【公開記事】水産庁からの提案:「子供釣り場」の魅力と政策性(櫻井政和|水産庁栽培養殖課)

『フライの雑誌』第125号〈特集◎子供とフライフィッシング〉から、水産庁からの提案:「子供釣り場」の魅力と政策性(櫻井政和|水産庁栽培養殖課)を、全文公開します。

釣りは世代をこえて楽しめるレジャーです。未来を担う子供たちに、釣りの知識と喜びを伝えたい。楽しい釣りをこれからも気兼ねなく続けていくために、水産庁が「子供釣り場」を提案します。これまでにない、新しい試みです。

皆さんのご意見・ご要望・ご質問・応援を、ぜひ水産庁へお寄せください。

turibito_iken@maff.go.jp
(釣り人からの意見等募集)

(編集部)

水産庁からの提案
「子供釣り場」の魅力と政策性

櫻井政和(水産庁栽培養殖課) 

水産庁からの提案:「子供釣り場」の魅力と政策性|『フライの雑誌』第125号〈特集◎子供とフライフィッシング〉掲載


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○楽しい釣りを気兼ねなく続けたい

ひとりバイクで行く釣りから、つれ合いと2人での釣りを経て、子供を連れて4人で釣りをするようになって10年余、「釣りの未来」や「釣りの持続性」を確保するにはどうしたらよいか、といったことを強く意識するようになりました。

釣りの持続性とは、「楽しい釣りを、これからも気兼ねなく続けていけること」です。

これを確保するには、①釣り場の要素、②釣り人の要素、があり、釣り人の要素には、数(釣り人口)と質(ルール・マナーの問題を含む)の側面があると考えています。

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○現状の問題はなにか

では、釣り場や釣り人の要素に関する現状の取組みはどうなっているのでしょうか。

例えば、釣り関連の業界は、新規参入者の開拓に向け様々な対応を進めていますが、女性と並ぶ重要な訴求対象である若年層について、特に親が子供に安心して釣りをさせられる場所の整備は進んでいません。

また、「釣り人のマナーが悪い、ルールを守らないのが問題」と、長年言われ続けている中、ルール・マナーに関する初歩的な知識をレクチャーしてもらえるような釣り場は、ほとんど存在しません。

ルール・マナーの普及については、釣り振興の観点から関係団体等が取り組んでいる実態があります。

地域での地道な活動も行われていますが、釣り教室等のイベント的な取組みが主流であり、また、システム化されておらず、効果把握も行われていない状況です。

子供向けの釣り大会等も多数行われていますが、ボランティアにより運営されているものは量的・面的拡大を図ることが困難であり、商業ベースのものはルール・マナーの普及に十分な時間を充てることができない現状にあると解されます。

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○子供釣り場のコンセプト

これから紹介する「子供釣り場」の取組みは、こうした状況への対応方策のひとつであり、釣りの持続性を確保するための基盤になり得ると考えています。

さらに、こうした取組みに政策性があれば、行政の支援など「釣り施策」につながるのではないかというのが、本稿の問題意識です。

本稿で提案する「子供釣り場」のイメージは、以下のようなものです。

〈広範な関係者の連携態勢を構築し、「子供のための専用釣り場」を設置・運営することにより、学校単位、クラス単位でのルール・マナー普及をシステム化するとともに、効果把握(実証研究)を行う。

併せて、システム化した普及活動が実施されない期間には、「子供のための安心安全な釣り場」として解放し、常駐する指導員による随時的なルール・マナーの普及を実践する。〉

具体的には次のような取組みとなります。

・モデルとなる常設の釣り場を設置し、業界関係者等の協力も得て管理運営、関連施設(座学用のスペース等)やレンタル釣り具も整備。

・近隣の小・中学校からクラス単位で選定した生徒を対象に、現場での「釣り体験&ルール・マナーのレクチャー」や座学での「渓流釣りの資源管理学習体験」(おもしろく大いに参考になるプログラムが作成されています。)等を実施。

・事後のアンケート(要すれば保護者も対象)により、ルール・マナーの理解度や釣りへの興味の高まり等について調査・把握。

・3年後、5年後を目処に学術関係者による追跡調査を行い、釣り参入の効果等について把握(釣り体験をしなかった同学年のクラスを対照区として比較検討を実施)。

・生徒向けのプログラムを実施しない土日等は、指導員が常駐する子供向けの「安心安全な釣り場」として解放。

「子供釣り場」のイメージは〝広めの公園の池〟。


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○イメージは「広めの公園の池」

モデルとなる釣り場の規模としては、「広めの公園の池」をイメージしています。

周年運営し、手軽な釣り具での釣果が期待できるという観点から、対象魚は本州以西であればコイ科魚類(モツゴやタモロコ、オイカワ、コイなど)が考えられます。

釣り場では、のべ竿使用を通常としますが、ルアーが投げられるエリアやぶっ込み釣りのエリアを作ってリールを使用し、ゾーニングというルールを実体験してもらうのも面白いと思っています。

また、足場はフラットにして安全を確保しますが、「釣り場には注意しなければならない場所もある」ことを知ってもらうために、傾斜のついた護岸のようなエリアがあってもよいでしょう。

ぬかるみの岸辺を作って長靴をはいてもらうとか、釣り場ルールの説明役として、「いつも同じ場所に釣り座を構えているヘラ師のおじさん」(失礼!)を配置するとか、この辺りのことを考え始めると妄想がどんどん広がります。

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○政策になるのか?

