11月10日(日)、日本クマネットワーク(JBN)さん主催、シンポジウム「たったの16頭!? 四国のツキノワグマを絶滅から救うために」へ参加してきた。
絶滅寸前である四国のツキノワグマについては、『フライの雑誌』誌上の連載、および単行本『ムーン・ベアも月を見ている』において、山﨑晃司さんがくわしく紹介している。人間の活動に追い詰められた結果、いまや生息数はせいぜい20頭内外になってしまっていると言われる。
JBNは崖っぷちに追いやられている四国のツキノワグマの現状を2017年から3年間、集中的に研究した。その成果の報告と共有、これからの保全について広く知ってもらいたいという趣旨のクマ・シンポである。
当日、会場の東京大学農学部弥生講堂一条ホールには、国内外から約二百名の〝クマの人〟たちが集結した。
そんなこんなで、クマの人ならぬ釣りの人のわたしは、『ムーン・ベアも月を見ている』に登場した〈クマの人〉たちの実物に会えて、お話もできたのでたいへんうれしかった。
クマのボス格の山﨑さんが声をかけてくださったおかげで、図々しくもシンポジウムの打ち上げの席にもお邪魔することができた。あこがれのクマの人が何十人も集結している中で、釣りの人は自分ひとり。なかなかこういう状況の経験はない。
じゅうぶん楽しかった一次会だけで失礼しようと決めていたが、帰ろうとしたら山崎さんが「帰っちゃうの?」と言った。その瞳が泉のようにまっすぐで、あまりにもつぶらだったので、二次会まで参加してしまった。
〈クマの人〉たちに興味を持てたのは『ムーン・ベアも月を見ている』を出版したおかげだ。いざ飛び込んでみれば、意外と〈クマの人〉と〈フライフィッシングの人〉には、個人的な繋がりがあった。え、まじで、って感じで世界が広がった。
アカデミックな人中心の集団だから当然だけど、〈クマの人〉たちの団結力はむちゃ高い。世の中に発信力を持ちたいなら、〈釣りの人〉たちも一定程度のまとまりが欲しい。数だけなら釣りの人はむちゃ多いわけだから。
あとあれだ、大多数の〈クマの人〉たちが、ネット上や機関紙などで、画期的な面白クマ本『ムーン・ベアも月を見ている』を、あまり(ほとんど)紹介してくれないのは、意地悪で無視してるんじゃなくて、山に入ってクマを追いかけるのに夢中で、そもそもまだ読んでないらしい、というクマ的な事情が分かった。
それにしても〈クマの人たち〉はなんであんなに、たくさんたくさんお酒を呑むんだろう。あんなに呑む集団に遭遇したのは初めてだ。それがまた皆んな楽しそうに、たくさんたくさんたくさんお酒を呑む。ひそかに勘定してみたら、性比は半々どころか、三分の二が女性だった。釣りの人の集まりではぜったいにない現象である。
近年こういうことを言うと問題になるやもしれず、本質とは関係ないがと一応言い訳をした上でおそるおそる感想を述べると、クマの女の人たちは皆さん美人だった。知的で美しくお酒を浴びるように呑むクマの女の人たち。
二次会では、今日何十回目かの乾杯の後、山崎さんが「ところでまじめな話をしよう」と言って、来年度のJBNの予算についての議論を始めようと試みた。しかし、ないものはないよねと、すぐに行き詰まったようである。すると山﨑さんは、自分から話を振ったにも関わらず、「よし、とりあえず乾杯だ!」と居酒屋の天井へ盃を掲げた。どうにもならない。
後はひたすら楽しそうに連続乾杯していた。すげえな〈クマの人たち〉。
Kさん(雌)は、『ムーンベアも月を見ている』に出てくるクマの女のひとである。会いたかったKさんにも会えた。Kさんを一目見た時から、このひとはなにかに似てる、何かに似てると思っていたら、「こぐま」だった。そう気づいたら、もう完全に「こぐま」にしか見えない。研究対象物に似るのは一流の研究者の証である。
「K、早く酔え。お前は酔っ払ってないと価値がないんだから」
とこちらも酔っ払いかけた山崎さんが笑いながらまた強烈なことを言って、誰かにたしなめられていた。
言われなくてもKさんの足元はふらっとし始めているようである。
そのままそこらへんの森で転がってそう。
こぐまだから。