2012年発行の、『フライの雑誌』第97号特集◎釣り人の明るい家族計画より、編集部コラム「本誌関係者の離婚率を調べてみました」を転載します。(男性目線なのが多少気になります。)
現在の自分の情況をかんがみて冷静に読み返すと、首の後ろあたりからイヤーな冷や汗がじわりとにじみ出てくるのは、なぜでしょうか。
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[緊急調査]
本誌関係者の離婚率を調べてみました
堀内正徳 (本誌編集部)
失敗したと思えばリセットすればいい。
釣りの邪魔になる結婚ならポイポイだ。
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小田扉の『江豆町―ブリトビラロマンSF』(太田出版)は架空の町、江豆町に暮らす登場人物たちが織りなす全12話の人生模様からなっている。
主人公らしい主人公はおらず、灯籠に映った回転木馬のように作品世界が淡々しく巡る。その透明感はフォークナーが父と呼んだ20世紀初頭の作家シャーウッド・アンダーソンの代表作『ワインズバーグ・オハイオ』のようでもある。上質なギャグ漫画です。
収録話〈ドリームバリュー〉には結婚サギ常習の女が登場する。この女はだました相手と毎回本当に結婚しており、離婚歴10回(それでは結婚サギにならない)。
サギ女と知らずにつきあっていた独身の中年公務員の高木さんは、女の正体を人に知らされ、公園に連れ出して怒るでもなく言う。─
「びっくりしたよ。有名な結婚サギ師なんだってね。結婚サギ師のくせに離婚歴が10回もあるとか」
対して、「ばれちゃったんだね。─あんたとは本当に結婚するつもりはなかったよ」
平然とうそぶく女。
高木さん、おだやかにつづける。
「今まで目的を忘れて好きになった人がいたんじゃ…」
女、「…まあ、私も人間だからね」
あっさり認める(サギ師失格)。
「それが君の恋愛の仕方なんだよ」
あくまで諭すような高木さんに、女はイラついて頬を染め、声を絞りだす。
「何なのよ、一体。離婚10回って全部私が捨てられてるのよ!!」
高木さん、トドメのように
「僕はだまされたけど君といた時間は価値があったと思う」
女、「…」
恋愛と結婚のあわいを流れる深い谷で、魚でも釣ろう。
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いま日本ではおよそ2分に1組の夫婦が離婚しているそうだ。離婚歴10回まではめずらしいとしても、釣り人の夫を持つ家庭の離婚率はおそらく平均より高い。
その理由を思うにまずひとつ、釣りという趣味はふつう自宅ではできない。釣りをするためにはどうしても家を出て、川なり湖なり海なりの水辺へ出かけていく必要がある。
するとその間は家を留守にするわけで、たまにならまだしも休みの日ごとに何回も重なってくると、残された妻は「あの人にとってあたしたちってなに?」と余計なことを思いはじめ、それでも釣りに行くと破裂してついには離婚される。
ならば、釣りに行かない時でも頭のなかで遊べますがウリの、我らがフライフィッシングはどうか。
さらにたちが悪い。なぜなら、フライフィッシャーは家にいるあいだもずっと脳内で釣りしてるようなものだから。
毎夜フライタイイングにでも入れこもうものなら家族の会話なんか一切ない。しかもフライフィッシャーには理屈っぽいのが多いから、追及されてああだこうだと言い訳しているうちに「ええい、あんたうざい」となって、やっぱり離婚される。
フライフィッシングなんていう魔境に突っ込んだら最後、どのみち離婚されるのである。
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創刊以来、本誌に寄稿してくださっているライターさん(プロの書き手はほぼゼロ。皆さんただの釣り人)の住所録がいま手元にある。その数はおよそ軽く2000人を超える。編集部はライターさんの多くと個人的なおつきあいがあるために、相手のご家庭の事情をある程度把握している。
試みに、過去10年間におつきあいのあったライターさん(男性、30歳〜60歳くらい)のお名前を端から拝見して、独身に○、既婚に□、離婚経験者に×(数字は離婚の回数)をつけて、皆さんの婚姻状況をいちいちチェックしてみた。大きなお世話だがそういう企画なのでごめんなさい。
□ □ × □ ×2 × □ × ○ ×2 □ × □ ○ ×2 □ □ ○ □ ○ ×2 × □ × □ ○ □ × ○ □ × □ □ □ ×3 □ × □ ○ ○ □ □ ×2 □ ○ □ ×3 □ □ ×2 □ ○ × □ × ○ ○ □ □ ○ ○ □ × □
たったこれだけ書き出しただけでも、本誌関係者の離婚率と独身率が高いのは充分わかった。これから怪しそうな離婚予備軍や別居組、事実離婚組もかなりいるので、潜在的な離婚率、独身率はさらにあがるだろう。
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実際のところ、法律上の婚姻関係に行政上の損得が絡んでくる国は、先進国では日本はめずらしい部類らしい。アメリカでもフランスでもニュージーランドでも、皆さん自由きままに、くっついたり別れたりまたくっついたりしている。
失敗したと思えばリセットすればいいだけの話。子どもがいたとしても、親はなくとも子は育つ。子どもより親が大事と思いたい。
S・アンダーソンも結婚と離婚を繰り返したひとだった。パパ・ヘミングウェイは4回も結婚した。松田聖子はついこのあいだ50歳で3回めの結婚をした。堀ちえみは3回結婚して今は連れ子含めて7人の子どものママをやってる。幸せそうだ。
結婚はしょせん紙切れ一枚の契約書だ。人生でいちばん大事な釣りのじゃまになる結婚なら、こっちからポイポイである。捨てられ上等だ。すでに崩壊している家庭に未練たらたらな中年男ほど見苦しいものはない。
釣りとアタシとどっちが大事なのよ、だって?
ばか言ってんじゃないよ。
お前に決まってるだろ。
(了)
※2016年10月追記
↑ ここで「釣り」と答えちゃったフライマンを3人知っている。結果は言うまでもない。