【公開記事】メガソーラーの次は巨大洋上風車群 国と電力会社が狙う海(水口憲哉)|フライの雑誌-第121号より(2020)

フライの雑誌-第121号(2020)から、〈釣り場時評94 〉メガソーラーの次は巨大洋上風車群 国と電力会社が狙う海(水口憲哉)を公開します。


釣り場時評94

メガソーラーの次は巨大洋上風車群
国と電力会社が狙う海

水口憲哉
(東京海洋大学名誉教授・資源維持研究所主宰)

フライの雑誌-第121号(2020年発行)掲載

国の高値買い取り制度の対象から外れたことで、
メガソーラーはまったく商売にならなくなった。

昨年本誌一一八号の時評で〝メガソーラー栄えて山河亡びる〟と書いたが、メガソーラー(MS)の栄華もそんなには長続きしないようである。

それは昨年八月に経済産業省が再生エネルギーによる電気をすべて高値で買い取る固定価格買い取り制度(FIT)について、大規模な事業用太陽光発電と風力発電をこの制度の対象から外すことを決めたからである。

これで再生エネ伸び悩み懸念という声が太陽光発電協会からあがっているようだが、大規模なものが出来ないのは結構なことである。

その結果と言えるものが、右の時評で紹介した諏訪市四賀メガソーラー建設計画で起こった。今年の六月一八日、事業者が地元説明会で事業からの撤退を表明した。その理由として、県の環境アセスに対応すると計画より三年完成が遅れ、買い取り価格下落が懸念されるとしている。

同社によると、当初想定していた買い取り価格は一kW時四〇円だったが、着工の遅れで年々下落し、現在は一八円。来年三月までに着工出来なければ、一四円にまで落ち込む見通しという。まったく商売にならないということである。

このようにMS建設計画はつぶれて地元では一安心であるが、MS事業者に土地を売ろうとした地権者である牧野組合と共有地組合では、出来るだけ早く売却したいとの意向を示しており、公有地化の方向で地元は検討し始めているようである。

二〇一八年から筆者が再生エネルギーの発電所計画にかかわるきっかけとなった伊東市の八幡野MS計画は現在どうなっているかというと、環境アセスではなく、裁判でおくれている。

五月二二日、事業者が伊東市を訴えた行政訴訟において静岡地裁は、伊東市の処分(事業者が川に橋を架けることを不許可とした)の取り消しを言い渡した。敗訴した伊藤市長は一週間後に東京高裁に控訴する方針を表明した。

いっぽう、工事中止の仮処分命令を求める民事訴訟を起こしていた住民団体も公開の裁判となる本訴訟へと進んでいる。

二つも三つも裁判をかかえて事業者が発電出来るのは何年後になるか全くわからない。

いっぽう、森林開発のMSとしては、国内最大級となる鴨川市田原地区における建設計画は昨年四月の千葉県林地開発許可から一年五か月、未だ工事は着工されていない。

九月二八日の東京新聞(千葉)は、事業中核企業社長に取材して、「発電開始、一年ほど遅れる」と報じている。

総事業費の五%以上を撤去費用として積み立てることや、鴨川市に資金計画を提出することなどもやっておらず、ここもまた見通しは全く立っていない。

福岡に本社のある自然電力株式会社が
大船渡市と土地の貸借契約をした

桜鱒のことで世話になった岩手県の知人から、本誌堀内編集人のツイッターで知ったと、太陽光発電のことで相談があった。ここ五年ほど大船渡市三陸町の吉浜地区で大規模な太陽光発電建設の動きがあり、昨年からそれが活発になってきたというのである。

吉浜というのは二つのことで有名で、知る人ぞ知る漁村である。江戸時代から中国への輸出品である俵物として、乾したナマコ、貝柱、アワビがある。その乾鮑としてキッピンアワビが最高級品とされている。中国では吉浜というのが縁起がよい名前ということもあって高値がついている。

