自分は脳の何らかの機能欠如で、どんなに面白かった映画、小説、マンガでも、覚えていられるのはフレーム、フレーズ、コマ単位だ。誰かに作品の感動を伝える時は、あれよかったよ!で終わる哀しみ本線日本海である。だから、物語の全体をいつでも時系列に沿ってわかりやすく他人に説明できる、お話しおじさんや歴史おじさんは、本当にすごいと思うし、憧れる。
具体的には友人の大谷さんとかすごいぞ。本職はライターの大谷さんは、インタビューするときにテープを回さない。その場の記憶だけで、テープ起こしするよりもはるかに生々しく、取材相手も納得する密度の濃いインタビュー記事を書くのである。(若い頃の話なので最近どうかは知らない)
もう15年以上前だと思うが、大谷さんといっしょに会津へ釣りに行った。その道中の車内で、会津行きということでもあり、ふと山田風太郎の明治ものの話題になった。すると大谷さんはハンドルを握ったままスラスラと、幕末の新撰組と京都守護職の関係性、会津藩の悲哀と愛すべき頑固さなどについて、朝までずっと生レクチャーしてくれたのだった。
夜明け前に会津へ着いて、そのまま鱒沢川あたりを釣りのぼった。いい季節だったが、長州藩の裏切りに腹を立て、松平容保の苦悩に想いを馳せるなどしながらフライを投げていたから、魚はあまり釣れなかった気がする。
スマホなんかなかった時代だ。