超でかくて強いニジマスが釣れるとうわさの会津大川「渓流会津ルアー&フライ特設釣り場」へ行ってきた。同行者はよしおさん。よしおさんの運転はどう控えめにみてもわたしの20倍は安心。東京から片道250㎞の道のりは二人でどうでもいいことを喋りながらだとあっというまだった。
途中、栃木県内に入ったところでポリバケツを連続でひっくり返しているような爆発的な雨になった。「申し訳ないですが自分はわりと雨男なんで」とよしおさん。べつに申しわけながることはないですが、大粒の雨がフロントガラスへ激しく打ちつける。今日は釣りはきびしいかな。
ところが会津への峠ののぼりで雨がやみ、川に立ったら薄日が射して来た。わたしはこと釣りに限っては希代の晴れ男なんですよと言うと、よしおさんに「すごいですね、さすがですね」とほめらて、なんかちょっといい気分。もちろん雨男、晴れ男に科学的な根拠は一切ない。EM団子や水素水、江戸しぐさに親学みたいなものか。というと一気にうさんくささがつのる。
会津田島のこめや釣具店さんで遊漁券を購入。話をうかがうとお店は創業40年、改築してから25年。「フライをやる人はずいぶん減りましたね」とご主人。店内はフライ用品、川、海、ルアーと商品が充実していた。悠久の時をこんこんと過ごしてきただろう〈Angler’sHouse〉の新品キャップを発見。その場で召喚、即ゲット。これから一緒に歩いて行こうぜ相棒。昭和風味つよめ。その他めずらしい品物がたくさんあって、「おれこのまま半日いられる」とよしおさんが舌なめずりをしていた。こわいこわい。
川に立って釣りを始めようとすると、対岸に漁協のおじさんが現れた。あいさつをしてキャップの後ろにぶら下げている遊漁券を提示した。にっこりしたおじさんに「ありがとうございます」とお礼を言われた。思わず「東京から来ました」と、聞かれてもいないのに出どころを言ったらもう一度「ありがとうございます」とていねいに言われて恐縮した。
漁協がいい川は魚にも人にもいい川だ。第115号にポジティブなノリで〈漁協ってなんだろう〉を書いてよかった。たくさんの人に読んでもらいたい。
昨夜冷たい雨が降ったらしく、釣りの状況は芳しくなかった。困ったときのなんとかを発動して、クロスオーストリッチ、フェザントテイルニンフで2本釣った。どちらもうわさ通りすごい魚だった。恐ろしいくらいの幅広。ヘラブナみたい。よく引くはずだ。
夕方前、わたしが釣っている対岸に七、八人の一群があらわれた。その内の一人が手にノコギリを持って土手を降りてきた。川岸に生えている木に登り、「これが邪魔なんだ」と言いながら、川に突き出すように被さっている枝をギコギコとやり始めたのでびっくりした。あのう、まさにその枝の下の一番いいポイントを狙っている人がいるの分かってますよね。対岸とはいえフライラインが軽く届く距離だが声かけはなかった。
他の人は土手の上から「あぶないよ」とか「ロープで引っ張れば」と言っている。「ウエーダー」という声も聞こえたから、あまり考えたくないけど釣り人なのかなあ。会話の感じだと地元か近県の人たちのようだった。わたしは視力が低いので風体までは分からない。どういう立場の人でも誰かが釣っている目の前でいきなり枝ゴリゴリはない。釣具屋さんも朝の漁協のおじさんも気持ちよくて、ここまで釣り場の印象も最高だったのにと残念だった。
しまいに切った枝を二三人でボッチャーンと盛大に川へ落とした。その水音が(ここはうちらの川だ)と言っているように聞こえた。どうせもう釣りにならない。ポイントを移動した。
その後、少し上流の淵の開きでマラブーリーチを沈めてしつこくもう一本。この魚がいちばんきれいだった。けっきょく夕方までぶっ続けでフライロッドを振っていた。こんなことは最近めずらしい。
帰り道、市村晃さんに教えてもらった会津田島駅近くの〈まりちゃんのソースカツ丼〉のお店でまりちゃんにソースカツ丼を頼んだ。すると予想の1.5倍くらいものすごい丼が出てきた。
うれしいとき、わたしは「わーい」と言って両手をひろげ、胸の前でバイバイするみたいにひらひらさせる癖がある。ちょっとかわいい。PTA仲間だったあいちゃんのお母さんの仕草がうつった。丼を前にしてこの時も思わず「わーい」とひらひらさせたら、まりちゃんもノってくれて「わーい」。まりちゃんはかわいかったけど、おれがやってもあまりかわいくない、と急に冷静になった。
というわけで帰り道、よしおさんとまた色んなどうでもいい話をしながらあっというまの250㎞。楽しい日帰りの釣り旅だった。
神様、釣りの一日はなんでこんなに短いのですか。
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