【公開記事】フライフィッシャーズ・コラム|ベイビーズ・トリガー 幼児へ上手に餌を与える方法

子育て中のフライフィッシャーさんへ、むずかる幼児へ上手に餌を、もとい食べものを食べさせるにはコツがあるようです。

『フライの雑誌』第70号(2005)掲載の、フライフィッシャーズ・コラムから、「ベイビーズ・トリガー」(小谷松亮介)を紹介します。

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【公開記事】

フライフィッシャーズ・コラム
「ベイビーズ・トリガー」

小谷松亮介(東京都)

1歳3ヶ月になる私のコドモの摂餌行動の傾向と対策について報告します。コドモに食事をとらせることに苦労されている(今後苦労される)フライフィッシャーマンで親でもある皆さまに、私の経験が少しでも役立てばと思います。

仕事を持っている妻は、前夜がどんなに遅くとも毎朝6時半には起床します。だいたい7時にはコドモが行動し始めるので、それより前にやるべきことをやらなければならないそうです。

私が起きる8時過ぎは、わんわん泣きながら妻の足にしがみつくコドモと、それを引きずりながら家事に化粧にフル回転している妻とで阿鼻叫喚、それはもうたいへんな状況です。仕事をしながらコドモを育てるのは大変ですね。まるで他人事みたいですね。

コドモの朝ごはんは、暇な私が食べさせます(毎日ではないです。きちんと起きられたときだけ)。コドモはついこの間までミルクしか飲めなかったくせに、最近はなまいきにも非常にセレクティブになってきています。

基本的にはパン類、肉、卵、めん類にはライズしてきます。野菜はふつうに無視します。納豆、魚、コメは気分次第。ただ好みは猫の目のように変わります。昨夜喜んで食べたとうふを今朝は無視するのが当たり前です。そこがむずかしい。

たとえば某日気温17度。ここ一週間のカゼが継続中で、機嫌ちょい悪おやじ。この日はバナナだけを食べ、他は一切無視しました。

大好きなはずの卵焼きがプレートに並んでいましたが、いったん口に入れたもののすぐに「ペッ」と吐き出しました。よく見ると卵焼きに緑色の葉っぱが。

「ニラ入れた」(妻)とのことで、ニラ入れんなよ、と思いますが、さすがコドモ、わずかなニラ味にしっかり反応してきました。わが息子とはいえ、せっかく用意した食事を「ペッ」とやられると、なかなか不愉快です。

「あーん」とやったスプーンを手に持ったまま、しばし憮然としてしまいます。

ある食べ物を食べる・食べないの判断には、いくつかのカギになる要素があります。1、形状。2、色彩。3、食感。4、匂い。5、記憶。6、味。これらの要素が入れ替わり立ち代わり現れては、「ペッ」の波状攻撃を仕掛けてくるわけです。

面白いのは「記憶」です。以前はリンゴが好きでよく食べていたのに、急に食べなくなったのは「病気したときにリンゴ味のゼリーを使った」(妻)がための、リンゴズレ現象なのでしょうか。

「味」の中でも、酸味はとくにすばやく反応します。でもレーズン入りのパンはよく食べるのには理解に苦しむところです。妻によると、匂いや味よりも、食感が決め手になるのではないかとのこと。

スムースに食事をとらせるためには、その時々でのコドモの機嫌、健康、排泄、食事どきまでの遊んであげ具合などに応じて、なにが気にいって何を気にいらないのかを推しはかる必要があります。

しかし「あっあっ」としか言わない、訳のわからない生き物、もとい息子のために、毎食ごとに多品種の餌、もといメニューを用意するわけにもいきません。

そこは見せ方と、与え方とで、何とかやつの口を使わせてやろうじゃないの。フライフィッシャーのわたしは頭を働かせました。

スレっからしのヤマメの、摂餌行動のトリガーを何らかの方法で刺激すればいいんでしょ。そういうのなら子育てよりも得意です。

今からそのコツを伝授します。

まずフライフィッシャー、もとい親が魚の、もといコドモの皿からかまわず餌を奪い取って、勝手にうまそうに食べてしまうことです。きらいなはずの野菜でも奪い返してリアクションバイトしてきます。フラッタリングカディスを思い出してください。バタバタと逃げようとするカディスは出がいいですよね。

最初はうまそうに食べるだけでバイトしてきますが、あっという間に敵もスレてきます。そこでわたしが編み出したテクニックがあります。

適当な雑誌のページを開きながら、視線を誌面にやったまま、食べ物をのせたスプーンをコドモの口の前へ、すうー、とナチュラルに移動させるのです。

0.15号のティペットに結んだ#32の極小ピューパを、ガンガン瀬の向こうの対岸のライズスポットへスラックなしでキャストして、5分以上ただよわせる要領です。簡単ですね。

このとき決して「食べろ食べろ」と念じてはいけません。強引な「食わせちゃろ光線」(第68号参照)に対してコドモはたいへん敏感です。

あくまでナチュラルに、ジェントルにすうー、とスプーンを差し出せば、コドモの口は自然に開くでしょう。水面直下をただようイマージャーを吸うように、スプーンの中身を、もぐもぐ・ごっくんしてくれると、「やったぜ!」と小躍りしたくなります。

この技を会得してから、「パパ食べさせるの上手。」と妻からもほめられるようになりました。おかげさまで夫婦円満の毎日を送っています。そのうち弟か妹ができてしまうかもしれません。

つくづく、フライフィッシングをやっていてよかったナ、と思う今日この頃です。

さて、パパとママはこんなに苦労しているのに、うちのコドモはどうやら保育園では好き嫌いなく、なんでもぱくぱく食べているようです。

なんで?

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『フライの雑誌』第70号(2005年8月発行)より
『フライの雑誌』第70号(2005年8月発行)よりフライフィッシャーズ・コラム[ベイビーズ・トリガー]
フライの雑誌-第70号 特集◎シマザキワールド10 ミミズクは夜が昼間/『新装版水生昆虫アルバム』に寄せて  島崎憲司郎
フライの雑誌-第70号
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葛西善蔵と釣りがしたい|たこはたこつぼが好きですが、じゆうに泳げるひろい海にもあこがれます。(本文より) 堀内正徳=著(『フライの雑誌』編集人)