フライの雑誌◎第110号(2016年12月5日発行)から、トピックス〈「わたしのオイカワ釣り場がつぶされた」、その後の意外な展開、「京浜ワンド」のさらにその後〉、〈中禅寺湖のヒメマス持ち帰り解禁と福島県阿武隈川漁協の対応、原発事故による放射能汚染〉を公開します。
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「わたしのオイカワ釣り場がつぶされた」、
その後の意外な展開、「京浜ワンド」のさらにその後
国のやることだから、公共工事だからと諦めないで、河川管理者へ食い下がり、ねばり強く交渉した。仲間たちの連携と協働の成果だ。全国どこの川でも同じことはできるはずだ。
●2016年5月20日、編集部から徒歩30秒の多摩川支流浅川長沼橋付近に通称「京浜ワンド」が作られた。日を追うごとにワンドの中と周辺には生きものの気配が色濃くなり、6月初旬にはオイカワの幼魚が岸辺に群れた。同中旬からはワンドの中に入ってきたナマズなどを狙う釣り人が通い始め、地元の子供の水遊びの場となった。
●河川敷にショベルカーで掘っただけの人工的なワンドが、たった一ヶ月で新しい生命を育み、地域住民の憩いと交流の場となったことには目をみはった。これこそ現代の都市型河川のありうべき姿ではないか。これから先、ワンドの自然がどこまで深みを増すのかが楽しみだった。
●7/4、大雨でワンド手前左の土砂が流された。増水がおさまった7/22、再び大水。8/16、台風7号。ワンドの半分ほどが崩れた。8/21、台風9号が直撃。一帯に堤防決壊のおそれありとして避難勧告が出されるほどの出水となった。丸3日間荒れ狂った。
26日、ワンドはすでになかった。
●今年オイカワの仔魚に大切な季節の浅川には、地域釣り人が声をあげて国交省を動かして造成に関わったワンドが確かにあった。4ヶ月間の奇跡だった。
●国のやることだから公共工事だからと諦めないで、河川管理者へ食い下がり、ねばり強く交渉した。仲間たちの連携と協働の成果だ。全国どこの川でも同じことはできるはずだ。今回の件で、川にワンドを作る際の反省点、改善したい点を多々発見した。次の機会があればこの知識と経験を活かしたい。
> 浅川長沼橋付近「京浜ワンド」はいかにして誕生し、崩壊したか。
(2016/8/25)
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中禅寺湖のヒメマス持ち帰り解禁と
福島県阿武隈川漁協の対応、原発事故による放射能汚染
自然が人間に与えてくれる恵みと、それを人間の手で汚染する罪深さを、釣り人はよく知っている。原発を再稼働させてはいけないと言い続けよう。原発は、生きる楽しみである釣りの自由を奪う。釣り人に原発はいらない。
●いい話だ。10/20、栃木県生産振興課が、中禅寺湖のヒメマスの放射性物質モニタリング検査の結果、安定的に基準値を下回ったとして、解禁延期要請を解除した。これにより、2017年の解禁と共に中禅寺湖ではヒメマス持ち帰りができることになる。ニジマスとブラウントラウトの釣りについては引き続き持ち帰り規制が継続される。
●ヒメマスの持ち帰り規制の解除により、中禅寺湖での釣りの自由度が改善される。まだヒメマスだけの解除とはいえ、漁協・観光業をはじめとする地元関係者の方々の安堵はいかばかりだろうか。魚種別での採捕規制の検討を、漁協を始めとする関係者が交渉してきた結果であろう。釣り人もうれしい。
●ただし中禅寺湖のヒメマスは、10/14現在、35ベクレル/kg〜54ベクレル/kgのレベルで放射能に汚染されているのは事実である。東京電力福島原発事故より以前では考えられない高濃度の放射能汚染である。1954年のビキニ水爆実験で汚染され、日本で水揚げされた〈水爆マグロ〉は10ベクレル/kgでも廃棄されたことを思い出し、「基準値」の意味を考えたい。
●自然が人間に与えてくれる恵みと、それを人間の手で汚染する罪深さを、釣り人はよく知っている。原発を再稼働させてはいけないと言い続けよう。原発は、生きる楽しみである釣りの自由を奪う。釣り人に原発はいらない。
●淡水魚の放射能汚染に関して、福島県内の渓流釣りは状況があまり好転していない。最新の汚染数値はフライの雑誌社ウェブサイトの「淡水魚の放射能汚染まとめ 」に詳しい。魚がいるのに釣りができない川と湖は福島県水産課のウェブサイトで公開されている。
●釣り禁止はいつ解除されるのか、解除にはどんな条件が必要なのかを、9/8、福島県水産課へ取材した。斉藤課長補佐によると、解除は安定して基準値を下回ることを前提とし、水産庁研究指導課の指導を受けながら県知事が判断する。現在は科学的データの根拠を揃えている段階で、モニタリングの地点がまだ不足しているとのこと。重要なのは調査の地点であり、検体(魚)の量の指導はしていないとのこと。汚染値を計測するための検体集めの作業は各漁協へ依頼している。
●福島県の内水面で最大の管轄流域をもつ阿武隈川漁協は、2011年の原発事故以来、全域で釣りができない状態が続いている。11/4、阿武隈川漁協へこの先の計画をたずねた。「つい先日も2個体で基準値を超えた。エリアごとに解禁する案も検討しているが、持ち帰り規制などの規則を公平に周知徹底するのは不可能で、監視にはお金がかかる。釣り人のモラルとマナーが悪いから統制がとれない。無法地帯になる。逆にどうすればいいか、こっちが教えて欲しい。」(堀江事務局長)
●他人ごとのようだが、漁業権を自ら申請して保持している以上、川と魚の未来を先頭に立って考え汗を流すべきは漁業協同組合だ。阿武隈川漁協には内水面漁協では珍しく専従の職員も複数名いる。阿武隈川漁協は原発事故以来「休業扱い」で、漁場が適切に運営されているかの県からの監査も受けていない(県水産課より)。阿武隈川漁協と福島県はよりよい釣り場のために努力する姿勢を見せてほしい。釣り人は喜んで協力する。
(文責 編集部堀内)