第111号(2017)よく釣れる隣人のシマザキフライズ とにかく釣れる。楽しく釣れる。Shimazaki Flies すぐ役に立つシマザキフライの実例たっぷり保存版! Amazonさんに在庫があります。アイカザイム、マシュマロ、バックファイヤーダン、クロスオーストリッチなどシマザキフライ関連掲載記事のバックナンバーは111号にまとめました。