村田藤吉とアロハの掟

自慢じゃないが子どもの頃からファッションセンスがない。もう15年以上も、与えられたものを着ているだけである。

先日、なにかの弾みでふと思いつき、

「今まで着たことがなかったが、ぼくは今年の夏、アロハシャツというものを着てみたい」

と意見具申した。すると、

「そっち方面へ行くのか。ならばあたしはもう、あなたの服の面倒はみられない」

とキッパリ言われた。あまりにもキッパリと言われたのでびっくりした。「そっち方面」とはなんだろう。そんな〝領域〟があるのか。特攻(ぶっこみ)の拓?

聞けば、いまたまたま巷のファッションの世界では、アロハないし柄シャツが流行っているらしい。じゃあいいじゃん、おれすごいじゃん、と思いかけたら、ぎゅうっと眉をひそめられた。

「あなたは大きな勘違いをしている、アロハシャツというものは、本人が確固たる意志をもって着ないと、かっこよく見えないのだ」、「あなたにアロハシャツを着る資格と覚悟があるようには到底思えない」

一刀両断である。

わたしの身の回りで、かっこよくアロハが似合っている先輩のお顔を、何人か思い出すことができる。フィフティーズ・アメリカンな感じの方々だ。自分は憧れていたのだ。

ちょっと納得がいかないふうにしているわたしに、ならば教えてあげましょう、と町の散歩を誘ってきた。なるほど、フィールドワークだね。アロハを着たサンプルを町へ観察に行くというわけだ。そういうのわりと得意だ。

一緒に駅周辺を歩いた。ふだん他人の服装はまったく気にしない。その気にならなければ水面のライズだって見つけられないものだ。

フライフィッシャーマンの注意深い視線で観察すると、町には「柄入りのシャツ」を着たおじさんが想像以上に、とてもとても多く生息しているのに気づいた。

そしてほぼ全員のおじさんが、見るからに適当な「柄入りのシャツ」を適当に着て、うろうろとそこいらを往来していたのだった。

そういえばあの村田藤吉もアロハみたいのを着ていたはずだ。そうか、そっちか。〝領域〟が少し見えた。自分も普通に〝メンバー〟にぶっこむところだった。

ただし今回のフィールドは、後楽園ホールと場外馬券売場のある界隈だ。ある意味で特殊な事情の影響もあったかもしれない。

たとえば青山や原宿あたりなら、フィフティーズ・アメリカンな先輩とか、桑田さんみたいにかっこよくアロハを着こなしているおじさんが、ぞろぞろと歩いているのか。

しつこいようだがいま、原宿ではフィッシングベストが流行っている。フィッシングベストにアロハは、さすがにわたしでもちょっとすごいぞと思う。上級者すぎる。それくらいわかる。

今回、気合いがないとアロハは着られないことを知った。

ひきつづき観察を続けたい。ある程度サンプルが集まるまでアロハはお預けだ。(未練がある)

なんてことを綴った直後に、テレビで石原良純さんと長嶋一茂さんがそろってアロハを着ている画を目撃してしまった。

そっちかぁ。

中川一政先生九十七歳御筆
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