公開記事
[サバイバルです]
◎インタビュー 島崎憲司郎さん+ 山田二郎さん
◎ナビゲーター 小林隆子さん(FM桐生)
FM桐生「You’ve got Kiryu!」
2020年3月30日放送分から書き起こし
川で遊んだ子供の頃の感覚を、ずっとどこまで
保っていられるかが、フライタイヤーとしての
目標なんです。(島崎)
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─ 3月30日月曜午後五時のゲストは、フライタイヤーでフライフックデザイナーの島崎憲司郎さん、そしてもうお一方、アシスタントの山田二郎さんです。今日はシマザキデザイン・インセクトラウトスタジオへお邪魔しました。こんにちは、お久しぶりですね。
島崎憲司郎 どうもこんにちは。島崎憲司郎です。世の中は大変なことになっていますね。私は10年くらい前からここに籠城して、世捨て人みたいに世の中から一定の距離をとっています。実務のほうは山田に任せてるんです。
─ 隠れてるんですね。
島崎 メディアに載るようなこととはまったく違う内容を10年以上やり続けているんですが、そっちが面白くてね。5年前のイベント(編注:〈フライフィッシング・ファンミーティング2015〉本誌第104号に記事)で、これが最後のタイイングデモです、と申し上げたんです。海外からのオファーなどもすべてお断りしています。お声がけいただくのは、ありがたいお話なんですけどね。出ないのが芸風みたいになってきちゃった。
雑誌の連載も一切やりません。メジャーなところにもめったにでない。「フライの雑誌」っていうマイナーな雑誌にはウマがあってたまに出るんですけど、鼻につかないぐらいにしておく。たまにどこかへ出ておかないと、あいつもう終わりましたから、なんて陰で言うのがいますからね。ところがとんでもないですよ。今やっていることは、いずれ〈シマザキフライズ〉でまとめて発表するんですけど、これが出たらびっくりしますよ。誰も見たことがないユニークなアイデアばかりです。こっちが好きで楽しんでやっているのにね、足を引っ張る人は出入り禁止にしました。
─ ふふ。FM桐生はマイナーな放送局なので、ありがとうございます。
島崎 ジャンル違いはいいんですよ。結局自分にとって何に価値があるかと考えると、時間です。なにも予定がなくて、ぼーっとしている状態がいちばん好きですね。本でも読んで、うとうとして、ギターでも弾いている、それが最高です。私の場合。
支配のことを英語でコントロールっていうでしょ。子供の頃から、この列に並べ、先生の言う通りにやりなさい、そういう風に縛られるのが大っ嫌い。自分の好きな時に好きなことをやる。昔からどの国でも支配者、お殿様の都合がいいようにシステムを作りますよね。早寝早起きしなさい、いっぱい子供を作りなさいとかね。
─ それはわかります。でも悪いことばかりじゃないですよね。
島崎 そう。世の中じゅうが私みたいになったら大変です。だから善男善女の皆さんにできるだけご迷惑がかからないように、自分のことは河原の者と言っているわけです。身のほどはわかってますから。
フライタイヤーは目を酷使します。私も今までさんざん痛めつけてきましたから、性能的にはあと2年くらいでしょうね。目が悪くなってからでは作れないものがあるから、その間に作れるものを作っておく。2年間は世の中を煙に巻いておこうと思いまして。世間からはバカだと思われているくらいのほうが気楽で、好きなことをできます。
たとえばこれ、ファッションウィッグっていうんです。若い人が遊びでつけるやつです。スタジオをリフォームした時、メタル製のラックへ丸刈りの頭をぶつけてケガしちゃったんです。そうしたらダンスをやってる私のコレが「ラテンのダンスで使うものだけど、危ないから被ってなさい。」ってプレゼントしてくれたんです。定価で6800円。メッシュでできてるから、釣りに行く時も帽子よりこっちのほうが軽いし、濡れても10分で乾いちゃう。誰が見ても安物のウィッグ。そのチープ感がいい。犬にこんなのがいますよね。
─ お似合いですよ(笑)。
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島崎 桐生タイムスの青木修さんと「フライの雑誌」の堀内編集長と居酒屋の「どん」で三人で打ち上げした時、堀内編集長が「それすっげえイケてますよ。」って言ったんです。その写真が雑誌へ小さく載ったら、けっこうウケちゃった。両毛漁協の中島奈緒美さんがSNSに写真を載せて、また楽屋ウケした。隠してるわけじゃないから皆さん面白がってくれます。あんまりウケるものだから無隣館の館長も欲しくなって、同じのを買ったんですって。だけどお孫さんにイエローカード出されちゃった。「おじいちゃんじゃなーい。」だって。
─ ふふふ。
島崎 大きな会社の外回りの方は、ほとんど丸刈り禁止なんですってね。でもアマゾンやグーグルのCEOは丸刈りじゃないですか。グーグルの服飾規定は、着るものは裸以外はなんでもいい、だそうですよ。
うちのスタジオに来るデザイナーさんはみんなアップルを使っていますね。今はウィンドウズもデザインに使えますが、もとはアップルのスティーブ・ジョブスがなかったものを考えだしたわけでしょ。あの人が言ってることは面白い。私は前からアップルが好きなんだけど、コンプレックスがあったんです。
─ なんでですか。
