【特別公開】川と湖の魚と釣りにまつわる放射能汚染年表まとめ(編集部)

大注目の話題の本、『淡水魚の放射能』はどんな本か。

【川と湖の魚と釣りにまつわる放射能汚染年表まとめ】を全文公開しました。(9/24)

●2011年3月の東電原発事故から1年半がたった。原発が爆発して放射能がまきちらされた事実はどれだけ日数がたってもかわらない。しかもまだ出ている。それなのに政府は原発をなし崩し的に性懲りもなく動かした。

●地球規模で見れば、人類は核を手にして以来地球上にせっせと核汚染を積み重ねてきた。冷戦時代の核実験ブームによる汚染、広島・長崎の核爆弾、1986年のチェルノブイリ原発事故、各国の原子力施設による汚染など、地球はあまねく放射能に汚染されてきた。(季刊『フライの雑誌』編集人/堀内正徳)

著者紹介 水口憲哉
水口 憲哉 1941年生。原発建設や開発から漁民を守る「ボランティアの用心棒」として全国を行脚し続けている。著書に『釣りと魚の科学』、『反生態学』、『魚をまるごと食べたい』、『海と魚と原子力発電所』、『魔魚狩り ブラックバスはなぜ殺されるのか』、『放射能がクラゲとやってくる 放射能を海に捨てるってほんと?』『桜鱒の棲む川─サクラマスよ故郷の川をのぼれ』、『食品の放射能汚染 完全対策マニュアル』(共著)など多数。千葉県いすみ市岬町在住。資源維持研究所主宰。農学博士。東京海洋大学名誉教授。国会事故調査委員会参考人。

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※以下、本文
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発行前から大注目 『淡水魚の放射能』はどんな本か。

美しい自然のなかに身をおいて、自らも自然のなかの一部であると意識することに
喜びを見いだす釣り人と、自然の営みを分断して破壊する原発が相いれるはずはない。(編集部)

水口憲哉氏(東京海洋大学名誉教授/国会事故調査委員会参考人)

福島の原発事故は〝なかったこと〟にしたい政府

過去の核爆発や核(原子力)施設からの汚染により、これまでの日本でも放射能は「測れば出る」状態だった。それをもって、福島事故より前から核の汚染はあったと、語る人もいる。

原発事故前の2009年と、原発事故後の2011年の首都圏の土壌放射能汚染を比較したデータがある。おおざっぱな比較だが、東京都でセシウムが308倍、千葉県で978倍、埼玉県で261倍(環境省および放射能防御プロジェクト資料から)である。

福島の原発事故は大したことはないとか、これから先もたぶん大丈夫とか言う人は、チェルノブイリ事故の数年後に子どもらに起こった悲惨な被害を見たことがない方か、見たくない方か、ねつ造された情報にしか接していない方ではないだろうか。

福島原発周辺の汚染とチェルノブイリ原発周辺の汚染を比較すると、チェルノブイリで住民が強制避難させられたのと同等レベルの汚染地域に、福島では今も人が住んでいる。その裏側には、福島の原発事故は〝なかったこと〟にしたいという政府の意思が見える。

釣り人と核は似合わない

釣り人の視点から原発=核を見るとどうか。釣り人は美しい自然のなかに身をおいて、そこに息づいている生命──、虫や魚とあそび、自らも自然のなかの一部であると意識することに喜びを見いだす。

そんな釣り人と、自然の営みを分断して破壊する核が相いれるはずはない。まれに、原発の廃水口でデカい魚が釣れるんだよ、などと自慢する人がいるが、哀れというほかない。

6月14日、川崎市の多摩川河川敷から27000ベクレル/㎏のセシウムが検出されたと発表された。多摩川は市民のいこいの場である。子供が走り回り、家族連れがバーベキューを楽しんでいるその場所が、じつは放射線管理区域なみの汚染地帯だとわかったというわけだ。

川で遊ぶことが好きなひとにとって、放射能汚染による被ばくの影響があるかないかという〝科学的な〟議論の行方は、じつはあまり意味がない。「大好きな川が放射能に汚染されてしまってキモチわるい」だけで、充分すぎる実害だ。キモチわるいという個人の感想は、風評の流布でも何でもない。素直にもっと怒っていい。

『淡水魚の放射能』は読みやすい

すでにお伝えしているように、フライの雑誌社ではこの夏、単行本『淡水魚の放射能』を発行する。著者は原発と環境の問題に40年近くにわたって自らの身体をはって最前線で取り組んできた水口憲哉氏だ。

『淡水魚の放射能』では、チェルノブイリと福島事故の比較にはじまり、過去半世紀にわたって世界じゅうで行われてきた核実験と原発事故による生物の被ばくを、わかりやすく整理した。

