単行本『桜鱒の棲む川 ─サクラマスよ、故郷の川をのぼれ!』(水口憲哉著/2010年)のときに知り合いになったNHKの柳澤啓カメラマンが、北海道斜里川のサクラマスの新しいレポートを教えてくださいました。
以下、本文からご紹介します。
2012年の秋、林野庁北海道森林管理局はサクラマスをはじめ川に棲む魚たちを上流に上らせようと、斜里川上流にある治山ダムの改良を目指すプロジェクトを立ち上げました。サクラマスは川の上流で生まれた後、川を下って海で育ち、1年すると産卵のために再び故郷の川の上流に戻ってきます。ところが斜里川に設置された治山ダムが、サクラマスの遡上を阻むようになっていたのです。
2013年8月には、斜里川の本流と支流にある28基の治山ダムの調査が行われ、28基の中から、ダムを改良した結果上流にサクラマスの産卵場所と生息環境が広がる見込みがあるものについて直していくことになりました。
治山ダムの改良には、ダムそのものを撤去する方法や、スリットと呼ばれる切りかきを入れてダムの落差を解消し、石や砂を下流に流す方法など、いくつかの選択肢があります。そのうち今回採用されたのはダムの脇に魚道を設置する方法でした。ダムを撤去したり、スリットを入れてしまうと再び川の勾配が急になり産卵に適した場所が減ってしまうことから、議論の末に魚道を設置することになりました。
私は、青森県の津軽地方の川を見ていますが、こちらでは人工増殖でサクラマス、サケ、アユなどを増やす取り組みが主流です。一方、北海道では人工増殖とともに天然の遡上や産卵を取り戻そうという考え方が広がりはじめています。都道府県によってサケ科の魚たちへの取り組みは様々なようです。
放送済みの動画も2本アップされています。ぜひリンク先をご覧ください。
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上記レポートの中で、流域生態研究所の妹尾優二さんの言葉が印象的でした。
自然の川に人が手を加えた場所は永久に人が面倒を見なければならない
『桜鱒の棲む川 ─サクラマスよ、故郷の川をのぼれ!』で水口憲哉氏は、「ダムをやめれば、サクラ咲く。」「ダムをやめ、川を川として活かす。乱獲はしない。何もしなければサクラマスは増える。」と、明快に記しています。
川が川としてある限り、人間は何もしないのが、サクラマスにとってはいちばんいい。川が川でなくなった時、サクラマスは途絶えます。
人間は、川を川として残し活かすことも、ダムや乱開発によって川を川でなくしてしまうこともできます。そしてそのどちらをも選択できます。
わたしたちはみずからの未来のありようについて、サクラマスから多くのことを学べるはずです。