『桜鱒の棲む川』は、私が今まで書いた本の中で
いちばん気持ちの入った一冊になりました。
インタビュー 水口憲哉 氏
●新刊単行本『桜鱒の棲む川 ─サクラマスよ、故郷の川をのぼれ!』がいよいよ小社から発行となった。著者の水口憲哉氏の全国のサクラマスの棲む川を巡る旅を『フライの雑誌』誌上で追いかけて幾星霜。企画を立ててから数年がかりでの上梓である。
●「この本を編集者は当初〝世界で初めてのサクラマス本〟というふれ込みで宣伝したいと言ってきたが…」と、本書のあとがきにあるが、そう言ったのは私(堀内)で事実である。
●水口氏はエキセントリックな表現を使いたがる私をいさめ(くわしくは本書を)、つづけて「サクラマスの過去と現在、そしてこれからについてひとつの考え方をまとめたという点において類書がないという自負はある」と書いてくださった。編集者としてにんまりしたくなる。
●本稿の収録は、水口氏の母校にして現在はそこの名誉教授でもある品川の東京海洋大学構内にある池のほとり。ソメイヨシノならぬ八重桜が今を盛りと咲き誇っている卯月のとある午後であった。 (編集部/堀内)
〈インタビュー 第1回〉
〈インタビュー 第2回〉
〈インタビュー 第3回〉
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日本のマス最後の「ファンタジー」
サケ(シロサケ)は川の環境がどうなっても基本的には人工ふ化放流でつなげていける魚ですが、サクラマスはそうではありません。サクラマスが故郷の川と海とを行ったり来たりすることでしか生きられない、命をつなげないことを正面から論じた本は、これまでありませんでした。本書ではサクラマスののぼる日本列島各地のそれぞれの川について、横断的に調べています。
サクラマス一族は日本のマスの最後のファンタジーだと本書のPRのなかで言っていますが、ある意味ではその通りです。サクラマス一族は川と海とをやわらかく全体に利用しています。広がりがあってなじみやすい。しかしブラックボックスの部分が多い、不思議な魚でもあります。
サクラマスは人の近くで生きながら、人の手から遠くなって、今また人に近しいものになりつつある魚です。ある時期までは、サクラマスも人の手でコントロールできると思われていました。でも野生の魚は野生の魚として、野におくほうがずっと続いていけるということを、最近ではダムの問題と絡めて認識されるようになってきました。
サクラマスってどんな魚なのだろう
本書の中でも触れていますが、私とサクラマスとの出会いは、40数年前に山形の川で当時調査していたオイカワのヤナで採集したサクラマスが最初です。サクラマスは本来、川にいるのがあたりまえです。そして当時はもっと川にサクラマスがいました。だからサクラマスもオイカワも私にとっては同じでした。
(つづく)
〈インタビュー 第1回〉
〈インタビュー 第2回〉
〈インタビュー 第3回〉
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