群馬県桐生市にある島崎憲司郎さんの秘密基地、〈シマザキデザイン・インセクトラウトスタジオ〉(群馬県桐生市)へ行ってきた。
秘密基地と書いたが、本当に秘密基地である。出入りできる釣り関係の人間はごく少数に限られているからだ。憲司郎さんはフライタイヤーとしての集大成、「Shimazaki Flies シマザキフライズ」に長年取り組んでおられる。〈シマザキデザイン・インセクトラウトスタジオ〉はその本丸だ。
スタジオに入ることを許された幸運な一握りの釣り人は、スタジオがまるでひとつのエコサイクルをもった島崎さんの聖域であることを一瞬にして覚る。それが分からない人は、そもそも立ち入りができない。
フライフィッシングのギョーカイの規模は、世の中の経済事情からみれば、きわめてちっぽけだ。ちっぽけなだけに、性格が陰湿で矮小な業界ゴロさんたちが巣くう温床になりやすい。そういう人物は他人の才能と努力をねたみ、足を引っ張り、すきあらば成果を横取りし、乗っかってこようとする。
憲司郎さんは、これまでの〈フライの雑誌〉かいわいの文章を読めばわかるように、本来きわめて他人に優しい。マインドはオープンで、楽しいフライフィッシングを皆でよりふかく楽しもうというシェアの精神にあふれている。(あのよく釣れるシマザキフライの数々! わたしたちはおかげでいい釣りをしている。第111号特集参照)
そんな島崎さんなので、ついスタジオへ迎え入れてしまった業界ゴロさんたちには、過去にずいぶんひどい目にあわされてきた。早い話、パクリと誹謗と劣化コピーに悩まされてきた。いちいち相手にするのも人生の時間の無駄というレベルの、まとわりつく便所アブみたいな、といったらお便所に失礼な感じの。
いつしか、〈シマザキデザイン・インセクトラウトスタジオ〉の入り口には、見えない特殊なバリアが張られるようになった。心のきれいな人だけがスタジオの扉を開けて中に入れる。そうでない人はドアノブに触れた瞬間に、バチッ!と弾かれる。家の主人ではなく、ドアノブが判断する。どうしようもない。
いまも時々、へつらい笑いをしながら聖域へ足を踏み入れようとする、心のきれいならざる方がいる。すると即座にドアが敏捷なバネ鋼のように作動して、心のきれいならざる方は3メートルくらい道路側へ吹っ飛ばされてしまう。腰の抜けたその姿をみて憲司郎さんは、(おやおや)ときのどくそうに微笑むのである。
「Shimazaki Flies シマザキフライズ」の経過は、〈フライの雑誌〉で折に触れて記事にしている。TMCフック、シマザキドライシェイク始め、ティムコさんからリリースされてきたいわゆるシマザキもののプロダクツは、フライフィッシングの世界の歴史を変えた。「Shimazaki Flies シマザキフライズ」については、ご本人の取り組み方の位相が異なる。なにより違うのはビジネスでやっていることではないことだ。ビジネスならとっくに大赤字であそこまでやりこめない。
誰のためでもなく、銭かね名誉でやっているのでもない。内面から沸き上がってくる衝動で、どうしてもやらざるをえない「Shimazaki Flies シマザキフライズ」を、島崎さんは“業”と呼ぶ。ひとが生涯をかけて打ち込んでいるしごとを、横から邪魔して掠め取ろうとするなど、まったく卑劣で許しがたい。そんな不届きな者からサンクチュアリを守るために、これからもスタジオのドアノブがしっかり働いてくれることだろう。
編集部はおそるおそる〈シマザキデザイン・インセクトラウトスタジオ〉のドアに手をかけたところ、バチッ!されなかったみたい。よかった。なにしろ秘密基地の中のことなのでどこまで公にできるか分からないが、今回の桐生行きについては〈フライの雑誌〉の次号で何らかの記事にしたいと思います。スタジオで昨日見た誰も知らないシマザキフライズが胸の奥にやきついている。