運動会にはいい思い出がない。

運動会シーズン。今もそうだが、子どものころは絶望的に運動が苦手だった。運動会の前夜になると、「宇宙からいん石落ちてこないかな。」と本気で思っていた。いつだって都合よくいん石は落ちてこない。だから運動会にはいい思い出がない。

小学校低学年のときの障害物競争では、いくつかある障害の最後に「ドジョウつかみ」があった。バケツの中のドジョウを手でつかんで、横の入れ物に移すのがミッション。ドジョウ触りたくないとか言ってるやわなやつらを横目に、こっちはそういうのは得意なんで、一瞬でドジョウを移した。誰もいないゴールテープがわたしを待っていた。信じていれば奇跡は起きる。

ところが、ゴール手前のたった20メートルの直線でもたもたしていたら、追いついてきた他の子から集団で抜かれた。唯一の勝利がするりと逃げていった。ゴールテープを一等賞で切る光景を自分はこの先も一生見ることはないと思うと、すこし切ない。奇跡なんか起きない。セカイは終わりだ。God Is Dead.

人気競技のクラス対抗全員リレーとか、だめな子にはほんと地獄だ。自分がバトンを受け取った時に、(あー、あいつだ)と皆さんにがっかりされる人の気持ちは、なってみないと分らない。これから先の人生でつよいのとよわいのがいれば、必ずよわい立場のほうに肩入れしようと、小学校の運動会でこころに決めた。

若いころは膨大なエネルギーを費やして大物を追いかける釣りもしてみた。今はそこらへんの小さいオイカワ釣りがいちばん好きだ。オイカワってあんなに小さくて弱いくせに、やたらと水面のフライへアグレッシブだ。オイカワのサイズが、仮に1メートルあると思ってほしい。スティールヘッドどころじゃない。オイカワにはオイカワなりの意地もある。

昨日のオイカワのフライフィッシングは、流心の向こうの対岸際から出した。満足。

ところででかいブラウントラウトは、ティラノサウルスの生まれ変わりだと思う。

一昨日の雨後の増水時とは魚の着き場が変わっていて、ちょっととまどったが、こっちはどれだけオイカワ釣ってると思ってんだ。
魚釣りでちっぽけな自己実現をしようとしたり、フライフィッシングに全アイデンティティを託したり、うまくいかないリアルな人生の代替えで釣りにのめりこむひとがいる。そういうのつまんないなと思っていたが、伊藤桂一さんを読んでから、好きにすればいいんだと思うようになった。
[フライの雑誌-直送便] 『フライの雑誌』の新しい号が出るごとにお手元へ直送します。第113号差し込みの読者ハガキ(料金受け取り人払い)、お電話(042−843−0667)、ファクス(042-843-0668)、インターネットで受け付けます。次号第114号は6月15日に発行します
フライの雑誌 113(2017-18冬春号): ワイド特集◎釣り人エッセイ〈次の一手〉|天国の羽舟さんに|島崎憲司郎
○〈SHIMAZAKI FLIES〉シマザキフライズ・プロジェクトの現在AMAZON
フライの雑誌-第112号 オイカワ/カワムツのフライフィッシング(2)
フライの雑誌社の単行本新刊「海フライの本3 海のフライフィッシング教書」
葛西善蔵と釣りがしたい』 フライは投げるが人生は投げない 堀内正徳=著

ISBN 978-4-939003-55-4
B6判 184ページ/本体1,500円