若かりし時代のあれこれを回収したい中高年が新エヴァに振り向くのならともかく、なんで現役の若者が群がるのだろう。サブカル的な興味なのだろうか。トシ食ったせいか、自分はもうべつになにもメラメラしてこない。
エヴァといえば、2000年頃に後楽園ホールで知り合った(わたしがナンパした)プロレス仲間で、日芸出のたかちゃんがいた。学年はなんこか下だった。たかちゃんは一人でエロ系の同人誌をやっていて、演歌とアニメと漫画とインディ・プロレスにやたらくわしかった。ドのつくオタクを自認していた。
ホールの興行がはねた後に水道橋あたりで二人で呑むようになり、仲良くなってきたころ、エヴァ話を振ったことがある。それまでエヴァ話はしたことがなかったから、共通の思い出話ができるかなと思った。
するとたかちゃん、和やかだったのが急に不機嫌になった。中ジョッキをギュッと握りしめて居酒屋のテーブルを見つめ、完全に沈黙してしまった。面白いのでしつこく振っていたら、
「やめてください! 僕はエヴァーの話なんかしたくないんです!」
いきなり激昂した。しゅうぅ、と鼻から息を吐いている。覚醒か。
ご、ごめん。
君のなにかを踏んだんだね。
たかちゃんとは中野のキャバクラのクリスマス・イベントでふんだくられたり、新宿二丁目の猛牛さんに初めて突入したりと、エキサイティングな時間をすごした。物知りで頭がよくてノーブルで陽気な楽しいやつだった。エヴァの話さえしなければ。だからエヴァには乗りたくないんだ。
その後、たかちゃんはコミケの会場で知り合ったという、まだ十代で胸がデコラティブな娘さんとつきあい始めた。たかちゃんはじつは一流企業のサラリーマンだった。流れでそのまま娘さんと結婚した。おめでとうたかちゃん。
たかちゃんが都内に高級マンションの高層階を買ってから、わたしとは自然と縁遠くなっていった。「毎晩夜景を見ながらブランデーのグラスを回してるんです。〝ついにここまで来たか〟って言って」。たかちゃんは幸せそうだった。
一流企業の正社員と高級マンションとデコラティブな奥様。まもなくお子さんも生まれたと聞いた。たかちゃんは間違いなくオタクの出世頭だった。
たかちゃん元気かな。
エヴァの話振ったら、いまでも激昂してくれるかな。
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