凡人の見た夢の話ほどつまらないものはないが、昨夜のはちょっと面白かったので聞いてください。
プーチンとアベが二つのソファに座って会っている。そこへ通訳だか、何かのアドバイザーとして、わたしが同席している。プーチンの脇の少し後ろに、ロシア方の同じ役のひとがいて、アベの脇の少し後ろに、日本方のわたしが控えている。腹立たしいことに。
なにかのはずみで、プーチンとわたしで、岡山発ウラジオストック行きの太平洋フェリー直行便がなくなりましたね、という話題になった。プーチンは「岡山」をよく知らなかったらしく、どういうところだと聞くのでロシア語通訳を介さず、「フェイマス・オブ・きびだんご」だと、わたしが英語で説明した。
あの便がなくなってから、釣りにはすごく不便なんだよ。わたしの釣り仲間も困ってる。なんとかしてよプーチン。と言うと、プーチンは「ダー、ダー」と言った。「なくなったのはいつからだ」と通訳を通して聞いてきたので、そこはなぜか英語でわたしが「last year」だと答えた。プーチン、「ダー」。
もちろん岡山発ウラジオストック行きの太平洋フェリー直行便なんて、そもそもない。なぜ岡山なのかもさっぱり分からない。とにかく、そういうことなんだよ。(村上春樹風)
そんななか、アベは、プーチンとわたしがアベ越しに盛り上がっているのが、気にいらなかったらしい。プーチンではなくて、こっちを向いて、あの独特の半分にやけた誰もに不快感を与える表情で、「ふぇん?(when?)」と聞いてきた。
だから、last yearだって言ってんだろうに。腹立つ。聞きたければプーチンへ直接聞けばよかろうに、その根性も知性もない。だるまちゃんかお前は。
その後、ちょっとややこしい話になった。プーチンが通訳を通して言ってきた〈50FWGXYX〉という単語が、わたしには分からなかった。聞き返してもひたすら〈50FWGXYX〉と繰り返すだけだ。仕方ないから、アベへ〈50FWGXYX〉とそのまま伝えた。
すると「はああん」と、いかにもなしたり顔になったアベは、よせばいいのに身振り手振りをくわえて、「50FWGXYX!」とプーチンへ言ったものだ。
そのとたん、プーチンが見たことないような笑顔になって大爆笑した。通訳はもちろん、中継していた世界中の記者の人たち、カメラマンさんまで、腹を抱えて笑っていた。わたしも一緒になって笑った。その中でアベは一人だけ、ただニヤニヤしていた。
会談が終わってしばらくして、わたしはアベに呼び出された。なんか怒っている。どうやら、会談の場で自分が世界中の笑いものになったことくらいは、だんだん分かってきたらしい。
「君がきちんと訳さないから、私はそのまま言っちゃったじゃないか。これでロシアとの関係がへんなことになったらどうしてくれるんだ。わたしは総理大臣なのに。」
うるせえばか。でんでん言ってんじゃねえ。とわたしは思ったが、そこはおとなだ。
「世界に笑いのタネをまいたんだから、さすが総理大臣。ノーベル平和賞。自慢の息子。」
と言ってあげると、アベは心底うれしそうな表情になったのであった。
というところで、久しぶりにスカッとした気持ちで目が覚めた。
敬称略。