フライの雑誌-第53号

フライの雑誌第53号
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野生のリンゴの木がある川

デンマークの玄関口コペンハーゲン空港から国内線で約一時間、日本の小さな地方空港を彷彿とさせるオーフス国際空港の到着ロビーで、ガラス越しに大きく手を振るフリース夫妻が目に入った。なにしろ到着ロビーにいる東洋人は私と妻だけなのだから、見つけるのはたやすい。(野々垣洋一)

税込価格1,250円

ISBN 9784503136800


INDEX

009 野生のリンゴの木がある川 野々垣洋一
018 優しき水辺(45) 斉藤幸夫
022 隣人のフライボックス(53)カルロス菅野さん(神奈川県川崎市)のフライボックス
026 モーニングとシラメと極小ユスリカ 角敬裕/角浩司
034 私のフライフィッシャーマン的成分 備前 貢
042 イワナをもっと増やしたい!(8) イワナの姿、かたちは沢によって違う 中村智幸
046 多摩川水族館(28) 秋の集中観察/多摩川のアユの産卵床探し 中本 賢
050 釣り師、胆石になる(その一) 中里哲夫
054 食物連鎖を守る護岸を考えたら「水を吸い上げるコンクリート」にたどり着いた 堀内正徳
056 フィールド通信
057 渓流魚の遺伝を考える/ 「遺伝的多様性」と釣りの関係 上田真久
062 アメリカ人のフライフィッシング文化考(8) アメリカのトラウトと日本のトラウト 西堂達裕
064 コンサートは終わった(6) ジレンマ カルロス菅野
066 オレゴンの日々(11) 実行されなかった釣り 谷 昌子
068 カミナリと私 阿部敏明
070 スタンダードフライ・タイイング図説(24) アート・フリックとレッド・クイル再び 備前 貢
074 五度目のニュージーランド 渡辺貴哉
090 絵描きのヨシオさん 渡辺裕一
085 魚の胃の内容物を調べて自分なりのパターンを巻く(2) ブユとガガンボ 久野 誠
087 魚がいないと言うなかれ 山本 聡
089 忍野テニスコート裏のジョーズ 宮澤達也
094 カブラー斉藤の人生にタックル(9) 魚皮のあれこれと魚皮フライの作り方を考えた カブラー斉藤
102 九重町・漁場監視員日誌(7) お金、今持ってますか 田中典康
105 ふらいだ・ばーちゃる劇場(24) たくさん買ってほしいでちゅ~の巻 毛針田万作
106 息子に教わるフライフィッシング(1) イブニングライズ 滝 政司
109 釣り人はちょっと工夫する(6) ハックルが切れにくいハックルプライヤー 東 清美
110 釣り場時評(32) 現時点での私のブラックバス問題へのかかわり方と覚悟 水口憲哉
112 ランニングラインを探す 安藤朗彦
114 陸封ヤマメ 碓井昭司
132 読者通信
134 トラウト・フォーラム通信 トラウト・フォーラム事務局

内容紹介

フライの雑誌第53号-01
フライの雑誌第53号-02
フライの雑誌第53号-03
フライの雑誌第53号-04
フライの雑誌第53号-05

野生のリンゴの木がある川 野々垣洋一
三年ぶりの再会だった。欧米流にヒシと抱き合い、ビヤーネのほのかな体臭に懐かしさを覚える。

「本当にヨーイチ?」

ジャケットにネクタイ姿の私を見て、ビヤーネ・フリースはお茶目にそう言った。とにかく仕事を済ませるとすぐにベルリンから飛んできたので、さすがに釣りの格好に着替える暇はない。

八月下旬のオーフスは高緯度地方とはいえやはり夏で、ビヤーネの4WDに乗りながら上着を脱ぎネクタイを緩めた。

「仕事はうまくいった?」

「なんとか終わったよ…。緊張して疲れちゃったけど」

初めてのデンマーク、迎えてくれたのは、十年来の付き合いになるバンブーロッド・ビルダーのビヤーネ・フリース、そして奥さんのハンナ。

ビヤーネは、すでに二五年のキャリアを持つプロビルダーで、実戦から生まれたユニークなアクションに魅せられたファンも多い。ビヤーネの釣りに対する情熱は並大抵のものではなく、シーズン中は毎日のように川に立つ。

