「ヤマメ出荷停止」で釣りはどうなるのか

6月6日、政府は国の基準を超える放射性セシウムが検出されたとして、福島県の阿武隈川などのヤマメについて、出荷停止を福島県知事に指示した。淡水魚の出荷停止は初めて。区域は秋元湖、檜原湖、小野川湖並びにこれらの湖に流入する河川、長瀬川(酸川との合流点から上部の部分に限る。)及び福島県内の阿武隈川(支流を含む。)において採捕されたやまめ(養殖により生産されたものを除く。) 

各新聞はいっせいにこれを報じている。朝日新聞だけ〈天然ヤマメ〉という言葉を見出しで使っているのだが、なにが〈天然〉だよと現場を知っている釣り人は思う。

さて「出荷停止」という文面通りなら、遊漁(釣り)への影響はなさそうだ。しかしじっさいは違うだろう。政府の指示を受けた福島県が「出荷制限後の管理の考え方」を漁連と各漁協に示した。「当該市町村でやまめを採捕しないよう広く周知する」とある。

採捕禁止には通常、県の内水面漁場管理委員会での検討が絡んでくる。漁業権の対象魚種からヤマメを外すには知事認可が必要だ。この通知は、それら漁業法上の正当な手続きをぜんぶ無視している。

「やまめを採捕しないよう広く周知する」という表現は、「ヤマメ釣りはさせない」ということ。じゃあイワナならいいのかと言いたくなるが、おそらくむり。というのは、遊漁券そのものを漁協が売ってくれないことが多いだろうから。釣った魚を食べないキャッチ・アンド・リリースだろうが、釣獲圧の低いフライフィッシングだろうが関係ない。

つまり、単に「券を売ってくれない」だけで釣り人は釣りができない。もっとも、放射性物質の沈殿した川底にウェーディングして、放射能に汚染されているのが分かっている魚を気持ちよく釣れるはずもないのだが。

これまで長年にわたり、釣り人と地元と漁協は協力をして、「気持ちのいい釣り場を作ろう」「魚を増やそう」「釣りで地域を元気にしよう」とアイデアを出しあい、いっしょに汗をかいて、地道にがんばってきた。その努力のすべてを原発がぶちこわしてくれた。そして各地でまだ平然と動いている。せっかく停まっている原子炉もまた動かそうとしている。

ものわかりのいい人は「電気の恩恵を享受してきた我々にも責任がある」などと言う。しかし「原子力で電気をつくってください」と頼んだ人がどれだけいるのか。

原発のせいで釣りができない。そのことだけでも、釣り人が〝原発なんかいらない〟と言う理由になる。

まともな釣りのできない人生なんて生きる価値がない。釣りのじゃまをする電気ならいらない。

緊急インタビュー 水口憲哉氏(東京海洋大学名誉教授)
〈放射能に立ち向かうために知っておくこと ヤマメもイワナも汚染された─。
新聞・テレビには出ない本当のこと〉を『フライの雑誌』次号第93号に掲載。
6/20発行。特集は〈東北へ行こう!〉

追伸:アユは川苔を直接食べるし、人間はアユを内臓ごと食べる。川苔の放射能を検査するべき。まだ検査されていない。
南相馬アユから放射性セシウム2900Bq
鮫川は12日、夏井川は19日にアユ解禁

淡水魚の放射能(水口憲哉)
淡水魚の放射能(水口憲哉)