中国からの留学生と香港にそれを調べに行った時のこと。海産物を扱う一角に、四角いガラス瓶に各種の乾鮑が入って並んでいた。その料理を食べてみようということになった。それだけという訳にもゆかずコース五万円するその有名店の料理長に話を聞くために電話をしてみた。

いろいろ聞いているうちに明日大陸にでかけるということがわかった。話を聞いてその料理を食べる計画は中止となった。そのために十万円用意していたが残念なような、ほっとしたような気分であった。

吉浜は津波への対応で〝奇跡の村〟としても知られている。一八九六年の明治三陸津波で死者一九四人、流失戸数七三戸を出した吉浜村では、海側で開田事業を行い、低地を農漁業用に、高台を住宅とする職住分離を行った。一九三三年の昭和三陸津波では、死者を一七人に激減させた。そして二〇一一年には犠牲者一人という他の地区には見られない奇跡とも言える結果をもたらした。

この吉浜地区の内陸部荒金山の三二ヘクタールに福岡に本社のある自然電力株式会社が、地元九自治会と公民館長の同意を得た後に、大船渡市と土地の貸借契約をした二〇一六年にこの事態は始まる。

問題はこの同意を得る際の二つの前提条件である。

㈠林地開発許可を得ること。
㈡工事着工に当たっては地元の了解を得ること。

二〇一七年事業者は、調査測量し再検討の結果、荒金山より一・五キロ西の同じ吉浜地区の大窪山の放牧地の使用を市に申し入れた。これで林地開発許可は回避。二〇一九年三月初めて吉浜地区で説明会、七月市議会でも説明。七月三日の岩手日報に〝赤土流入、濁る清流 遠野・小友 養殖被害、農業も懸念 メガソーラー工事が原因〟と大きく報じられる。(これが本年二月遠野市議会での一ヘクタール以上の太陽光発電施設建設を認めない条例改正へとつながる。)

九月に再び説明会があるが、遠野を視察した人もあり反対意見多い。十月、台風一九号で吉浜地区において土砂災害。十二月、「荒金山・大窪山太陽光発電所建設に反対する会」が一三七二名の反対署名を大船渡市へ提出。吉浜地区では呼びかけた三九五世帯のうち二八八世帯が署名した。

二〇二〇年五月吉浜地区の六自治体(部落会)と稲作の団体が建設に不同意の決定を公表。

吉浜漁協(吉浜川の内水面漁協やさけ・ますふ化場も運営)は独自に太陽光発電所建設に反対する決定を、理事会と総会で決議し、一部落会でも不同意なら同意しないとしている。事態は十月に入っても進んでいない。

大船渡市が自然電力と貸借契約をしたという、大窪山の吉浜大野一三三―二という土地の所有者が現在大船渡市であることは確かである。

にもかかわらず事業者が地元である吉浜地区の同意がなければ着工しないと言わざるを得ないのはなぜか。工事で地元に迷惑をかけるかもしれないから、前もって地元の人々の納得を得てから工事にかかりたいという事業者の善意によるものなのか。

とんでもない。私有でも自治体のものでもない沿岸域は公有水面、言うならば国のものである。

そこを埋め立てる場合は、その海面を昔から地域の人々が村として総有し、現在でも共同漁業権漁場として漁業のために利用してきた。だからそこの漁業協同組合の同意を得なければ埋立てはできない。

貸したままの市有地に
太陽光発電所の建設が計画されている。

吉浜地区の大野一三三―二の土地については、そこの使用については吉浜地区の同意を得なければならない理由がある。

一九五六年に、越喜来村、綾里村、吉浜村が合併し三陸村となるのだが、明治の吉浜村時代の土地基本台帳には、大野一三三―二の土地は吉浜村共有地として山林が登記されている。そしてこの三陸村は、一九六七年に三陸町となり、さらに三陸町が二〇〇一年に大船渡市と合併する。

