牧浩之さんの単行本の制作にとりかかりました。

『フライの雑誌』の常連寄稿者で『海フライの本2』著者、川崎育ち・宮崎県高原町へIターン移住して4年になる職猟師で西洋毛鉤釣り職人、牧浩之さんの単行本の制作に、いよいよとりかかりました。今秋発行予定です。

以下は2014年2月に本欄へ記した「牧浩之さんについて。」です。今年8月の新聞紹介記事とあわせてどうぞ。牧さんはどんどんいい顔になっていっているようです。

牧さんと知り合ったのは11年前になる。最初から文章に独特の味わいと魅力があった。自分には自分のやりたいことがある、百万人行けども我行かず、という断固とした意志と覚悟を持っていた。彼はまだ20代前半だったが、そういういわば偏屈な若者はいまどきめずらしいとわたしは感じた。『フライの雑誌』的には大好物な書き手だ。小手先のレトリックなんてどうでもいい。大切なのは書き手に熱があふれていることだ。

事実、牧さんが『フライの雑誌』誌面へ発表していく記事への反響は大きかった。読者の平均年齢層が高かった当時は、怖いもの知らずで〝生意気な〟若者が書くものへの反発もあった。しかし牧さんのオリジナリティは揺るがずスタンスもぶれなかったことが、かえって信用度を高めた。

日本発の海フライタイイング&パターンブックである単行本『海フライの本2』をたった一人で書き下ろすという大仕事をなしとげてからは、牧さんには、自分を客観視する余裕が生まれた。それから以降(わたしごときがえらそうに評するのはたいへん申し訳ないのだが)、今に至るまでどんどん牧さんの書くものの魅力は増していると思う。

わたしは牧さんのデビューを知っている立場にある。だから、えらそうついでに言う。誰かが書いたものに最初から魅力があったとして、何作も書いてその魅力が以前と同じなら、それは退行だ。牧さんはどんどん変わる。その点は昨日紹介した真柄慎一さんも同じだ。二人は同い年である。

自営業者である牧さんは、本人が意識してかしないでか、せっかく自分で立ち上げてうまく運んでいるように見える事業を、時々ひょいとコートを脱ぐようにいともかんたんに脇へ置いてしまうことがある。ああもったいない、とこちらは思う。本人も(もったいなかったかな)と少しは後悔しているらしいことを最近知った。ひとところに立ち止まっていられない、生まれついてのプログレッシブ野郎なのだろう。元はヘビメタ少年だったそうだが。

いまは宮崎県高原町で猟師兼フライタイヤーとして生活している牧さんとは、宮崎への移住以来もう3年近く会っていない。彼自身、一度も生まれ育った川崎市へ戻っていない。地元の広報誌に紹介されている顔写真や、有害駆除の鳥獣をフライマテリアルに活用して地域活性化につなげるアイデアを、NHKテレビ(!)から取材されている牧さんの姿を目にすると、全身からにじみでている迫力におどろく。人間は環境に育てられる。人生の折り目節目で自分の環境を選んできた結果、牧さんの今がある。

職業猟師である牧さんは、自分と家族の生活の糧を得るために、野生のシカ、イノシシ、鳥たちを獲り、それらの命と真っ向から向き合う日々をすごしている。あいもかわらず、のんべんだらりとした毎日を過ごしているこちらからは、遠く手の届かないところへ行ってしまったようだ。

川崎市の海で初めて会った頃、牧さんはきゃあきゃあ騒ぎながらバチ抜けのシーバスを釣っていた。くちばしの黄色い都会っこの面影はもうない。あれから10年以上たって、牧浩之はいい時間をすごしてきたのだなあと思う。フライタイヤーらしく、自分の人生もデザインしている。
(編集部/堀内)

牧浩之さん
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宮崎県日日新聞 2015年8月30日掲載記事
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フライの雑誌 105(2015夏号): 特集 日本の渓流の「スタンダード・フライロッド」を考える。/隣人のフライボックス/60年目の養沢毛鉤専用釣り場
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『フライの雑誌』第106号|〈2015年9月12日発行〉| 大特集:身近で深いオイカワ/カワムツのフライフィッシング─フライロッドを持って、その辺の川へ。|オイカワとカワムツは日本のほとんどどこにでもいる魚だ。最近になって、オイカワとカワムツがとても美しく、その釣りは楽しく奥深いことを、熱く語るフライフィッシャーが増えている。今号ではオイカワとカワムツのフライフィッシングを、大まじめに真っ正面から取り上げる。この特集を読んだあなたは、フライロッドを持ってその辺の川へ、今すぐ釣りに行きたくなるでしょう。 新連載 本流の[パワー・ドライ] Power Dry Flyfishing ビッグドライ、ビッグフィッシュ|ニジマスものがたり
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