葛西善蔵の〈雪をんな〉は、小品ながら葛西作品の中でも読みやすく、人気がある。(人気が高い、と書くのには気がひけるくらい読まれていない気がする。そもそも「人気」の目安とはなんなのだろう)
2017年の夏、青森県近代文学館が開催した「葛西善蔵生誕130年特別展」へ行った。今思うとただひたすら申し訳ないのだが、特別展を企画した文学館のTさんには、『葛西善蔵と釣りがしたい』を館内に展示していただいたばかりか、わたしの素人考えの善蔵話にお付き合いいただき、館内を案内までもしていただいて、とても楽しかった。青森行って本当によかった。
その青森県近代文学館の文学専門主幹Tさん、竹浪直人さんが手がけた葛西善蔵の〈雪をんな〉論が、弘前大学出版会から出版された大冊『青森の文学世界 〈北の文脈〉を読み直す』に掲載された。
葛西善蔵は弘前生まれ。東北出身で青森県近代文学館勤務の竹浪さんならではの、津軽の雪女伝承からの〈雪をんな〉の新しい検討がとても興味深かった。小説家は筆先の一字一句を選ぶとき、みずからの血を絞りだすように呻吟するという。そうか、善蔵さんも、じつはここまで深く考えて〈雪をんな〉を書いていたのか、と初めて知った。やっぱりただの酔っ払いじゃなかった。
「発表時、文壇で話題にならなかった可能性が高い」(本文より)、でも発表から100年以上過ぎているのに一部の人々からはいまだに繰り返し読まれている〈雪をんな〉は、青空文庫でも読めます。