イギリスの再処理工場による海洋汚染、福島事故による汚染の現状と今後の展開など、それぞれを見開き単位でレイアウトし、気になる点がひと目で分かるような編集を施している。

海や山、川、湖でのアウトドア遊びが好きな方は、たいへん残念なことではあるが、これらの放射能汚染の事実は知っておいた方がいい。この現実は、今まで私たちに知らされていなかっただけなのだ。

『淡水魚の放射能』では新事実が明らかになる

『淡水魚の放射能』では、気になる日本の身近な淡水魚──ヤマメ、イワナ、ウグイ、アユ、ワカサギなど──についても、大幅にページを割いた。昨年から現在までに公表されている、1000を超える淡水魚の放射性物質の検査結果をわかりやすく解析した。魚種ごとの汚染の中身と、いまの本当の汚染状況を把握した。

そして、東日本での淡水魚の放射能汚染の、今後の展開を見とおす。

じつは、このような研究は日本ではまったくなかった。初めてのしごとだ。新しい発見ばかりだと水口氏は言っている。今後の東日本での淡水魚の放射能汚染を考える際の、初めてで唯一の一冊になる。

『淡水魚の放射能』は世界に目を向け、偏りのない多くの情報から書かれている

釣り人はもちろん、山遊び、水遊びが好きなすべての方に『淡水魚の放射能』を手にとってもらいたい。そして、ご自身のなかでの判断基準をつちかっていただきたい。野山で遊ぶ子どもたちを、いまわしい放射能汚染から守りたい方には、とくに、おすすめしたい。

『淡水魚の放射能』は、すべて過去に発表されてきた信頼できるデータに基づいて書かれている。きびしいこともある。しかし、希望もある。日本政府や電力会社のねつ造やうそ、ごまかしに惑わされない。世界に目を向け、公正な多くの情報をもとにして、しっかりしたそれぞれの考え方を手に入れよう。

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東電原発事故による淡水魚と川と湖の釣りにまつわる放射能汚染関連年表

2011・3─2012・6 (本誌編集部作成)

※川と湖の魚と釣りにまつわる諸問題について、フライの雑誌社のウェブサイト上にメモしてきた事実をまとめました。

2011年

3月 「放射能を海に棄てないでください」(水口憲哉)を本誌HP上に無料公開。

4月 「放射能に汚染された魚介類から身を守るために」(水口憲哉)無料公開。水口氏「いまはまだ食物連鎖(栄養段階)のとっかかり。これから始まる水産物の放射能汚染の序ノ口にすぎない」。

5月 13日 福島県鮫川アユ、ヤマメ、桧原湖ワカサギから放射性セシウムを検出。淡水魚のセシウム汚染が分かったのはこれが初めて。 19日 福島県伊達市ヤマメ990ベクレル/㎏、阿武隈川ヤマメ620ベクレル/㎏、イワナ350ベクレル/㎏など淡水魚の汚染が続々と判明。 >参照:淡水魚(川と湖の魚)の放射能汚染まとめ

6月 16日 汚染発覚を受けて福島県阿武隈川のヤマメとイワナが出荷停止。淡水魚の出荷停止はこれが初めて。採捕自粛要請により釣りも禁止。同日、飯館村・真野川ヤマメ2100ベクレル/㎏、ウグイ2500ベクレル/㎏など。27日 阿武隈川のアユも出荷停止。「放射能に立ち向かうために知っておくこと」(水口憲哉)を本誌第93号に掲載。

7月 28日 芦ノ湖、赤城大沼、中禅寺湖のワカサギからセシウム検出

8月 サンデー毎日「放射能を溜め込む森林」特集

9月 「放射能汚染時代の魚の選び方  国が決めた基準値を疑え」(水口憲哉)を本誌第94号に掲載。『食品の放射能汚染 完全対策マニュアル』(水口憲哉/明石昇二郎編)を宝島社が発行。すぐに品切れとなり大増刷。

11月 1日 水産庁釣人専門官がメールマガジンで「フグの食中毒に気をつけましょう」。 12日 山梨県西湖のヒメマスを釣り人が自主検査。セシウム13ベクレル/㎏を検出。 24日 水産庁釣人専門官がCS釣りビジョンで「フグの食中毒に気をつけましょう」。 29日 山梨県が西湖、本栖湖のヒメマス、精進湖のワカサギからセシウムを検出と発表。

12月 本誌第95号に「東電原子力発電所事故・放射性物質検査で釣り人の声が行政を動かした」記事を掲載。 7日 水産庁釣人専門官「フグの食中毒に気をつけましょう」。