その間、百年近く所有する市町村が次々と変わるがこの土地は吉浜地区の共有地として現在にいたる。そして、最後の合併の際の財産の取扱について、二〇〇四年、高松市、牟礼町合併協議会で、先進地域の事例(参考十市)として次のように引用されている。

〝大船渡市 三陸町の所有するすべての財産は、大船渡市に引き継ぐものとする。ただし、財産に係る権利を有する者がある場合は、合併後もそれを尊重する。ふるさと創生基金の使途については、三陸町の意思を尊重する。〟

ここで財産に係る権利を有する者とあるがそれが財産区管理会である。

これについては、山本ほか(二〇一四)が三陸町史から次のように引用している。

三陸村に合併する際の合併協定で〝綾里村二五〇町歩、越善来村五二八町歩、吉浜村四〇〇町歩については財産区を設置するものとし、それぞれ財産区管理会を設けるものとする〟と取り決められた。

この財産区には徳川時代から部落住民の入会財産であったものを公有財産に組み入れた旧財産区的性格と戦後の町村合併に際し、新市町有地に編入されることを拒否して、旧町村単位で財産区をつくるという新財産区の性格をも持っている。

それでは市有地とされている吉浜地区の財産区のこれまでの扱われ方はどうなのか。

まず共有林の一部に関しては財産区管理団体が三陸町時代に林業経営で採算が取れずに破産して解散。他の草地部分は一九八六年に牧羊組合に牧草地として貸した。

しかし、そこは二〇一一年の福島第一原発の大事故による放射能汚染で利用できなくなり放棄されたまま放置されている。市有地を財産区が貸したままになっているところに、太陽光発電所の建設が計画されている。

今年六月に改正された再エネ海域利用法は、これから
洋上に大量の風力発電施設を建設するための法律である。
国が電力会社に公有水面の占有を認めるお墨付きを与えた。

今年の六月八日の朝日新聞千葉版に〝洋上風力 促進へ合意 銚子沖、今秋にも国指定へ〟という記事があった。実は、この件に筆者が全く関係がないという訳ではない。

一昨年の六月に八幡野MS事件担当の弁護士事務所から銚子市漁協の洋上風力発電の件について相談を受け、銚子まで話しに行った。

一基の試験操業が終了し、今後どうするかについて意見を聞きたいということだった。事前に銚子の漁業者など四名の関係者にいろいろ聞いてみたが、漁業者からは特段の反対の声も無いようで市民の関心はうすかった。

大量の資料を提供され、原発建設の電力会社の環境アセスと同じ紙の無駄遣いというか紙クズの山で、概要を知った上で、漁協がこれから東京電力とどう交渉してゆくかについて筆者の考えを示した。

覚書作成への提言としては、期間限定完全撤去から無期限放置への危惧があるとして、今後の動向としては①覚書通り、②立ちぐされ、③二〇基規模に拡大の三つが考えられるとしたが、③になったという訳である。

そうなるには、国を巻き込んだ東京電力の遠大な計画があったようで、銚子市漁協、まして筆者にはどうする術もなかった。

昨年の夏にその計画は姿を現した。

まず、七月三〇日、経済産業省と国土交通省は、洋上風力発電の整備を優先的に進める四区域を発表した。

秋田県の「熊代市・三種町・男鹿市沖」と「由利本荘市沖」、千葉県の「銚子市沖」、長崎県の「五島市沖」を「促進区域」として指定し、四月に施行された新法により、発電事業者は最大三〇年間の海域占有を認められる。
それを受けて八月には東電が銚子沖に三七万kWの洋上風力発電を二〇二四年度以降に運転開始すると事業概要を公表した。

それとは全く関係なく、今年の六月二一日の朝日新聞千葉版に〝伊勢エビ 勝手に釣ったらダメ! 銚子漁港で後絶たず 海保が巡回強化〟とあったが、基部をイセエビ礁とすると称した風力発電は立ちぐされているが効果はあったのだろうか。

