クマと釣りできないし、同じゴハンを食べることもできないけど

未開の原始人(ていう表現には今どき問題ありかも)と仲良くなるには、先方が食べているゴハンをいっしょに食べることだそうです。

相手のことをよく知らないと、それだけ猜疑心が芽生え、恐怖心が増大します。嵩じると、あいつらおっかない、不愉快だ、やっつけてしまえ、となったりする。争いは不信と無知から起こります。

おいしいものをいっしょに食べて釣りでもすれば、すぐに仲良くなれてずっと仲良くできます。

このところ、あまりよくないクマのニュースが重なっています。

北海道札幌市でのヒグマ出没では、銃殺処分への一般市民からの非難の声が、役所に何百通も届いているそうです。東北某県でのツキノワグマと山菜採りの人との悲しい事故は、記憶に新しいところです。あの事件の後、ツキノワグマの駆除数が急激に増えました。

クマは強大な動物です。筋肉の詰まった巨大な体躯と、振り上げられた鋭い爪、真っ赤な舌から垂れるよだれ。顎は人の頭蓋骨くらいかんたんに潰せます。

爪と牙で完全武装したマツコ・デラックスさんよりでかい動物が、ウサイン・ボルトさんより速く走ってくると言われれば、そりゃ怖いです。しかもスタミナ抜群だそうで。

ひとたびクマとの軋轢が起きると、出版社をふくめたマスコミは、いっせいにクマへの恐怖心をかきたてる扇動にのっかってきます。ついさっきまで、かわいいプーさん扱いしていたくせに、手のひらをかえしてクマの恐怖を煽ります。

いつも思うのですが、ゆるかわキャラと殺人グマ、扱いに振れ幅ありすぎ。商売とはいえ、ちょっとひどい。

クマといっしょに釣りはできないし、同じゴハンを食べることはできません。そこで、クマのこともっと知ってもらいたくて、こんなノリの、まじめで楽しいクマの本を出版しました。

これから日本の人口は減っていきます。放置すれば、人間生活と野生動物との境界は曖昧になる一方です。クマから尊敬されるのはちょっと難しくても、人はクマの生きる姿へ畏敬の念をもつことはできます。

クマが生きやすい未来は、人にとっても暮らしやすい未来のはずです。

少なくとも、本州でのツキノワグマの分布の最前線は、森のあるところほぼすべてに拡大しているように見える。森があってまだクマの入っていない場所は、もはや、クマの移動が制限されている一部の半島だけかもしれない。

こうした現象は、クマほどではないにしても、イノシシ、シカ、サルも似通っている。イノシシ、シカの場合は、積雪が分布の制限要因と考えられた時期もあったが、今や北陸や東北へもじわりじわりと分布を広げている。

クマを減らせばいいわけではない

どんどん進んでしまった、本州でのツキノワグマの分布拡大への対応として、環境省が最近になって公表した管理のためのガイドラインでは、ゾーニング管理の導入が強く推奨されている。

クマを将来にわたって残していくためのコアエリアを設定する一方、人間活動を保証するためのクマの排除地域も明確に示されたのだ。

すでに、鳥獣保護管理法に則ってツキノワグマの管理計画を定めている全部で21の自治体の内、14の自治体が排除地域の設定を行っている。今後、排除地域では徹底したクマの捕獲が推進されることになる。

これは、仕方のないことである。石川県では、能登半島を排除地域として指定してその侵入を警戒しているが、すでにクマは侵入している可能性もゼロではない。同じことは、関東の伊豆半島でも考えられる。それくらい、クマの動きが早く、行政の対応は遅れがちなのだ。

排除地域を設定せざるを得なくなった背景には、これまで緩衝地帯として働いてきた里山と言われる地域での過疎高齢化が進み、山の利用がなくなり、その機能をもはや果たせなくなったことがある。そのため一部には、里山の再活性化、つまりは山村の再生や創成を考える向きもある。とはいえ、そんなに簡単な話ではない。コアエリアからちょっとでもクマが飛び出せば、そこは排除地域ということがますます多くなるだろう。

ただし、北海道を除いても推定300万頭のシカ、推定90万頭のイノシシと、せいぜい数万頭のツキノワグマを同列に考えて管理を進めることは避けたい。クマは、広く薄く分布しているのだ。九州での地域的な絶滅や、四国での危機的な状況は、人間が本気でクマを減らそうと目論めば、かなりのことができることを教えてくれる。そこが、イノシシやシカとは異なる。

個体数をただ減らせばよいわけでもない。農林水産業被害よりも、むしろ人身事故の発生が皆の心配するところであり、全体の数を仮に減らしても、問題を起こすクマが1頭いれば、事態は悪い方向に向かってしまうからだ。各自治体が現在定めているクマの特定管理計画では、そのような理由により、〈個体管理〉を明記しているところもある。

ところが、この個体管理はそんなに簡単な話ではない。 …

(『ムーン・ベアも月を見ている: クマを知る、クマに学ぶ 現代クマ学最前線』 (山崎晃司著) 7 クマが教えてくれる私たちの未来 7-2 日本のクマ類管理の方向性 から)

そういえば先月、信州へ釣りに行った際、川沿いでツキノワグマの母子三頭に会いました。あっという間に消えました。じつは心臓バクバクでした。山崎さんのように、追いかける気にはとうていなれません。

熱い想いで研究されているんだなと感じました。動物への敬意も。本当にクマの行動の理解が進んでクマが住みやすい、人も住みやすい、になったら良いです。研究の中でのハプニングが面白かったです。

Amazonで新しいレビューをいただきました。同感です。ありがとうございます。釣りも研究もハプニングが面白いようです。

ムーン・ベアも月を見ている クマを知る、クマから学ぶ 現代クマ学最前線」 ※ムーン・ベアとはツキノワグマのことです

月ノ輪新聞 第4649号

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