島崎 自分で否定しちゃったことがあるんです。『水生昆虫アルバム』で〝大事なことはコンピュータの中には書いてないんだ。〟みたいなことを、当時いきがって言っちゃった。だから自分ではずっと使わなかった。(笑) うちの山田には、アイフォン、アイパッド、アイマック、マックブック、アップル製品はぜんぶ最新のフルスペックで持たせてますけど。
文字の入力はアイフォンの音声入力です。ブラインドタッチの7、8倍の速度で入力できますよ。誤変換がありますから、親指シフトのキーボードで直す。私は昔から親指シフトなんで。修正したテキストをグーグルドキュメントに保存して、クラウド経由でデバイス間で同期してるんです。ここまでぜんぶ山田二郎がやります。教え込んでありますから。
─ 二郎さんすごいですね。(笑)
島崎 我々の年代だと、ITは鳳仙寺(桐生市梅田町)の坪井大僧正のようにリテラシーがものすごく高い人か、全然ダメな人かのどっちかですよ。
俺はITは死んでもやらねえ、と言ってる同級生がいたの。名前はとくに伏せますけどね。(笑) そんなこと言わないで試しにやってごらん、とウィンドウズの古いパソコンを貸したら、どこかのエッチなサイトを見たらしい。見てる途中でフリーズしちゃった。フリーズを解決するにはいろんな方法があるんだけど、彼は慌てちゃってコンセント抜いちゃった。それやるとぜんぶ履歴が残るんですよねえ。
─ やりそうですねえ。(笑)
島崎 そういう世の中なんですよ。(笑)
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─ タイムリーな話題もいれましょう。コロナウイルスについて島崎さんはどのようにお考えですか。
島崎 経済を含めて世の中のシステムが脆くて案外大したことなかったな、とみんなが分かってしまいましたね。これから当分大変なことになります。でもこれを教訓として、革命的によくなっていくことがあるかもしれません。戦争はバーチャルですればいいですよ。××××と×××どっちが勝つか、みんなで賭けたりして。
テキスタイルデザイナーの岡野優さんとやりとりして、今いちばんクリエイティブなアクションは、生き残ることですね、と一致したんですよ。サバイバルです。生き残っていないと作りたいものを作れないですからね。山田もそう言ってます。
─ 去年(2019年)12月にお会いした時、島崎さんはコロナウイルスの流行を予告してらっしゃいましたね。
島崎 外国の情報をチェックしていれば日本でも絶対パンデミックになると分かります。日本政府も知っていたと思いますよ。でも東京オリンピックがあったからね。オフレコですけどオリンピックは利権の塊でしょ。本当は興味ない人がほとんどじゃないですか。いらないよ、って。これを機会にオリンピックは一部のやりたい人でやってもらえばいいんじゃないですかね。オフレコですけど。
─ あらあら、どうしましょう。(笑)
島崎 ピー、って流しといてください。
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─ そろそろお時間になってきました。山田二郎さんがギターを弾いてくださるそうです。
島崎 私は小学校三年生の時に桐生へ来ました。その前は四国の高松に七ヶ月いました。高松もいいですけど、桐生は本当にいいところですね。山も川もいい。川で遊んだ子供の頃の感覚を、ずっとどこまで保っていられるかが、フライタイヤーとしての目標なんです。
─ 保っていらっしゃいますよ。
島崎 だから今も釣りは自転車で行くんです。子供用の20インチのね。大人用の26インチより、子供用の自転車に乗っている時のアイレベルの平行移動が、体にもメンタルにもいい作用があるみたいです。車で高速道路を使うよりもぜんぜん疲れませんね。むしろ充電されます。
そうするとユニークなアイデアが湧いて、面白いものができます。頭で考えるとだめですね。手で考える。手で考えて、忘れないように記録しておくんです。手で無邪気に考えて、モノにして、デジタルで記録する感じですね。普通の紙にマーカーで絵を描いて、それを撮影してクラウドへアップすればいい。描いている時の記憶は、アップルペンシルよりも紙のほうが残りますね。紙で描いてデータで残す。これが最強です。
─ 最後にすごくいいお話をお聞かせくださいました。ではお時間まで、アシスタントの山田二郎さんのギターをお聴きください。
山田二郎 どうも山田二郎です。35年くらい前かな、俳人の山田耕司さんに「島崎さん、俳句は読み切りといって、一夜限りで短冊にも書かない、それがいちばん洒落てるんですよ。」と教えてもらいました。あ、それだ、と思いましたね。以来、楽譜は見ない、書かない、録音もしない。弾き捨てです。いいのができるとつい楽譜を書きたくなるけど、しない。そこがいいんです。
(山田さんの演奏)
山田 私のギターは口笛を吹くように弾いているだけです。音を出してその次の音、次の音というようにつなげていく。一回、一回が違います。フラメンコギターは昼と夜、踊る人、歌う人によって演奏が変わります。島崎さんが弾くと、もっとドロドロした感じになりますよ。
(島崎さんの演奏。かぶせて)
─ 演奏の途中で申し訳ございません。そろそろお別れの時間です。今週はフライタイヤー、フライフックデザイナーの島崎憲司郎さん、アシスタントの山田二郎さんにご登場いただきました。放送できないお話をたくさん伺いました。あっという間のインタビューでした。お相手は小林隆子でした。
※インタビューの音声と島崎さん、山田さんのギター演奏は、YouTubeで公開されています。
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