年末年始は河口湖で過ごすことになっている。父親が亡くなってからはずっとだ。
2020年の年が明けて三日目、二重の厚いガラス窓越しに富士山を眺めながらこたつで寝っ転がっていると、
「正月に釣りしないのは初めてじゃないですか」
と言われた。言ったのは、おとうと分だ。おとうと分とはいえ、わたしよりもずっと社会的にちゃんとしている、頼れるマッチョだ。言われてみればたしかに、かれこれ30年ぶりくらいで、釣り竿を手にしない正月だったかもしれない。
厳寒の富士山麓でも、年末年始に釣りをしたければ釣り場はいろいろある。フライフィッシングなら、釣れるかどうかは別にして、河口湖や本栖湖、忍野の釣り堀であそべる。冬の風物詩であるワカサギ釣りは、山中湖、河口湖、精進湖が最盛期だ。去年の正月は河口湖で大釣りをした。
なのに今年は、釣りをしようとすら思わなかった。マッチョだが、物静かで万事につけ観察眼が細やかなおとうと分に指摘されて、へえ、そうなんだ、と気づいた。自分が出先へ釣り道具を持ってこないこともあるんだな。
というのはうそだ。わたしの車のトランクには常に、2番から6番までのフライフィッシングのタックルが、フルセットで入りっぱなしだ。ワカサギ用の竿だって予備の仕掛けつきで3セットもある。元旦からアカムシを売っている隣町の釣具店も知っている。
だから、釣りしようと思えばできるのに、今年はしようと思わなかったんだな、が正しい。
なんでだかわからない。トシ食ったからではない。たぶん。
富士山の北西面に派手な雪けむりが立っているのが見える。窓の内側に結露が起きている。外はとても寒そうだ。
こたつという底なし沼でフナでも釣ろう。
師曰く、絶対つれないやつ。https://t.co/KsmenWWjCD pic.twitter.com/pK59R7Yl4C
— 堀内正徳 (@jiroasakawa) January 4, 2020