【公開】『山と河が僕の仕事場|頼りない職業猟師+西洋毛鉤釣り職人ができるまでとこれから』第1章〝移住するなら早い方が〟-2(牧浩之)

単行本『山と河が僕の仕事場|頼りない職業猟師+西洋毛鉤釣り職人ができるまでとこれから』(牧浩之著)から、第1章「川崎生まれ、東京湾育ち|移住するなら早い方が」を公開します。

舞台は2011年の新燃岳の噴火です。

(編集部)

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僕たちは予定していた通り、2月に宮崎へ行くことにした。

最初の噴火から一ヶ月もたたないうちに、東京のテレビから噴火のニュースは減っていった。しかし2月に入っても新燃岳の噴火は続いていた。

火山灰の影響で、高原町の養鱒場は隣町へ魚を移したとニュースで見た。川の水質が変わるほどの影響はないだろうが、狭い池では水質の変化があるのだろう。

羽田空港のカウンターで搭乗手続きをすると、風向きによって鹿児島空港へ着陸するかもしれないと告げられた。

フライト中はただ新燃岳が噴火しないことだけを祈るばかりだった。空港で荷物を受け取り外へ出ると、そこには以前と変わらぬ風景があった。

「あぁ、帰ってきたなぁ。」

移住すると強く決めていたせいか、なんだか田舎に帰ってきたかのような気分だった。何ごともなく僕たちはレンタカーに乗り込み、弘子の実家へ向かった。

だが高原町に近づくにつれ、降灰がいかにすごかったかを感じた。火山灰の除去が思うように進まず、集められた灰があちこちに山のように積み上げられていた。

「ヤマメがいたあの川は、どうなったんだろう?」

寄り道をして川を覗いてみた。川はうっすら乳白色に濁っており、火山灰の影響をまともに受けていた。この様子では水質も変わってしまっているだろうし、もしかしたら魚はいなくなってしまったかもしれない。

残念な気持ちで川を見ていたら、突然、魚がジャンプした。

「いた! 魚は生き残って、懸命に川で泳いでいるよ。」

昨年に見た魚と同じかは分からないが、濁りで見えにくいながらもヤマメの姿はあった。噴火という自然の猛威を乗り越えて、ヤマメはしっかり川を泳いでいた。

〝毛鉤の仕事〟は大丈夫?

夜、弘子のお父さんと、宮崎の銘酒「百年の孤独」を飲み交わしながら、色々な話をした。

最初の噴火があったのは夜中のことで、家に車でも衝突したかのような衝撃があったそうだ。普段でも真冬の寒い時期には、鹿児島の桜島が噴火すると高原町にも空振がある。今回は少し大きいかな? と思ったそうだ。

だが翌朝、外には火山灰が積もり、真っ白な世界が広がっていたという。

人生の中で火山の噴火を目のあたりにする機会は、東京で生活していたらまずない。風向きによって降灰する地域が変わるし、風が強ければ広範囲にわたって降灰があった。高原町から40kmも離れている宮崎市内にも降灰した日があったそうだった。

「まぁ、噴火っていっても、灰が降るくらいだからね。掃除は大変だけど、生活できなくなるワケじゃないから心配はいらんよ。ところで浩之君は、こっちに来たら仕事はどうするの? 今の〝毛鉤の仕事〟は大丈夫なの?」

お父さんには、今まで僕の仕事のことをきちんと話していなかった。せっかくの機会だし、真剣に僕の考えを話そうと思った。

「味見しないコックが作った料理を食べたくないと思うのと一緒で、釣りに行かない人が巻いた毛鉤も、使いたいとは思ってもらえないんじゃないかなって。お店はインターネットだから場所はどこでも大丈夫ですし、何より釣り場に近くて、いつでも釣りに行ける環境の方が、僕の仕事にはプラスになると思うんです。」

僕は今までの自分の仕事の経緯や、昔から思い描いていたこと、これからの計画などを包み隠さずに話した。お父さんはうなずきながら聞いてくれた。

翌朝、僕たちは引っ越し先の候補物件を見に行くため、車に乗り込もうとしていた。その時今まで聞いたこともない轟音が鳴り響いたかと思うと、縁側のガラス戸が激しくガタガタと音を立てて揺れた。驚いて霧島連山を見ると、今まさに新燃岳が噴火した瞬間だ。

灰色の煙が山頂から空高く吹き上がり、見る見るうちに大きくなっていく。

「うわぁ、すごい。なんか地球って生きているって感じだよね。」

初めて見る噴火に、僕はただ見入ってしまった。吹き上がった火山灰は風に流され、僕たちの上空を通過し始めた。同時にパラパラという音を立てながら、砂粒のような火山灰が降った。

それまで晴れわたっていたのに、火山灰が陽を遮り、昼間だというのに薄暗くなった。道路を走る車が降ってきた灰を巻き上げ、視界が悪くなった。

ご親戚が貸してくれることになった昔ながらの日本家屋を内見しながら、弘子と話した。

火山灰が止んで青空が広がり、縁側に腰かけた僕たちを、暖かい日差しが包み込んでいた。

「東京の部屋の網戸やベランダの手すりって、排気ガスの煤で真っ黒じゃんか。年じゅう排気ガスまみれの環境より、今の高原町で火山灰まみれの方が、ずっと健康的じゃない?」

「…まぁ、なるようになるか。」

穏やかな表情で弘子が呟いた。こうして僕たちは新たな住居を確保し、正式に宮崎に移住することになった。

引越しは一年後、翌年2月と決めた。弘子はすぐに退職するわけにはいかないし、だったら僕の仕事が忙しくなるヤマメの解禁前に引っ越そうということになった。

東京に戻った僕は残り少ない東京での生活を味わいながら、引越しの日を待ちわびた。

※物語はこのあと、

引っ越す時期を早めよう
3・11東日本大震災
さよなら東京
神話の里の釣りと狩り
「今日は釣れるかい?」
川へ行っていいでしょうか
「野菜をいっぱい食べんしゃい。」
不審人物です
 …

とつづきます。

山と河が僕の仕事場1をお楽しみください。

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山と河が僕の仕事場1、2

 

山と河が僕の仕事場|頼りない職業猟師+西洋毛鉤釣り職人ができるまでとこれから(牧浩之著)

重版出来!

山と河と人が繋がる暮らしは、
こんなにも幸せだ。

川崎生まれの都会っ子が、妻の実家の宮崎県高原町へ、Iターン移住。いつのまにか「釣りと狩りを仕事にする人」になっていた。

「猟師って、暮らせるの?」「生活できるのかよ。」
僕の両親は心配そうだった。そりゃそうだ。

●NHK全国ネット・テレビ宮崎・宮崎放送他に登場、泣き虫のフライフィッシング猟師の書き下ろし! 美しいグラビア、かんたんで美味しい野生肉料理、役立つ山と河のコラムも満載!

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山と河が僕の仕事場2|みんなを笑顔にする仕事(牧浩之著)

狩りと釣りで5年暮らした。
新しい職業猟師のかたちが見えてきた。

鳥獣被害対策で奔走し、
獲物を毛鉤にする。
山と河の恵みで暮らす人生は、
毎日が挑戦の連続だ。

話題の〈山と河が僕の仕事場〉、大注目の続篇!

重版 山と河が僕の仕事場|頼りない職業猟師+西洋毛鉤釣り職人ができるまでとこれから(牧浩之著)
新刊 『山と河が僕の仕事場2 みんなを笑顔にする仕事』(牧浩之著)

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書店向けフライヤー
山と河が僕の仕事場1
山と河が僕の仕事場2