日本クマネットワーク シンポジウム「たったの16頭!? 四国のツキノワグマを絶滅から救うために」へ行ってきました。

11月10日(日)、日本クマネットワーク(JBN)さん主催、シンポジウム「たったの16頭!? 四国のツキノワグマを絶滅から救うために」へ参加してきた。

絶滅寸前である四国のツキノワグマについては、『フライの雑誌』誌上の連載、および単行本『ムーン・ベアも月を見ている』において、山﨑晃司さんがくわしく紹介している。人間の活動に追い詰められた結果、いまや生息数はせいぜい20頭内外になってしまっていると言われる。

JBNは崖っぷちに追いやられている四国のツキノワグマの現状を2017年から3年間、集中的に研究した。その成果の報告と共有、これからの保全について広く知ってもらいたいという趣旨のクマ・シンポである。

当日、会場の東京大学農学部弥生講堂一条ホールには、国内外から約二百名の〝クマの人〟たちが集結した。

東大農学部の構内。

弥生講堂一条ホール。開場時刻が近づいてくるとともに、いかにもクマの人っぽい人々が三々五々集まってきた。性差は男女がほぼ半々。女性率高いなあと思っていたところ、クマの人たちの釣りの人から見たらびっくりするような実態をあとで知ることになる。

基調講演「野生動物の撮影を通して感じる人と動物の付き合いのあり方」前川貴行さん。「初めてクマと会った時は200メートルも距離があった。でも本能的に恐ろしかった。どうにもならなかったのを覚えている」「本来、日本の国土はクマにとっては生きづらいはずなのに、人間と長い期間共存している」

四国ツキノワグマ保全プロジェクト3年間(2017-2019)の総括、JBN紹介・プロジェクト紹介|大井徹さん。見た目から完全にクマの人。日本は持続可能な開発目標(SDGs)批准国であること。しこうしてクマの保全に対する取り組みはどうか。

現地調査から見えた絶滅の危機にある個体群の現状|山田孝樹さん(特非)四国自然史科学研究センターのとっても分かりやすくて熱いレポート。山田さんたちのグループは四国のクマ研究の最前線で身体を張っている。その活動は『ムーン・ベアも月を見ている』でくわしく紹介されている。山田さんも本文に実名で登場。

打ち上げの呑み会の席では本文で書かれたように〝俯き加減になる〟ようなことはなく、口からバンバン食べ物を飛ばしながら速射砲のように喋っていた。

『ムーン・ベアも月を見ている』の文中ではなぜか伏せ字にされていた山田さんの同僚、Aさんにも遭遇。あなたがAさんですか! なんで伏せ字だったんですか、と伺ったところ、「山﨑さんが気を使ってくれたんじゃないですか」とのこと。よくわからないままに終わった。

四国の人々はクマをどう思っている?|NPO birth 亀山明子さん。四国のツキノワグマに関してアンケート調査を実施。回答者の九割が「ツキノワグマは100kg以上ある」(間違い)。六割が「関心がない」。それなのに五割の人が四国にクマが「残って欲しい」と思っている答えたと報告。

クマの保全が地域にとってメリットになる環境を作ることが大切。兵庫県豊岡でのコウノトリ保全による10億円の経済効果がある地域活性化の成功例を紹介。

日本自然保護協会の出島誠一さんは「支援の輪を広げるための普及啓発の取り組み」と題して、四国のクマが置かれている現状を知ってもらい、クマへの正しい知識を持ってもらうための普及啓発活動の実際について報告。やっぱりどんな活動も参加する人が楽しくないと長続きしないんだなとあらためて実感。

出島さんの〝四国はツキノワグマがクラス世界で一番小さな島〟〝四国にツキノワグマがいる未来を選びましょう〟という爽やかな呼びかけが多くの人の胸に響いたはず。「アイランドベアまんじゅう」の企画は素敵すぎる。出たらぜったい買うし、食べたい。

「個体数を回復させるための生態学的な次の一手」山﨑晃司(東京農業大学)さん。『ムーン・ベアも月を見ている』著者である山﨑さんの報告。

四国のクマの未来を考えるには、50年から100年のスパンが必要。具体的には、50年後に100頭、100年後に四国全体にクマが復活するくらいの長期的視野がほしいこと。そのために、中長期(50〜100年)と短期(20年)の対策を同時に考える。短中期の対策のひとつとしての〈給餌〉について検討。

全体に押し気味のシンポの進行に気を使ったらしく、普段の10倍速くらいのものすごい早口で喋り始めた。持ち時間の最後の方になってふと我に返り、「あれ、なんか時間が余っちゃいますか。」と急にのんびりしたクマっぽい口調になった。会場爆笑。たいへんよかった。

