【公開記事】山﨑晃司さん〈くま博士のクマの本〉インタビュー(フライの雑誌第107号より)

フライの雑誌ー第107号(2015年)から、巻頭インタビュー山﨑晃司さん〈くま博士のクマの本〉を公開します。

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くま博士のクマの本

山﨑晃司さん
東京農業大学 地域環境科学部教授
日本クマネットワーク

✳2015年9月収録

フライの雑誌社では山﨑晃司さんの〈楽しく読めるクマ本〉の刊行を予定している。その打ち合わせも含めて、東京農業大学の山﨑さんの研究室を訪ねた。

本誌人気連載「クマと遭ったらどうなるか」筆者の山﨑晃司さんは、今年3月まで茨城県ミュージアムパーク茨城県自然博物館へ勤めていた。2011年夏休みの特別展〈昆虫大冒険 タケルとケイの不思議な旅〉に、島崎憲司郎さんのシマザキフライを並べたいという山﨑さんの企画に島崎さんが呼応して実現した、世にも珍しい「毛鉤の行動展示」は本誌第94号で紹介している。

千葉県船橋市で田んぼや池を遊び場に育った山﨑さんの学生時代の研究対象はシカだった。アフリカでの2年半のライオン研究を経て、クマ研究を専門とした。日本クマネットワークを立ち上げた研究者の一人である。今年4月に世田谷区の東京農業大学教授へ就任した。

東農大に来てからは休日に自転車で多摩川へオイカワ釣りへ行くのが楽しみだという。バリバリ現役のフライフィッシャーである。

山﨑さんによると、ここ10年以上、クマは全国で毎年約2000頭から4000頭くらいが捕殺されている。これだけ殺されていても、クマが減っているように見えず、分布域はむしろ広がっている。実は日本にいるクマの母数は、予測よりももっと大きいかもしれないという見方もあるのだそうだ。

動物と人間の暮らしとの距離が近くなった現代では、山があればクマがいると思っていいとのこと。

釣り人はクマの棲息域の中へわざわざ自分からちん入していく。釣り人にとってクマはやはりこわい。できれば釣り場で遭いたくない動物だ。けれどクマという動物のイメージに、愛嬌や親しみを覚える人は多いだろう。この二面性は不思議だ。

それこそがクマの魅力であるのかもしれない。

「ある動物を研究する動機は〝好きだから〟でもいいと思います。その動物の仕草をふくめて単純に好きだから、もっとその動物について、深く知りたくなる。

クマの場合は、好きでずっと研究していくと、いつかはきっと自分が研究しているフィールドやそれ以外で、クマと人間との軋轢を目にせざるをえない状況になってきます。それを無視するのは人間としてつらいことでしょうから、どうしてもしがらみにとりこまれる。

10代や20代の若くて一番山を歩ける年代に、人間とのしがらみを抜きにして、クマそのものについて深く突っ込んで研究する、集中できる場と機会を作りたいですね。〝好きだから研究する〟気持ちを担保する環境を整えてあげたい。

もちろんクマだけじゃなくてサルでもシカでも同じです。」

(山﨑さん)

なにごとかをひたすら追究する一流の研究者は、その相貌が対象物にだんだん似てくるものだ。山﨑さんの場合は、こちらの写真で一目瞭然のように、どう見ても〝くま〟である。優しいくま。あえてひらがなで〝くま〟と書きたい。

「この本はぜひ若い人に読んでもらって、次世代への種まきをしたい。そしてフィールドワークの楽しさを知ってもらいたい。」

(山﨑さん)

くま博士のクマの本にどうぞご期待ください。(編集部・堀内)

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✳山﨑晃司さんの『ムーン・ベアーも月を見ている クマを知る、クマに学ぶ』はフライの雑誌社から近日刊行予定です。ご予約受付中。

山﨑晃司さん(東京農業大学 地域環境科学部教授 日本クマネットワーク)

