クレクレタコラは、1973年から74年にかけてテレビ放映された実写特撮ドラマである。最近は昭和再発見とかで注目されているらしい。顔がビジュアル的にやばい気もするが。
タコラはなんでも欲しがる。しかも他人のものを。「なにが何でも腰ミノ欲しい」とか。クレクレ。流血沙汰は当たり前、相手をこん棒でぶん殴って欲しいモノを奪ったりする。
さて、よく言われるように、フライロッドは一度に1本しか使えない。手足あわせて8本あるタコラならまだしも、フライフィッシングにはまると、何本あってもまだ欲しいのが、フライロッドである。
『フライの雑誌』第105号の特集◎「日本の渓流のスタンダード・フライロッドを考える」(2015)は好評だった。多くの釣り人はどのようなロッドを支持しているのか。理想の渓流用フライロッドとはどんな竿だろう。読者アンケートも面白く、バックナンバーの中でも人気号で注文も多い。
あらためて、フライフィッシャーはなぜ、必要以上にフライロッドを求めるのだろう。
日本のフライフィッシングの歴史とマーケット事情をふまえ、心理学的な考察を加えて分かりやすく説いた、第105号掲載のコラム「スタンダードが止まらない。」(堀内正徳)を以下に転載します。
本特集の屋台骨となっている、〈特大アンケート 本誌読者が選んだ「日本の渓流スタンダード・フライロッド」〉の結果を踏まえての文章です。
第105号読者アンケート
1. あなたが選ぶ[日本の渓流スタンダード・フライロッド]の実名とスペックを具体的に教えてください。「これがスタンダードだ」と感じるなら、あなたがふだん使っていなくてもかまいません。素材はグラファイト、グラスファイバー、バンブーを問いません。国産・海外産を問いません。ただし現行品か、廃番であっても容易に入手できるロッドに限ります。
2. そのロッドに合わせるリールとラインを教えてください。
3. その竿を[日本の渓流スタンダード・ロッド]に推す理由を、三つ挙げてください。
4. 現行品、廃番品、アンティーク、素材を問わず、あなたが思う[日本の渓流にぴったりな最高のスタンダード・名竿]の実名を教えてください。なぜそのロッドを選ぶのかの理由も教えてください。
5. 日本の渓流で使うフライロッドを選ぶとき、国内産/海外産に違いがあるとすれば、どんな点ですか。
ところで、タコラの名台詞「フラフラでやんす、フラダンス」って、今でもタコじゃなくて、イカしてるよね。
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特集◉日本の渓流のスタンダード・フライロッドを考える
スタンダードが止まらない。
そもそも本誌が求めるフライフィッシングのイメージと、〈スタンダード〉たる概念とは、最初から相容れないのは自明であった。創刊以来、型にはめたがるフライフィッシング教条主義に背を向けて、ことあるごとに百家争鳴のアナキズムを標榜してきたはずだ。だから今回の〈スタンダード・ロッド〉という枠でくくった特集は冒険であった。正直何をどう取材していいのか分からない。分からないことは読者が教えてくれる。結果は本特集ページの通りだ。やはり真理はアナーキーにあったようである。
それでも、読者とフライショップが選んだおススメの「スタンダード名竿」に名前が挙がったフライロッドたちに、一定の傾向があるのは明らかだ。簡単に個人的(で独善的)な意見を添えたい。
オービス。おそらくは本誌読者の年齢層から、「初めてのフライロッド」ないし、「若い頃の憧れブランド」が、かつて高嶺の花だったオービスだったのだろう。性能評価はもちろんだが、郷愁込みのプッシュもありそう。
天龍フェイテス・シリーズ。リーズナブルな価格とクセのないアクション、入手のしやすさが評価された。国産ブランクの安心感は大きい。多くのロッドメーカーのブランクをOEMで天龍が生産していることは、本誌読者なら知っている。
マッキーズ・アーティスト。古い読者は本誌表4に長く掲載されていたマッキーズのお洒落な広告を覚えておいでだろう。「FFJ」の名物広告でもあった。日本フライ界ハンドクラフトの先達、宮坂氏の個人的魅力と、実直かつ洗練のラインナップ。海外有名ブランドより国内個人ビルダーの名を挙げるのはさすが本誌読者だと思う。
現行品の中ではティムコ・ユーフレックス、スコット、カムパネラが目立った。ティムコは国内最大手のフライフィッシング・メーカー。仕上げも性能も必要充分な低価格モデルを多くリリースしている。入門者が手にする率は高い。ティムコに限らず、大量生産の工業製品であるフライロッドの価格帯による差異は分かりづらい。
カムパネラは1999年創業で自社製造ブランク、ハンドクラフト、セミオーダーが特徴の独立メーカー。職人的なものづくりとホスピタリティのバランスが絶妙。東北岩手が活動ベースというのは、渓流フライロッド・メーカーとして最強のストーリーだ。ネーミングもいい。
じつは事前に、本誌に近い釣り業界関係者と打ち合わせした際、「日本の渓流スタンダード・ロッドをフライショップ担当者さんに聞いたら、○○と××と△△くらいしか出てこないでしょう。大人の事情で。」と言われていた。けれど実際にショップから届いたアンケートを開いてみれば、分かった風な大人の事情を、皆さんの釣り人としてのフライロッドへの情熱がかるく凌駕していたのには、心から快哉を叫んだ。
釣り人それぞれに、それぞれのイチ推しスタンダード・ロッドがある。その多彩こそがフライフィッシングの魅力であると再認識した。
最後に、コレクター気質の皆無なわたしが手にした渓流用フライロッド遍歴(というほどのものでもないが)を記させてほしい。純粋に釣り場で使ってきた。高番手とダブルハンドはまた別途。
古い順に、シェークスピア・エクセレントⅡ、ダイワAWF805ー5、UFMウエダPCF804、セージ476GFL、マッキーズ・トラベラー379、ロングリフター8045、703。見落としありそうだが続けると、ホワイトリー804、トレメンドス、横田ロッド、北尾ロッド、平尾ロッド、マッキーズ・バンブー、サマーズ・ミッジ633、ウインストンLT792ー5、フリース ヌードル、メドゥクリーク663、シーズロッド682、白戸ロッド663、アルキュオン763、692、天龍パッカー733ー6、ラピス733、ユーフレックスGS833ー2、北岡竿723、羽舟竿804、平野グラス711。
高円寺の四畳半でたった一本のダイワを握りしめていた20代前半の頃は、理想のフライロッドのイメージすら持ち得なかった。ただ未知のフライロッドを飢えたイヌのように渇望していた。その後20数年間、恥ずかしいことにだらしなくあれこれと、これらのフライロッドたちを渓流で振り回してきた。それらすべての竿が面白かった。
自分の年齢と経験に応じて、その時々の自分のスタンダード・フライロッドと出会ってきた。そしていま欲しい竿が、じつは片手で足りない。
(第105号特集〈日本の渓流のスタンダード・フライロッドを考える〉51ページ/堀内正徳/編集部)
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上の文章は2015年の春に書いた。あれから2年近くたって、またさらにふつうにフライロッドが増えているのは、言うまでもない。
これ以上、竿を増やして何釣ると、頭ぽりぽり、「もう一本!」 (堀内)