フライの雑誌-74号(2006年8月発行・品切れ)日本釣り場論40 新任・釣人専門官インタビュー「改めて、釣人専門官とはなにする人ぞ」(堀内正徳まとめ)から、四章〈ニジマス、ブラウントラウトを水産庁はどう考えるか〉を公開します。
ニジマスとブラウントラウトは2015年に産業管理外来種に指定されました。2006年に行なわれた釣人専門官へのこのインタビューでは、10年前の水産庁が水産魚種としてのニジマス、ブラウントラウトをどう考えていたのかが語られています。
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改めて、釣人専門官とはなにする人ぞ
ニジマス、ブラウントラウトを水産庁はどう考えるか
(きき手は編集部堀内)
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・– ブラックバスの特定外来生物入り議論の時、水産庁は釣り人のために有効な対論を提示できなかった。要注意外来生物に指定されているブラウントラウトやニジマスがやり玉にあげられる際、水産庁がどこまで対応するのかが気になります。
城崎 ニジマスもブラウントラウトも漁業権魚種として利用されています。とくにニジマスは過去100年、国も増殖技術の開発を推進してきました。ニジマスが特定外来生物の議論に上がったときには、水産庁としてブラックバスの時以上のきびしい対応になることが予想されます。
– 生物多様性を原理主義的に考えると、種苗放流事業は全て否定されます。だけど全国的に種苗放流を行なっている全内漁連は、広報誌で生物多様性大事をアピールしている。よく分からない。
城崎 水産的な種苗放流と、生物多様性の概念とはいずれきちんとすりあわせなければいけない課題です。これまでは「ブラックバス対××」の構図だったのが、今後は「釣り対生物多様性原理主義」になる可能性があります。バスもヘラもアユもマスも全部の釣り人が、釣りをしない人々から色眼鏡で見られてしまう状況になれば、オール釣りで団結するしかない。ただ、「オール釣り」の現状を見れば、歯がゆさを感じます。
– 増殖と放流は一切禁止という事態になると、水産庁としても問題があるのでは。
城崎 水産側も理論武装をする必要があります。たとえばアユ釣りは初夏の風物詩として社会的に認知されているようですが、放流はダメといった方向に世論ムードが高まると一気に押されてしまう可能性もあります。
– ××は日本にいてはいけない、××釣りを禁止しようという、低次元だけど分かりやすい主張に、釣り人が対抗するひとつのキーワードは、文化だと思います。釣り文化の重要さ、歴史的な意義、教育的な価値を押し出すべきでしょう。水産庁に「それはうちらの領分だ」と手をあげてもらいたい。先頭きって働いてもらえそうなのは、釣人専門官なのかな、と。
城崎 釣人専門官は関係各機関を横断的に動くことがアピールポイントの一つですが、実際話をするだけでも大変です。釣りとひとことで言っても本当に色々あります。内水面と海の施策対象をあえてひとまとめにすることで、社会的な力も発揮できるようになるとも思います。
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水産庁、各県の水産担当、全内漁連、釣り人が同じレベルで討論すべき。その場をつくるのは釣人専門官の役目です。(城崎)
着任したばかりだった二代目釣人専門官の頼もしい発言が満載のインタビューです。ぜひフライの雑誌-74号で全文をお読みください。
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水産的な種苗放流事業と、生物多様性の概念とが真っ向からぶつかり合うことは、この時点で水産庁も問題を認識していました。
水産庁はこの10年間、両者を〝すりあわせる〟ために、どんな努力をはらってきたのでしょうか。
水産庁は2005年に「管理釣り場におけるブラウントラウト等の利用実態調査(情報提供依頼)」を行いました。
つい最近になって、関係者間の意見交換会開催、パブリックコメントの実施という対応を見せています。
これまでの水産庁からすれば画期的な動きとはいえ、水産的な種苗放流と生物多様性の概念をすりあわせる本質論からは遠いものです。後手後手で場当たり的、という指摘は免れないでしょう。
日本の内水面漁業の実態は、まじめに考えれば考えるほど、産業管理外来種どころの騒ぎではありません。種苗放流事業を否定すれば内水面どころか、海面もふくめて現在の日本の漁業は成り立たないのが現実です。
では水産庁はどうすればいいのか。今からでも開きなおって腹を割って、理論武装して、仲間を増やし、世論を味方につけるしかない、と、編集部では考えます。
「水産業は日本の基幹産業です」と胸をはればいい。水産庁なんだから。
今後のしごとに注目です。
(編集部 堀内正徳)