オホーツクの男が東京へやってきた。
上野には高校の修学旅行で初めてきたとのこと。来るときは飛行機で、帰りは電車(オホーツクの男だから〈汽車〉と言う)だったらしい。「上野はやっぱり〈北〉への玄関口っていう感じがしますよね」と、なぜか少し興奮ぎみだ。
高校生のオホーツクの男は、東京土産で奈良林祥先生の著したかの有名なハウツー本を買った。北海道へ帰る夜汽車のなかで、同級生たちには見せずにひとりで熟読したのだそうだ。そのころ彼女いたの? 「彼女? いません」。それでこそだ同志。
「哀しみ本線日本海とか、北へ帰る人の群れは誰も無口でとか、勝手に〈北〉のイメージ暗くしないでほしいんです。それ北海道民へのヘイトスピーチですから!」
まるで初夏のようなポカポカ陽気の不忍池の畔を、人生最重の身体を揺すって汗をかきかき歩きながら、オホーツクの男は熱く語っていた。
「皆んなに言っといてください、ほんと!」
なんかちょっと違うぞその主張。北海道民のことじゃないべ。
それに皆んなって誰。