ブラックバスを減らせば西湖のクニマスは増えるのか

西湖でブラックバスの漁業権返上へ]というニュース。「絶滅したとされながら再発見されたクニマスを保護するのが目的」、と新聞は書いている。

西湖においてクニマスとブラックバスの生息域が異なるのは明らかになっている。しかしクニマス保護とブラックバス削減の関係性は検証されていない。クニマスにとっては食性が重なり放流数が多いヒメマスのほうが脅威だろう。

ヒメマス、クニマス、ブラックバスの3魚種は、その他の多くの魚種や餌生物との微妙なバランスのもとに、過去数十年以上も西湖で共存してきた。

元をたどれば西湖のクニマスは、1935年(昭和10)に秋田県田沢湖から移された国内移入種だ。西湖の漁業重要種で盛んに放流されているヘラブナも、ブラックバスも、ヒメマスも、ワカサギも、西湖の在来種ではない。

西湖の魚は人間のさじ加減で増えたり、減ったりする。少なくとも人間はそう思ってきた。

クニマスのふるさとである田沢湖のマス類は、第二次世界大戦中の食糧増産と電源開発計画のために、人の手により絶滅させられた。

明治から昭和にかけての田沢湖には、固有の在来サケマスが五種、国内外来種が四種、そして生粋の外来種が四種とまさに湖沼性サケ・マスの万国博覧会の様相を呈し、非常に賑やかなものだった。しかし、クニマスと共に1940年毒水で皆殺しにされてしまった。田沢湖のサケ・マス類は絶えてしまった

自分達の都合でクニマスとやらを皆殺しにしておいて、その半世紀ほど後に絶滅していますとお上が宣い、今になってその血筋が他所で生き延びていました、それはお前達だと言われても本当に迷惑だよ。

✳参照 【特別公開】西湖〝クニマス発見〟の大騒ぎ〈ほっといてくれ。〉(水口憲哉)|フライの雑誌-第92号掲載

人間の営みは勝手だ。クニマスはまず田沢湖で人間に殺された。その人間から忘れられ、放っておかれることで、西湖で70年間も生き抜いてきた。(だけどさかなクンに見つかってしまった。)

西湖からブラックバスを減らして、クニマスが増えるか減るかは現時点で誰にも分らない。クニマスの生態がいまだ解明されていない以上、事前の検証は不可能だろう。

田沢湖に続いて、西湖でもまた、人間が余計な手を入れためにとりかえしのつかない事態を招いてしまった、ということにならなければいいですね。

西湖の「クニマス」
西湖のブラックバス
第92号 西湖〝クニマス発見〟の大騒ぎ〈ほっといてくれ。〉より
第92号 「ただ一本の竹竿(バンブーロッド)2」
魔魚狩り ブラックバスはなぜ殺されるのか 水口憲哉
フライの雑誌社 2005年3月1日初版 ・3月10日3刷

【本文紹介】
第1章「やせがまんが日本の釣りを救う」
ビッグマネー=ビッグフィッシュ?/〈毛鉤発言〉に思う/無謀でばからしい長良川河口堰/”一番おいしいサクラマス“を巡って/原発で事故でもあったのかな/イトウ釣りに未来はあるか/オイカワも棲めない、というヤバさ/釣りと仕事の関係について考える/漁業者の川から釣り人の川へ/やせがまんが日本の釣り場を救う/ワカサギから湖の釣りを考える

第2章「魔魚狩り」
ニジマスは好きか嫌いか/本多勝一氏への質問状/父親はラージマウス、息子はスモールマウス?/メダカ、トキ、ブラックバス、そして純血主義/一億ブラックバス・ヒステリー/「生物多様性主義」という空虚/ブラックバス→琵琶湖→義憤むらむら/捕鯨、外来魚、原発の屁理屈を斬る/ブラックバス駆除騒ぎに感じる気味悪さ/リリースを法的規制するのは、とんでもなくおかしく、間抜けだ/バス問題とサツキマスにおける作為と作意/王様の耳はロバの耳

第3章「お粗末な政治と科学と、外来種新法」
環境を維持すればバス問題も起こらないし、在来魚も減少しない
バスもイトウもウも、みんな濡れ衣を着せられている
ブラックバスという外来魚に、全部責任をおっつけてしまおう
ブラックバスが火あぶりにされやすい5つの理由
ブラックバスを火あぶりにしたい人々、それぞれの事情
めちゃくちゃな議論を展開する研究者
95%の人がバスの特定外来生物指定に反対している
魔魚の烙印は押され、火あぶりの儀式が始まる

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