行きがかり上、なんとなく面倒をみている近所の子どもがいる。もうすぐ15年になる。知り合ったころは赤ん坊だったのに、いまは厨坊だ。時間がたつのは早い。
今日は、厨坊のたっての依頼で、学校の説明会へ行ってきた。わたしは最初、そういうかしこまった場へ行くのは嫌だと言ったのだ。すると寂しい顔をするので、かわいそうになった。
学校というものは、いつの時代もそんなに楽しいものではない。説明会が終わった途端、「川を見に行こうよ。」と厨坊が誘ってきた。学校を見学にきたのに、川を見学したいというわけだ。この学校の敷地から歩いていける範囲に、けっこう大きな川が流れているのは、わたしも知っていた。場所柄マスはいないが、バスくらいならいるだろう。
ここ数年、厨坊との会話が少なくなっている。〈太鼓の達人〉の高得点のことなど嬉しそうに語られ、目の回るような指使いを見せられても、そうかとしか言いようがない。接点は川と釣りと魚くらいだ。
土手を降りて水辺まで、背の高い草むらを分けて入る必要があった。制服を着ている厨坊が「川が見えない、道がない、バカ草がつく」と言って躊躇している。情けないな君は。
わたしがみずから先に草むらへ突っ込んで、様子を偵察した。大丈夫、行けそうだと振り向いて声を投げると、厨坊はわたしの踏み跡を遅れてそろそろと追ってきた。石橋を他人に叩かせてなかなか渡らないタイプだな君は。
バカ草をつけないように足で踏みながら、注意深く草むらをしばらく歩いて、岸辺に着いた。冬枯れのススキの向こうに、水量は少ないながら対岸まで25メートルはありそうな立派な川が流れていた。季節が夏ならもっと流れに勢いがあることは容易に想像がつく。厨坊が「いい川だね。」と言った。ああ、いい川だな。川にいるときの君はいつもと違う表情をする。
川を見たまま、ぽつぽつと厨坊が話す。勉強面では苦労している系の子どもらしい。そうか、偏差値には30いくつという値があるのか。そうか、内申点も足りないのか。まあ色々、しょうがないな。にんげん生きてりゃいいんだ。
家に帰ったら、お前のお父さんとお母さんへ、釣りのおじさんにそう言われたって言いな。生きてりゃいいんだ。
ぼうっとしていたら、学校から出る帰りのバス便の行き先を、二人して間違えた。あたりまえに全然別ルートのバスに乗り込んで、かなりの時間を走ったのに気づかなかった。終点ですと言われて、知らない駅で降ろされた。運転手さんに「ここどこですか?」と聞いたのは、自分でも間抜けだと思った。
厨坊と顔を見合わせて、さて、これからどうする? と笑った。
そういう晩秋。
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