ナマズですが、身近なフライフィッシングの素晴らしい遊び相手です。
フライの雑誌-第120号(大物ねらい・地元新発見!特集 2020年7月20日発行)から、「ご近所のナマズ釣り」(堀内正徳)を公開します。
誰も言わなかったナマズのフライフィッシングの究極のマル秘テク(えー)、昨今のフィッシングシーンの問題点を鋭くえぐる提言(えー)も文末に。
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ご近所のナマズ釣り
堀内正徳(東京都)
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ナマズはどんくさい。ニジマスの鋭利さ、ヤマメやアマゴの清楚さはない。
いつもオイカワを釣っている川にナマズが生息している。引っ越してきてすぐの頃、トップウォーターのルアーで狙った。ナマズは派手な水音としぶきを上げて、水面へはげしく反応する。食うのが下手すぎて、はげしいわりにフッキングしない。
何回かのチャレンジ後に釣れたナマズと、薄暗がりの中で目が合った。魚も色々いる中で、ナマズの瞳はあまりにもつぶらだ。だらしなく緩んだ口元に、たぷっとした腹回り、ひょろっとしたナマズひげ。
だめな親類のおじさんみたいな情けない風情に、妙な親近感を覚えた。お前は俺だ。俺はお前だ。
夕方、オイカワ釣りで浅場に立ち込んでいると、ナマズがすーっと寄ってくる。サンダルの足元へぶつかりそうになる。すんでのところで、あ、まずい、と気づいた風で、でもあくまでしっぽは鈍重に振って、ゆらゆらゆらと去っていく。
気持ちはいいけど社会的に無能なおじさんを、わざわざハリにかけて痛い思いをさせるのは、こちらの心が痛む。そんなわけでナマズ釣りには縁遠くなった。
今年(2020年)の初夏、休校中でひまを持て余している近所の子どもが、テトラの前の瀬にナマズがたくさんいたよ、と報告してきた。こちらも遠出できない身の上だ。オイカワ釣りも遡上の端境期だったこともあり、じゃあナマズをフライで狙ってみよう、と思いついた。
ちなみに近所の子どもはナマズを日常的によく釣っている。エサは石の裏のナメクジがいいそうです。
明るい時間にスウィングで釣りたい、とテーマを立てた。フライロッドをオイカワ用の2番から、6番の9フィートに持ち替えて、通い始めた。
昼間のナマズは、瀬へ続く水深1mほどの長いトロ場の、水底に何本かあるスリットに隠れている。夜に浅瀬でやれば高確率で出るに決まってるけど、こっちの欲望に合わせて釣ってみたい。同じ釣るのでも、気分と状況次第でアプローチを好きに選べるのが、フライフィッシングの大きな魅力だ。
ところが釣れない。
近いから毎日通うのだが、ナマズはいるのにスウィングするウエットフライを食ってくれない。かえって絶対これで釣るんだ、ナメクジには負けないぞとムキになった。
むなしく3週間がすぎたころ、オイカワ釣りによく来る井上さんが6番の竿を持ってきた。「俺もナマズやってみようと思って」。なんとブービーフライで水底をモゾモゾとしつこく探り始めた。その日は大丈夫だったが、まずい。これは必ず釣られる。だって井上さんだもの。井上さんより先に釣りたい、と強く思った。
翌日、ウエットフライの釣りをあっさり諦めた。全長10㎝近いガーグラーに結び替えた。霧雨、無風、生あたたかい。いかにもナマズ釣りにふさわしい6月上旬の夕暮れ前だ。
ガーグラーを対岸へ投げ、流れをゆっくりと横切らせながら、スウィングさせた。時々ストリップして、ボコッ、ボコッ、と音を立てる。ガーグラーが流心をすぎて、手前の岸に近づいてきた。そこにスリットがあるのはわかってる。
水底からゆらっと影が浮かび上がり、ほんの少しフライを追いかけて「ジュボッ!!」と水ごと吸い込んだ。one hundred one、one hundred two、one hundred theree、と数えてから(ワン・ツー・スリーでは早すぎる)、上あごに引っかける感じで、ゆっくりとロッドでフッキング。いったん出てしまえば、フライはルアーより格段にフッキング率は高い。60㎝超と70㎝近いのを2匹釣った。6番ロッドは曲がってくれたが釣れてしまえばわりとあっけない。
これじゃルアーと同じだな、という澱のような思いは残った。でもあのままじゃ井上さんに釣られちゃうのは明らかだし。だって井上さんだもの。
いずれにせよ、やっとナマズが釣れたので、〝これでオイカワ釣りに戻れる、よかったー、〟というのが正直な気持ちだった。
最後に、リリース前提のナマズやライギョ、コイを、フィッシュグリップでぶら下げるのはやめよう。あれは魚をケガさせます。自分がぶら下げられる気持ちになってみてください。
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