行き詰まったメガソーラー建設に代わるように、
巨大な洋上風力発電施設の計画が各地で発覚している。
疑問の声も上がり始めている。

『週刊金曜日』(六月二六日号)の〝はまぐりのねごと〟で中山千夏は、六月一四日の朝、伊東沖を巨大な洋上風力設備が移動しているのを見ている。

これは本誌一一五号の時評でふれた不調のため実用化困難となった福島沖の浮体式洋上風力発電が、鹿児島県に海上を移動運搬されてゆく途中の姿を見たのである。

なぜ鹿児島県かと言うと、七月二八日付のヨホホ研究所の〝鹿児島県の洋上に世界最大の風車群建設が持ち上がるが、その環境配慮書がてんでダメという話。〟この中で錦江湾でこの施設の上空からの映像が紹介されている。まさに彼女が蜃気楼と思ったものが、鹿児島県吹上浜沖洋上風力発電計画の現場に現れたのである。

六月二九日の鹿児島建設新聞によるとこの計画、水深五〇m以浅を着床式で最大七七基、五〇~七〇mには浮体式で最大二五基、合計一〇二基で総発電出力九七万kWというものである。

九建日報のニュースによると、計画段階環境影響配慮書の縦覧が南さつま市、日置市などで六月二三日より七月二二日まで行われている。そこでヨホホ研究所の書き込みとなる。

ネット上では、この夏、「キス釣りと趣味の館㏌ふるさとかごしま」、「ふるさと加世田から」、「二〇二〇/七/二八火曜日 前田鮮魚 本日の手作りお弁当」など普通の人々が、吹上浜のこのとんでもない計画に対して声をあげ始めている。

九月一八日拙著『原発に侵される海』を発行した南方新社の向原さんから電話があった。秋太郎やしらす漁が心配だ、どうにかならないかと。この電話で初めてこの計画を知った筆者としては、今のところいかんともし難い。

ところで、右記の「促進区域」が、昨年四月に施行された新法によると、すらっと述べたがこの通称「再エネ海域利用法」、今年の六月に一部改正された「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」はこれから洋上に大量の風力発電施設を建設するための法律である。

要は、各市町村の沖合の海面、基本的に国が管理する公有水面であるが、この海を国が認めて、発電事業者に占有させるという、他の産業に文句を言わせないお墨付きの法律と言える。

これは、共同漁業権漁場の真ん中に二〇一三年前田建設工業が計画した洋上風力発電が地元漁民の反対により立ち往生し、今年の七月には、最高裁が工事差し止めを認めず上告棄却の決定を下した下関市安岡の事例を教訓として、共同漁業権漁場の外海に洋上風力発電用の海面を国が用意するというものである。

原子力発電所建設においては、各地の漁民が共同漁業権漁場への埋立てを伴う建設を許さずと拒否し、建設が計画された地域の三分二以上でつくらせずまだましな現在があるのだが、その外側の漁民がなかなか抵抗し難い、海面における建設ということになると、考え込んでしまう。

東電が計画している銚子沖の風力発電についても、昨年八月二七日の朝日新聞が一面で報じているようにややこしい。

「東電条件付き廃炉検討 柏崎刈羽6、7号機の再稼働前提」の見出しだが、この条件付きの内容が、1~5号機の廃炉と交替で6、7号機の再稼働というだけではなく、小早川社長は、「銚子沖で計画中の洋上風力など、代替となる再生可能エネルギーを十分確保できる見通しが立つことも条件に加える。」としている。

大規模な太陽光発電所(MS)の建設は行き詰まりを見せ始めているが、資源エネルギー庁は、二〇一九年八月末現在、約一二五八万kWの洋上風力発電案件が環境アセスメント手続きを実施しているという。

この稿了

「フライの雑誌」第121号掲載|メガソーラーの次は巨大洋上風車群 国と電力会社が狙う海(水口憲哉)

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