モーニングとシラメと極小ユスリカ 角 敬裕/角 浩司
「今年も始まります。モーニングをゆっくり食べて、シラメのミッジングに熱くなりませんか」

一月中旬頃、岐阜に住む学生時代からの友人のマツノからメールがきた。

そして二月、長良川水系が解禁になって、マツノとその友人のイワタさんからシラメ釣り速報のメールがきた。釣れたシラメとその胃の内容物であるユスリカピューパの画像が添付されていた。

「解禁当初はこんなものです。これから次第に難しくなっていきます。でも大丈夫です。今年はマツノさんが新しいフライを考えました。これがあればいつまでも釣れると思います。作り方は…」

雪の上に並べられた数匹のシラメの画像が、マツノの新しいフライの効果を物語っていた。

私のフライフィッシャーマン的成分 備前 貢
まるで昨日のことのように思い出せるのに、あっと気づいてみれば、はるかかなたに輝く日々のひとコマがある。

高校生の頃、ぼくが生活していた学生寮に、漢方薬のマニアで、世界の超常怪奇現象や、人間の体の仕組みと化学なんかにやたらと詳しい同級生がいた。

寮は六人で一部屋だった。そいつの机には、わけのわからない粉や固まりの入った小ビンがズラリと並んでいた。それだけならまだしも、意味のわからない記号や言葉が机やベッドにいっぱい貼ってあった。しかも、どこで手に入れたのか、病院や保健室に貼ってある人間の等身大の解剖図を持っていた。最初、それはそいつのロッカーに貼ってあったけれど、寮のみんなが気味悪がるので、結局そいつのベッドの天井に貼ることになったのだ。

寮の新入生といえば、先輩にいじめられたり、コキ使われたりして陰で泣くのが常だった。だが、そいつだけはどの先輩も手出ししなかった。仕返しに、呪いの魔法でもかけられそうな雰囲気だったからだ。

そんなわけで、ついたアダ名は魔太郎。

五度目のニュージーランド 渡辺貴哉
成田空港からニュージーランド南島のクライストチャーチ空港に着いたぼくは、予約しておいたレンタカーを借り、南に向った。

街中を抜けるとき以外は時速一〇〇キロ以上で走った。日本よりも荒い質感の舗装路を駆けていくときのタイヤの音は、しばらく走るうちに気にならなくなった。

三時間半ほど車を走らせて、レイク・テカポという湖に着いた。ニュージーランド南島の真ん中あたりにある大きな湖だ。

湖畔の街を抜けて二キロほど走ると、「レイク・アレキサンドリーナ」と書かれた道しるべが見えた。

国道八号線を左に折れてアクセルを踏み込むと、タイヤから舞い上がった土埃でバックミラーは何も見えなくなった。ここしばらく雨らしい雨が降っていなかったのだろう。カラカラの空気のせいで車の中までなんだか埃っぽかった。

遠くにわずかな雲が浮かんでいるだけで、あたりに雲はなかった。

絵描きのヨシオさん 渡辺裕一
私は旅において川の畔にたたずむのが好きである。川の畔に立った時の思いは、例外なく一言を以てこれを言えば、”思いよこしまなし”である。

数日前の夜中、井上靖の本でこの一文を目にしたとき、「ははぁ、この作家は釣りを趣味としない人だな」とぼくは思った。なぜならば、釣り人というのは川の畔にたたずんだとき、よこしまな思いでいっぱいになる人種だからである。たとえそれが、ドブ川のようなものであれ、水さえ流れていれば、魚の影をさがして目が右往左往するものだからである。そして、水中でなにものかが動こうものなら、いっきに気分はたかぶり、呼吸はあらくなり、よこしまな思いでいっぱいになるという気質をもっているのである。そんなことを考えながらウイスキーを飲んでいると、ふと二十年ほど前のある釣行を思い出した。

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