【公開】クロスオーストリッチは裏切らない(堀内正徳)『フライの雑誌』第111号特集◎よく釣れる隣人のシマザキフライズより

【特別公開】

クロスオーストリッチは裏切らない
(堀内正徳)

・・・

「フライの雑誌」第88号(2010)で発表されたクロスオーストリッチは、発表と同時に、よく釣れて使いやすいとまたたくまに使い手を増やした。つづく第89号第90号の特集記事も大注目を浴びた。

自然渓流、湖沼、海、管理釣り場、しかも魚種を問わず、安定の釣果と独特の釣り味を持ったクロスオーストリッチ。誰でもすぐにタイイングできるシンプルさとあいまって、いまではすっかりスタンダード・フライのひとつとなった。

かんたんに巻けて、いつでもどこでもよく釣れる、究極のユニバーサル・フライと言える。

島崎憲司郎さん考案のシマザキフライズのなかでもひときわ人気度が高い。

本誌第111号の特集◎よく釣れる隣人のシマザキフライズより、〈クロスオーストリッチは裏切らない〉を公開します。クロスオーストリッチ誕生時の裏話も少しだけ。

・・・

クロスオーストリッチは裏切らない

(堀内正徳/本誌編集部)

昨日巻いたフライが一番釣れる

「昨日巻いたフライがいちばん釣れる」という法則がある。明日釣りに行こう、フライ巻こう、と前夜に泥縄式で巻いたフライが、けっきょく翌日の現場でもっとも働いた経験は、多くの方がお持ちだろう。

健全なフライフィッシャーなら、日頃からフライタイイングにいそしみ、巨大なフライリザーバーを常に満杯にしておきたいもの。だが現実はちゃちゃっと巻いたフライを数本、フライボックスへ入れて持って行く。準備は事前にしておきましょうね。という学校の先生の訓示を思い出す。

この「昨日巻いたフライがいちばん釣れる」法則には、科学的な根拠がある。

第一に、「昨日巻きのフライ」は、上手に巻ける。追いつめられた精神の高揚が、シャウト効果を発揮させ、釣り人に実力以上のタイイング能力をもたらす。ラーメンマンを驚かせた火事場のくそ力だ。釣り人にはもっとも大切な野生の本能である。

第二に、「昨日巻きのフライ」は、使われる。わたしたちのフライボックスに入っているのは骨董品か、何年も発酵させた肥やしだとして、そこへ、新しく巻いたフライが入れば、当然目立つ。釣り場に立って最初につまみ出すのは「昨日巻きのフライ」だ。気づかないフライ、使わないフライは無いのと一緒だ。

第三に、「昨日巻きのフライ」は、新鮮だ。釣り場に立っていなくとも、釣り人は頭のなかで24時間フライフィッシングをしている。そのシーズン、その時点での最も鮮度のいい情報が、「昨日巻きのフライ」には反映されている。

クロスオーストリッチは釣れる

考案者の島崎憲司郎さんは、渡良瀬川と桐生川を地元のホームグラウンドとして、長靴が乾くひまもないほどに釣りに行きまくる日々を長年送ってきた。しかもマス類ばかりでなく、ハヤのフライフィッシングも大好き(第83号参照)というのだから、どうしようもない。

シマザキフライの誰もが驚くバージョンアップの速さは、釣り場と人間による日々のディープラーニングの結果である。その不断の研鑽と検証が、究極のユニバーサル・フライの誕生へ結びついた。

クロスオーストリッチが生まれた背景には、当時の憲司郎さんの個人的な事情が大きく関わっている。第88号のシマザキワールド12にくわしい。

クロスオーストリッチは、とにかく釣れる。ここまで簡単で、どこの釣り場でも安定してよく釣れるフライを、わたしは他に知らない。釣れない魚はいないんじゃなかろうか。だから困った時のクロスオーストリッチ、ついつい。みんなが欲しがる釣り場の最新情報とかのせせこましさを吹き飛ばす独自性がクロスオーストリッチにはある。

島崎憲司郎さんはクロスオーストリッチについてこんな風に言っている。

「最初に巻いたクロスオーストリッチを水に放り込んで下から見た時はびっくりしましたよ。わずかな水の揺らぎにもそよぐ柔らかなフリューとゼリーのように滑らかな透け感! 〈これ絶対釣れるぞ〉と直感しました。…着水するや否やスッと水を含んで水中花のようにフワッと開く。これじゃ釣れない方が不思議ですよね。」(第90号 11頁)