続いて、佐藤喜和さん(酪農学園大学)による「トップダウンとボトムアップの連携による保全策の提案」。「これくらいなら身近にクマがいてもいいよ」と地域の人が思ってくれる〈文化的許容可能個体数〉を上げたい。クマを守り増やしつつ、地域の人の暮らしも守る。SDGs17か条に通じる。地域も、クマも、保全する。今日は全国から約200名もの人々が集まった。熱の冷めないうちにアクションを起こしましょう、というシメの報告。

総合討論。コーディネーターは東京農工大学の小池伸介さん。小池さんは山崎さんの共同研究者として『ムーン・ベアも月を見ている』にも登場している。興味深い内容の総合討論は次号の〈フライの雑誌〉でまとめて紹介予定。

最後に佐藤喜和さんが「3年間かなりの犠牲を払ってきたが四国のツキノワグマを守るためにはまだまだ足りない。クマの専門家はお金が苦手。日本自然保護協会さんとの協働で活動の輪を広げていきたい」と発言。佐藤喜和さんは日本クマネットワークの次期代表になることが決まっている。

そんなこんなで、クマの人ならぬ釣りの人のわたしは、『ムーン・ベアも月を見ている』に登場した〈クマの人〉たちの実物に会えて、お話もできたのでたいへんうれしかった。

クマのボス格の山﨑さんが声をかけてくださったおかげで、図々しくもシンポジウムの打ち上げの席にもお邪魔することができた。あこがれのクマの人が何十人も集結している中で、釣りの人は自分ひとり。なかなかこういう状況の経験はない。

じゅうぶん楽しかった一次会だけで失礼しようと決めていたが、帰ろうとしたら山崎さんが「帰っちゃうの?」と言った。その瞳が泉のようにまっすぐで、あまりにもつぶらだったので、二次会まで参加してしまった。

〈クマの人〉たちに興味を持てたのは『ムーン・ベアも月を見ている』を出版したおかげだ。いざ飛び込んでみれば、意外と〈クマの人〉と〈フライフィッシングの人〉には、個人的な繋がりがあった。え、まじで、って感じで世界が広がった。

アカデミックな人中心の集団だから当然だけど、〈クマの人〉たちの団結力はむちゃ高い。世の中に発信力を持ちたいなら、〈釣りの人〉たちも一定程度のまとまりが欲しい。数だけなら釣りの人はむちゃ多いわけだから。

あとあれだ、大多数の〈クマの人〉たちが、ネット上や機関紙などで、画期的な面白クマ本『ムーン・ベアも月を見ている』を、あまり(ほとんど)紹介してくれないのは、意地悪で無視してるんじゃなくて、山に入ってクマを追いかけるのに夢中で、そもそもまだ読んでないらしい、というクマ的な事情が分かった。

それにしても〈クマの人たち〉はなんであんなに、たくさんたくさんお酒を呑むんだろう。あんなに呑む集団に遭遇したのは初めてだ。それがまた皆んな楽しそうに、たくさんたくさんたくさんお酒を呑む。ひそかに勘定してみたら、性比は半々どころか、三分の二が女性だった。釣りの人の集まりではぜったいにない現象である。

近年こういうことを言うと問題になるやもしれず、本質とは関係ないがと一応言い訳をした上でおそるおそる感想を述べると、クマの女の人たちは皆さん美人だった。知的で美しくお酒を浴びるように呑むクマの女の人たち。

二次会では、今日何十回目かの乾杯の後、山崎さんが「ところでまじめな話をしよう」と言って、来年度のJBNの予算についての議論を始めようと試みた。しかし、ないものはないよねと、すぐに行き詰まったようである。すると山﨑さんは、自分から話を振ったにも関わらず、「よし、とりあえず乾杯だ!」と居酒屋の天井へ盃を掲げた。どうにもならない。

後はひたすら楽しそうに連続乾杯していた。すげえな〈クマの人たち〉。

Kさん(雌)は、『ムーンベアも月を見ている』に出てくるクマの女のひとである。会いたかったKさんにも会えた。Kさんを一目見た時から、このひとはなにかに似てる、何かに似てると思っていたら、「こぐま」だった。そう気づいたら、もう完全に「こぐま」にしか見えない。研究対象物に似るのは一流の研究者の証である。

「K、早く酔え。お前は酔っ払ってないと価値がないんだから」

とこちらも酔っ払いかけた山崎さんが笑いながらまた強烈なことを言って、誰かにたしなめられていた。

言われなくてもKさんの足元はふらっとし始めているようである。

そのままそこらへんの森で転がってそう。

こぐまだから。

ムーン・ベアも月を見ている クマを知る、クマから学ぶ 現代クマ学最前線」 ※ムーン・ベアとはツキノワグマのことです

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