子供専用の安心安全な釣り場が非常に少なく、釣りのルール・マナーの普及がボランタリーな現場での活動に依存していることを踏まえると、量的・面的・時間的な拡大を図るとの観点から、場の整備とルール・マナーの普及をシステム化することが必要です。行政としてもできることがあるのではないかと考えています。

他方、自治体や国が業務として関わっていくためには、一定の政策性を持つことが必要になってきます。

この点に関して、学術関係者に関わってもらい、ルール・マナーの普及についてアンケートを実施したり、後年度の追跡調査によりデータ(エビデンス)を整備するという試みは、恐らくこれまで検討、実施されたことはないと考えています。

行政分野ではEBPM(Evidence Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)といったことが求められています。継続してデータを得ながら検証していくシステムを構築することは、社会の要請にも応えるものです。

また、釣り体験をしなかった同学年のクラスを対照区として比較検討を実施するのは、現状では釣りイベントに参加する者(子供も含む)は、その時点で「釣りをしたい」というバイアスが掛かっていることに留意したものです。

当該時点では「釣りをしたい」と考えていなくても、その後の志向や状況の変化でイベント等に参加せず、ルール・マナーについて知る機会を経ないで釣りに参入する方々も多数存在します。こうした実態にも対応できるような仕組みを考えていく必要があるという認識から設けたものです。

データを積み上げて検証し、ルール・マナーの向上に資することが実証できれば、釣り人を含めた資源管理の推進といった大きな政策につながっていくとの説明も、可能になります。

農林水産省内の「政策のタネ」コンテストに「釣りから始まる子供たちの未来!」(子供の釣り場作製委員会)を提出。上位入賞しました。

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○「政策のタネ」コンテストで上位入賞

これまで記載してきたような子供釣り場のコンセプトは、現時点ではまだ「政策のタネ」のような存在です。

実は、これまで紹介してきたコンセプトは、2年ほど前に農林水産省内で行われた「政策のタネ」コンテストというイベント(社内企画コンペのようなものです。)に、職員有志からなる「子供の釣り場作製委員会」として、「釣りから始まる子供たちの未来!」という題目でエントリーし、最終審査の場で並み居る農業、林業のライバル案件を抑えて、見事に上位入賞を果たしたプレゼンの内容をもとにしています。

同委員会は、若手職員や子育て中の女性職員も構成員となっていました。また、審査員は農林水産省とつながりを持つ企業関係者や省内の職員です。

コンテストにおける上位入賞という結果は、少なくとも政策性の萌芽や若干の可能性があることを示しているのだと思っていますが、折からのコロナ禍で「子供釣り場」の具体化が進んでいないことが残念でなりません。

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○資金と広報

以前に仕事で米国の釣り振興施策を調査する機会があり、その概要を本誌第102号に寄稿しています。(※)

この調査の際に訪問したIGFA(国際ゲームフィッシュ協会)やASA(アメリカ・スポーツフィッシング協会)といった釣り関係の団体には、釣り振興のために連邦政府から資金が供給されています。

この資金を財源にして「アウトリーチ」と称される広報や現場での理解促進活動に力を入れていたことが印象に残っています。

例えば、IGFAでは、この組織が持つ普及プログラムの一環として、フロリダ州にある本部の施設に子供を招いてキャンプを開催し、施設内の湖で釣りやルールを教える活動が行われているとのことでした。

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○おわりに

アウトドアレジャーとしての釣りが注目され、その一方でルール・マナーの問題が改めて喚起されている今こそ、関係者の総力を結集して、「子供のために、ルール・マナーについて学びながら安心安全に釣りができる釣り場の創設」について、検討することが必要ではないかと提案します。

それは「豊かな釣り文化が未来に継承される」という大きな目標にも通じるものです。

また、子供たちへの普及活動を通じて、ルール・マナーの意識向上を図るには、他の取組みにも増して時間がかかります。

その意味からも、種々の取組みをシステム化して効果を検証しながら進む態勢を整えることが必要です。

みなさん、このような「子供釣り場」があったらいいなと思いませんか?

本誌読者、業界関係者、学術・教育関係者、自治体の方々などのご意見をぜひ伺いたいと考えています。また、具体的なサポートの提案等も歓迎します。

「子供釣り場」へのご意見、本稿へのご感想などは以下の連絡先にお願いします。

turibito_iken@maff.go.jp
(釣り人からの意見等募集)

みなさん、「子供釣り場」があったらいいなと思いませんか? ご意見・ご要望などお気軽にお寄せください。

※ 日本釣り場論74 「DJ法」、「スポーツフィッシュ回復」の運用実態等米国における釣り振興制度の実態調査レポート(要約版) 櫻井政和  『フライの雑誌』第102号(2014) フライの雑誌社ウェブサイト上で公開しています

(この稿 了)

|『フライの雑誌』第125号〈特集◎子供とフライフィッシング〉掲載

|『フライの雑誌』第125号〈特集◎子供とフライフィッシング〉掲載

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フライの雑誌 125(2022夏秋号)
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Flyfishing with kids.
一緒に楽しむためのコツとお約束

子供と大人が一緒にフライフィッシングを楽しむためのコツとお約束を、子供と大人で一緒に考えました。お互いが幸せになれるように、子供が子供でいられる時間は本当に短いから。
子供からの声(10〜12歳)|大人からの声|水産庁からの声|子供と遊ぶための道具と技術と心がまえ|釣り人の家族計画|イギリスの場合|「子供釣り場」の魅力と政策性
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目の前にシカの鼻息(樋口明雄著)
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