研究室の入り口にクマが

有名な「カウンターアソールト」。クマよけスプレーさえあれば万全かというと、決してそうではないことは、ここまでの連載でも触れている。

これは「クマの糞を洗って内容物を調べるためのフルイ」

研究室の片隅には登山靴とザックが置かれている。いつでもフィールドへ出かけられる。

✳山﨑さんに最近の[クマニュース]を解説していただきました。


【紋別で400㎏の巨大ヒグマ】産経新聞 2015.10.10
●たしかにでかいことはでかいですが、400㎏弱の個体ならこれまでも何回か捕られています。この写真を見ると、体全体がたるんでいますよね。コーン畑に依存していたのでしょう。人間の生活に無関係な野生のヒグマが9月にこんなに太るのはあり得ません。養魚場でマスを食べていたクマ(フライの雑誌ー第102号掲載話)と同じです。(山﨑さん)

【九州でクマ発見か!?】ハフポストニュース

●(第104号掲載「九州のクマに遭いたくて」を踏まえて)ほとんど野生動物を見たことがない人から見た時に、野生動物がどう見えるのかは分かりません。天候やそのときの心理状態によっても見え方は変わります。

●「発見」されたという背振山地域は、残念ですが野生のクマが数十年世代交代できるような自然環境には思えないですし、世代交代しているならもっと数が目撃されているはずです。クマがいるとすれば、飼育個体か、遺棄個体かもしれない。状況証拠としてはクマの痕跡が見つからないので、現実的にはきびしいかなと思います。

●104号に書いたように、こういうニュースが話題になるのは九州にクマが残っていてほしいと思う人が多くいるからでしょう。かといって九州のクマと遺伝子情報が近いクマを入れるとしたら、大反対が起きるでしょう。移入するなら2、30頭を一気に入れないと世代交代は期待できません。(山﨑さん)

『ムーン・ベアーも月を見ている
 クマを知る、クマに学ぶ』(仮)
(山﨑晃司=著)

第115号からの【直送便】はこちらからお申し込みくださいフライの雑誌 第115号 水面(トップ)を狙え! 水面をキーワードにするとフライフィッシングの新しい扉が開く。渓流、湖、海フライ、オイカワ、フロータント研究、バンブーロッドから水生昆虫まで、目からライズの大特集! | 水生昆虫アルバム〈BFコード〉再考:使えるフライ対応 昆虫の浮き方のフライフィッシング的解釈 | ゼロからわかる 漁協ってなんだろう 表紙写真 岩谷一
[フライの雑誌-直送便] 『フライの雑誌』の新しい号が出るごとにお手元へ直送します。第113号差し込みの読者ハガキ(料金受け取り人払い)、お電話(042-843-0667)、ファクス(042-843-0668)、インターネットで受け付けます。第115号は10月14日発行
フライの雑誌-第114号特集1◎ブラックバス&ブルーギルのフライフィッシング 特集2◎[Shimazaki Flies]シマザキフライズへの道1 島崎憲司郎の大仕事 籠城五年
フライの雑誌 113(2017-18冬春号): ワイド特集◎釣り人エッセイ〈次の一手〉|天国の羽舟さんに|島崎憲司郎
○〈SHIMAZAKI FLIES〉シマザキフライズ・プロジェクトの現在AMAZON
フライの雑誌-第112号 オイカワ/カワムツのフライフィッシング(2)
フライの雑誌-第111号 よく釣れる隣人のシマザキフライズ Shimazaki Flies
フライの雑誌社の単行本新刊「海フライの本3 海のフライフィッシング教書」
島崎憲司郎 著・写真・イラスト「新装版 水生昆虫アルバム A FLY FISHER’S VIEW」
〈フライフィッシングの会〉さんはフライフィッシングをこれから始める新しいメンバーに『水生昆虫アルバム』を紹介しているという。上州屋八王子店さんが主催している初心者向け月一開催の高橋章さんフライタイイング教室でも「水生昆虫アルバム」を常時かたわらにおいて、タイイングを進めているとのこと。初版から21年たってもこうして読み継がれている。版元冥利に尽きるとはこのこと。 島崎憲司郎 著・写真・イラスト 水生昆虫と魚とフライフィッシングの本質的な関係を独特の筆致とまったく新しい視点で展開する衝撃の一冊。釣りと魚と自然にまつわる新しい古典。「新装版 水生昆虫アルバム A FLY FISHER’S VIEW」
『葛西善蔵と釣りがしたい』(堀内正徳)
『葛西善蔵と釣りがしたい』