2012年

1月 本誌が日本野鳥の会へ取材。「野鳥への汚染の影響は現在調査中。風評被害が起きては困る。会としてメッセージを出す予定はない」。後日、日本野鳥の会が電力会社から多額の寄付を受けていることが判明。 26日 本誌がHP上で「フグの食中毒への注意喚起も重要だけれど、いまは漁業者と釣り人からもっと求められている仕事があるのでは」と釣人専門官を批判

2月 フライの雑誌社が新刊『淡水魚の放射能』を発表。 13日 石丸隆東京海洋大学教授が日本釣振興会の講演で「東京湾の汚染はさほど心配はしていない」の意を発言。 6日 福島県川内村のミミズから2万ベクレル/㎏を検出。 15日 水産庁釣人専門官「フグの食中毒に気をつけましょう」。以下略。 21日神奈川県酒匂川の丹沢ヤマメから37ベクレル/㎏のセシウム検出。 23日 渋川市の利根川浄水場から4100ベクレル/㎏のセシウム検出。2月中旬から東日本の各都道府県で淡水魚の放射性物質検査がいっせいに始まる。とくに解禁前のヤマメ、イワナの検査が多い。 26日 本誌がHP上に「川と湖の魚の放射能汚染まとめ」を立ち上げる。東日本の各河川・湖沼の淡水魚の放射能汚染数値をピックアップ。時系列で総覧できる。現在も更新中。

3月 福島・栃木・群馬各県で100ベクレル/㎏以上のセシウムに汚染されたヤマメ・イワナ・ニジマスほか淡水魚が多数発見。そのため各地の河川湖沼で釣り解禁の延期処置がとられた。 1日 本誌編集部が〈「キャッチ・アンド・リリースなら釣ってもいいじゃないか」とだけ主張するお立場には賛成できません。〉とHPで発言。この月、水口憲哉氏が魚類の放射能汚染について国会原発事故調査委員会に招かれて講義。 10日 『ハンディ版 食品の放射能汚染 完全対策マニュアル』(水口憲哉/明石昇二郎編)を宝島社が発行、増刷。 11日 釣り人の権利と栃木県の観光を守る会〈釣り人の当然の権利と栃木県の観光産業を守る為、一日も早く「キャッチ&リリース」を法令化し全面解禁することを要望します。〉という署名活動を開始。同日、群馬県オジーズ柏瀬氏「今の私にできることは、今回の事故を教訓として、後世の釣り人たちに同じ思いをさせないことだとだと考えている」とHP上で発言。 13日 河北新報が〈食物連鎖 魚介類に蓄積・海や河川 長期間の影響不可避・流れ乏しいダムや湖深刻〉と報道。 14日 本誌がHP上で「釣りするのも釣りしないのも私の自由。釣った魚をリリースするもしないも私の自由」と発言。HPでの発言は全て公開中。 16日 栃木県が「一定の条件のもと区域を限定した渓流魚等のキャッチ&リリースを試行」と発表。 17日 栃木県が鬼怒川本支流のヤマメ・イワナ・ニジマスの解禁延期を漁協へ要請。 21日 本誌が栃木県農政部に取材。「今回の事態は10年、20年続くものかもしれないが、長い歴史の中では一過性の問題と考え、栃木県の水産資源と水産業をたやさないように努力したい。利用者の安全安心を第一に考えつつ、すべての漁場で釣りができなくなってしまうのはいかがなものかと考える」(農政部課長)。 24日 栃木県内の釣具店が本誌の放射能に関する発言を理由に取引停止を通告。 28日 福島県飯舘村の新田川ヤマメから18700ベクレル/㎏を検出。海も含めた魚類で最高値。いまだに破られていない。(※2012年8月12日、南相馬沖のアイナメから1キログラム当たり2万5800ベクレルの放射性セシウムを検出したと報道された) 31日 本誌「レクリエーションに行政からの規制はいらない」と発言。

4月 本誌第96号に「ヤマメ・イワナ・マス類の放射能汚染と釣り人」を掲載。「自分の仕事を武器にしたい」(樋口明雄)掲載。 4日 つり人社社長の鈴木康友氏「最近のマスコミ報道にはあきれますねー。いたずらに一般市民を不安がらせて喜んでいるとしか思えません」とブログで発言。 16日 中禅寺湖漁協「岸釣りキャッチ・アンド・リリース解禁試行」を発表。 20日 中禅寺湖のヒメマスから169ベクレル/㎏、ニジマスから147ベクレル/㎏、ブラウントラウトから156ベクレル/㎏を検出。 21日 政府が「国の設けた放射能汚染基準値を守れ」と食品業界へ通知。 25日 中禅寺湖漁協「岸釣りキャッチ・アンド・リリース解禁」の実施を決定。

