『フライの雑誌』では第72号(2006年2月)から作家樋口明雄さんに継続して書き下ろし連載をいただき、丸3年になる。樋口さんが昨年11月に上梓した単行本『約束の地』(光文社刊)が、日本冒険小説協会(会長内藤陳)の第27回日本冒険小説協会・日本部門大賞を受賞した。28日に熱海金城館で開かれた日本冒険小説協会全国大会で華々しく発表された。じつは私は一週間ほど前に情報を伺っていたのだが、規律を守って口外しなかった。大賞の副賞がコルトガバメントだからもしものことがあってはいけない。
樋口明雄さんは南アルプス麓にログキャビンを構えるハードボイルドなフライマンにして作家だ。骨太でヒューマニティあふれる数々の作品には幅広い読者層からの人気が高い。今回の受賞作『約束の地』については、昨年12月の本欄でも圧倒的な感動をもってご紹介している。
日本冒険小説協会大賞は、1982年の北方謙三から始まって高村薫、馳星周、宮部みゆき、大沢在昌、佐々木譲の各氏と、そうそうたる作家が受賞してきた。歴史と実績ある受賞作家の仲間入りをした樋口さんには、なんと、『フライの雑誌』次号第85号(5月下旬発売)にも新作を寄稿していただくことになっている。おそらくは受賞後世に問う、初めての書き下ろし作品となる。『フライの雑誌』最新第84号に寄稿いただいた「ようこそ山小屋へ」への評判も上々だ。平易で読みやすくそれでいて読み手の興味をひきつけて離さない文章作法は、ライターや編集者も必読である。『フライの雑誌』次号に乞うご期待。
Amazon 樋口明雄作品
樋口さんの過去作品で個人的におすすめは「武装酒場」、「俺たちの疾走」。「武装酒場」は日本の小説ではあまり見かけない、味わいあるスラップスティック。『フライの雑誌』連載の「きたりもん釣り倶楽部」(連載第一回は72号掲載)もその系列といえる。「俺たちの疾走」は版元絶版。まだ今なら安価に入手できるので見つけたら押さえるべし。