クロスオーストリッチが釣れる本当の理由は魚に聞いてみるしかないが、魚もなんで食うのか分からないままに、つい食っていそう。

構造とマテリアルの特性にくわえ、沈ませ具合をコントロールしやすい使い勝手の良さは、アドバンテージが大きい。タイイングの簡易さは折り紙付きの、究極の「昨日巻きフライ」である。

クロスオーストリッチは裏切らない

クロスオーストリッチは本誌第88号(2010)で初めて世の中に出た。真冬の赤城山麓の管理釣り場フックで島崎さんがやたら入れ食いさせていたフライを、すかさず記事にした。

当日居合わせた平野貴士さんと二人で、「すごいものを見た。あのフライは何だ。」と興奮した。しかもコイルの釣りとセットだったから衝撃は強烈だった。

ブームを引き起こしたクロスオーストリッチは瞬く間にスタンダード化した。クロスオーストリッチを「発見」したのは2010年代の本誌のお手柄だ。

世の中の役に立った。

フックは色々使ってみてどれも釣れる訳だが、初見のときのTMC108SP-BLの16番がやはり一番しっくり来る。クロスオーストリッチ誕生の背景、ご本人によるタイイング解説は、第90号の特集をご参照ください。
絶対に忘れられない魚がここにある。
上のニジマスを釣ったシーン。2013年6月16日、新緑あふれるベストシーズンの道央の中規模河川。北海道の川でままあることだが、条件は悪くないのに天気がよすぎるのか、なぜかドライフライに大きいサイズが出ない。同行の坂田潤一氏はOSPを結んで釣りくだっていた。途中、なんとなく気になった深い瀬を沈めて探ってみようと思い立った。10番ロングシャンクに巻いたタングステンビーズの黒いクロスオーストリッチ。一応コイル仕掛けだったが、フライが重すぎて意味がなかった。ヒットの瞬間はよく覚えていないが、一部始終を見ていた坂田氏に「やっぱなんか持ってるわー。」と道弁でほめられた(?)のが嬉しかった。あと10年ご飯がおいしい。
10番クロスオーストリッチを淵頭へ投げてリトリーブしたら勝手に魚がかかって大喜びの小学生
第90号クロスオーストリッチ大特集
[フライの雑誌-直送便] 『フライの雑誌』の新しい号が出るごとにお手元へ直送します。第113号差し込みの読者ハガキ(料金受け取り人払い)、お電話(042-843-0667)、ファクス(042-843-0668)、インターネッ
で受け付けます。第114号は6月15日発行
島崎憲司郎 著・写真・イラスト「新装版 水生昆虫アルバム A FLY FISHER’S VIEW」
〈フライフィッシングの会〉さんはフライフィッシングをこれから始める新しいメンバーに『水生昆虫アルバム』を紹介しているという。上州屋八王子店さんが主催している初心者向け月一開催の高橋章さんフライタイイング教室でも「水生昆虫アルバム」を常時かたわらにおいて、タイイングを進めているとのこと。初版から21年たってもこうして読み継がれている。版元冥利に尽きるとはこのこと。 島崎憲司郎 著・写真・イラスト 水生昆虫と魚とフライフィッシングの本質的な関係を独特の筆致とまったく新しい視点で展開する衝撃の一冊。釣りと魚と自然にまつわる新しい古典。「新装版 水生昆虫アルバム A FLY FISHER’S VIEW」
フライの雑誌-第114号特集1◎ブラックバス&ブルーギルのフライフィッシング 特集2◎[Shimazaki Flies]シマザキフライズへの道1 島崎憲司郎の大仕事 籠城五年
フライの雑誌 113(2017-18冬春号): ワイド特集◎釣り人エッセイ〈次の一手〉|天国の羽舟さんに|島崎憲司郎
○〈SHIMAZAKI FLIES〉シマザキフライズ・プロジェクトの現在AMAZON

フライの雑誌-第111号 よく釣れる隣人のシマザキフライズ Shimazaki Flies
フライの雑誌社の単行本新刊「海フライの本3 海のフライフィッシング教書」
『葛西善蔵と釣りがしたい』(堀内正徳)
『葛西善蔵と釣りがしたい』(青森県近代文学館所蔵)