遠いむかし、ダメな営業職だった。勤めていた会社では毎月一回、営業職全員が集まる営業会議が開かれた。数十名いる営業社員の成績が大きな模造紙で棒グラフになって、壁に貼り出された。今じゃ考えられない超アナログだけど。
同僚や後輩、先輩の棒は、毎月毎月、春のタケノコのように天高く、十代の若者のように勢いよく突き上げていた。わたしの棒だけ棒じゃない。えらい人からは「お前のは—(線)だな。」と言われた。なんで成績が伸びないんだろう。怠けているわけじゃないんです、と不思議がっていたが、本当は怠けていた。
朝、事務所を「営業行ってきまーす。」と元気よく出かけてゲーセンへ直行するか、都内にある自分が行きたい喫茶店を巡る日々であった。喫茶店への直行直帰も度々。俺に営業なんかさせる方が悪い。
夕方会社に戻ると毎日、営業日報というものを書かされた。B5横サイズの左とじ・横書きで、ペラの紙を足していくタイプの日記帳みたいなものだ。どこの会社へ行って何を売ろうとしたけど惜しかったとか、誰と会って数年後に役立つかもしれない有意義な情報を得たとか、ウソばかり書いて提出した。ちなみにもちろん鉛筆書き。
そんなこんなで、4年と少しで会社にいられなくなった。むしろ4年と少しも、わたしをいさせてくれた会社がすごい。そういう時代だったんだな。いい時代だった。じつは当時のことをまだ時々夢に見る。たいてい寝汗びっしょりで目が覚める。根が真面目なのだろう。いずれにせよいい経験だった。
さて、話は変わる。
以前、一人暮らしの大学生の成績表を、大学によっては実家の保護者へ勝手に送ると聞いた。「大学生にもなってるのに、それは過干渉だなあ。くだらないなあ。」と思っていた。
だが現在は、「当然ですよ。」くらいに感じる。
なんなら日報もほしい。
ウソ日報じゃ困るよ。
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