5月 2日 水産総合研究センター発表。日光湯川のブルックトラウトから21〜195ベクレル/㎏。湯ノ湖ニジマスから54ベクレル/㎏、ヒメマスから23ベクレル/㎏。 3日 川崎市の多摩川河川敷で毎時2.52マイクロシーベルトを計測。放射線管理区域なみの汚染。 4日、中禅寺湖解禁試行に釣り人が127人。魚を持ち帰らないように背後に監視員つき。上空には報道のヘリコプターが飛ぶなかでの解禁。 9日 中禅寺湖漁協「脚立の湖水内への持ち込みは、場所取り目的の使用であり、違反行為です。あなたの行為が中禅寺湖のマス釣りの未来を決める」と発言。 14日 茨城県久慈川漁協がアユ釣り解禁延期を撤回。 20日 福島県内水面水産試験場が「ヤマメはセシウムを餌から取り込んでいる」と実験で確認。 21日 つり人社鈴木康友氏「過敏になり過ぎてはいけない放射能」とブログで発言。

6月 1日 本誌読者がレポート「宮城県内の渓流釣りフィールド 釣り自粛要請等の状況について」を寄稿。本誌HPに掲載。 13日 千葉県市川市が江戸川放水路のハゼの放射性物質検査。セシウム合計19ベクレル/㎏以下。 14日 川崎市多摩川河川敷から27000ベクレル/㎏のセシウムを検出。 30日 中禅寺湖「岸釣りキャッチ・アンド・リリース」終了。船釣り解禁へ。

※2012年6月以降に起きた事象については本フライの雑誌社ウェブサイト、及びフライの雑誌社facebookページで適宜紹介しています。
「淡水魚(川と湖の魚)の放射能汚染まとめ/放射能汚染を釣り人としてどう受け止めるか」もご参照ください。

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緊急出版!類書なし 選ぶべき未来は森と川と魚たちが教えてくれる。

『淡水魚の放射能 川と湖の魚たちにいま何が起きているのか』

著=水口憲哉(国会事故調査委員会参考人/東京海洋大学名誉教授) 全面書下ろし

『淡水魚の放射能』
福島第一原発事故以前、日本では淡水魚の放射能汚染はまったく研究されていませんでした。本書の第1部では、チェルノブイリ事故をはじめ世界の核施設による、知られざる淡水魚の放射能汚染をくわしく掘り起こします。第2部ではそれらの事例を参考に、福島第一原発の大事故により、いま日本の川と湖の魚たちに起きている放射能汚染の実態を見つめ、汚染の仕組みを考えます。そしてこれからの汚染の行方を予測します。私たちが選ぶべき暮らしの有り様がそこに見えてきます。

セシウムの計測値は大きく三つの条件で変動する。

アユ、ワカサギ、イワナ、ヤマメ、ウグイ…、身近な魚の放射能汚染の実態とその行方とは!?

選ぶべき未来は森と川と魚たちが教えてくれる。

ISBN 978-4-939003-52-3
A5判 104ページ / 税込1,200円
2012年9月発行

〈大注目発売中〉

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日本において、淡水魚の放射能汚染の研究はこれまでまったくなされてこなかった。一方、チェルノブイリ事故をはじめとする各国の核施設による淡水魚の放射能汚染の資料はある。『淡水魚の放射能』ではそこを初めて紹介し、世界と東日本の淡水魚の放射能汚染の現実と未来を、わかりやすく解析します。

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『淡水魚の放射能』の資料づくり。行政が検査してきた淡水魚の検体の数は1000を超えようとしている。それらの厖大な数値を解析し、諸外国の事例と比較して傾向を読みとる。地道な作業だ。
『淡水魚の放射能』の資料の一部。図版を多くして分かりやすく、雰囲気は楽しく。すこしでもたくさんの人に手にとっていただける本作りを心がけました。
文科省放射線量等分布拡大マップ
桜鱒の棲む川―サクラマスよ、故郷の川をのぼれ!(水口憲哉)
魔魚狩り―ブラックバスはなぜ殺されるのか(水口憲哉)
これからどうなる海と大地―海の放射能に立ち向かう
食品の放射能汚染 完全対策マニュアル (別冊宝島) (別冊宝島 1807 スタディー)
『フライの雑誌』第97号〈特集◎釣り人の明るい家族計画〉所載
選ぶべき未来は森と川と魚たちが教えてくれる。─『淡水魚の放射能 川と湖の魚たちにいま何が起きているのか』(水口憲哉=著)