「一通の手紙から フロリダの釣り友だちとの30年」より、「宛先のない手紙」「スピードスティックの誕生地」(フライの雑誌-第119号)

フライの雑誌-第119号掲載

一通の手紙から
フロリダの釣り友だちとの30年

Florida ─ Iida City

塩澤美芳さん(89歳/株式会社天龍会長)
Dr. Tom Birdwell(Fly Fishers of Northwest Florida)

まとめ 本誌編集部

一通の手紙から より

1930(昭和5)年生まれの塩澤美芳さん(株式会社天龍会長)は、黎明期の日本ルアー&フライフィッシングを開拓したレジェンドだ。

本誌第101号(特集◉日本フライフィッシングの軌跡Ⅳ)では、塩澤さんへのロングインタビューを掲載した。

釣り具業界に関わることになったきっかけと、戦後すぐの六角竿の製造販売から、グラスロッド、カーボンロッドを開発、ひろく展開して現在に至るまでの貴重な記録でもある。

今号では、御年満89歳にしてなお国内外の釣り場を飛び回る塩澤さんの、フライフィッシングを通じた、不思議で心温まる30年にわたる海を越えた友情を紹介します。(編集部)

宛先のない手紙

…「見ず知らずのアメリカ人から手紙が届いて、日本でフライフィッシングをしたい、と書いてあるわけです。もらった方は戸惑いますよ。

事務所の人が『こんな手紙が届いたんです』と、当時長野ガバナー(ロータリー支部の取りまとめ役)の幹事をしていた私に見せてくれた。私が釣り道具の会社をやっていると知っているわけですから。」

後から分かったことだが、トムさんは地元フロリダのフライフィッシングクラブ、〈フライフィッシャーズ・オブ・ノースウエスト・フロリダ〉のメンバーだった。かつて朝鮮戦争、ベトナム戦争時代にアメリカ軍の軍医として、日本に暮らしていたことがあった。

「トムは同じ手紙を日本国内各地のロータリー事務所へ同時期に送っていたらしい。通販のダイレクトメールみたいにね。

日本にいたころに行きたかった釣り場へ、時を経て行きたくなったんだろうと思うんです。だから、誰か案内してくれませんかと、当てずっぽうで手紙を送ったんでしょう。

手紙を見ると、ペンサコーラの住所じゃないですか。ペンサコーラといえば、私にはたいへんな思い入れがある街なんです。だから、この人を案内するのは俺しかおらんよ、と言ったわけです。それがトムと私とのおつきあいのなれそめです。」

スピードスティックの誕生地

…「独立して五、六年のときに、事務をやってくれていたおじいさんが、大丸百貨店に勤めている自分の従兄弟を紹介してくれた。会いに行ったら、自分には仕事になるようなものはないけれどと言って、大阪本社の海外仕入れ事業部(のちの大丸興業=ダイコー)を紹介してくれて、安井英雄さんと知り合いました。

安井さんから日本の竹を買っていた顧客のひとつが、アラバマ州のルー・チルドレ社です。クラッピーやブルーギルを釣るには、竹のノベ竿がいい。そこで私がグラスファイバーで作ってみませんかと、代表のルー・チルドレに提案しました。

最初に作ったのは、9フィートのフライロッドで、テレスコピック(振り出し式)です。試作品をルーに見せたらノベ竹の感じに一番近いぞと喜んでくれた。ルーも、革新的な考えを持っている男でした。わたしが作ったブラックバス用ロッドを気に入ってくれて、これを量産しようとなりました。竿の素材、アクション、部品を全部、新しい発想で一からデザインしました。」

名竿と名高い天龍製の初代スピードスティックの誕生だ。1967年に最初に行って以降、塩澤さんは竿の開発と販路の拡大のため、多い年では年6回もアメリカを訪れている。

ツテもなく、広大な北米を単身で車を長距離走らせ、飛び込み営業を行う。いわれのない差別を受ける時もあった。現在の株式会社天龍の礎となる日々だが、その厳しさは容易に想像できる。

「ルーの会社はアラバマ州ですが、ペンサコーラの空港から車で1時間の場所でした。アメリカへ行き始めた頃にいちばん通った空港です。」 

─ 往時から20年がたって、ペンサコーラの名前が塩澤さんの目に飛び込んだ。

塩澤さんとルー・チルドレさんが開発した初代スピードスティック。

それまでなかったファストテーパーを実現し遠投力と引き上げパワーがあった。なおかつ繊細なアタリもとれると評判になり大ヒットした名竿。ブランク、ガイド、グリップの全てで、国内外の最先端の素材とアイデアを取り込んだ。「TENRYU・JAPAN」の文字が書かれている。

下右写真 中央がルー氏、右端が37歳の塩澤氏。国内でも海外でも、臆することなく営業の日々を繰り返すうちに、釣りを通じて人の輪がどんどん広がっていった。「なんでか知らん、私は皆さんにかわいがってもらえたんです。ありがたいことです。」と塩澤さんは笑顔を見せる。

一通の手紙から より)

中面カラー、8ページ。全文はフライの雑誌-119号でお読みください。

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