キャスティングは練習せずに上手くなることはありません。特にロングキャストはそれなりの練習が必要で、乗り越えることがフィールドを広げることになります。
フライフィッシングであそぶ
フライフィッシングにとって、フライキャスティングは最初で最大の壁だ。
自分の場合、フライキャスティングはひたすら現場主義でやってきた。歴だけは長いので自分なりのスタイルにはなった。逆に自己流が固まっちゃった。完璧に固着して30年たったフェルールみたいなもので、抜くには壊す覚悟がいる。
初めて鹿児島へ行った時、夢屋の中馬達雄さんにキャスティング・レッスンを乞うた。それから鹿児島へ行くたびご指導いただいていた。ところが数年前に行った時、ちょっとロッドを振っただけで、「あんたはもういいや。」みたいに言われた。免許皆伝じゃなくて、もう教える気にならんそうだ。
ところが、同行した十代の若者がロッドを振り始めると、側から聞いていても、ああ、さすが中馬さんだなと思う的確なアドバイスをちょこちょこっと言った。若者がまた素直に従うので、見る間にフライラインが美しく躍動するようになった。で、中馬さんがこっちを向いて「あんたよりずっと上手やね。」と、ニカーッといい顔で笑った。
ここで言っておくと、中馬さんはフライの雑誌の連載や『海フライの本3』に書かれている文章を読むと、こと釣りに関してはとてもストイックで、とりわけ自分には他人の百倍もきびしい。あの世代にありがちな面倒くさーい方に感じると思う。まあ否定しないが、実際にお会いするとやたらに親切で細やかで熱くてやさしい方だ。まじで。そして釣りもキャスティングも想像の千倍うまい。
師匠から見放されたわたしだが、今夏も鹿児島の離島へ釣りに行く前、また夢屋にうかがった。苦労しているシングルの12番ロッドのキャスティングのコツを教えてほしかった。すると中馬さんは新店舗の完成直後でご機嫌がよかったのか、その場で目の覚めるようなデモを見せてくださり、これまたシンプルで的確なアドバイスをくださった。(かゆいところはそこでした)と思った。
翌日からの離島の釣りでは、中馬さんのアドバイス通りに12番ロッドを扱った。そんなに重い番手を振ったら腕が壊れちゃうんじゃ、と事前に危惧していた。しかし滞在中もその後も、マウスしか持ったことのないわたしの細腕が痛くなることは一切なかった。おかげさまで楽しい釣りになった。
今回、知った。普通に釣りをするなら、フライキャスティングに人間のパワーはほとんど必要がない。フライを遠くへ運ぶのはフライロッドだ。3番でも5番でも8番でも12番でも同じ。むしろ高番手になればなるほど、フライロッドが仕事をしてくれる。フライロッドに仕事をしてもらうのが人間の仕事だ。
フライキャスティングは最初で最大の壁だ。ここ約30年で、フライタックルはライト兄弟が火星へ往復するくらいの進歩を遂げている。以前の壁が1メートルだったとすれば、今は2センチくらいかな。ハムスターでもひとっ飛びだ。
渓流なら10ヤードも投げれば十分釣りになるが、湖や本流、海ではそうはいかない。もしキャスティングへの苦手意識のせいで、新しい釣り場を見ないようにしたり、二の足を踏んでいるのなら、いったん忘れてみよう。フライキャスティングはわずかの練習で誰にでも習得できる、ちょっとした曲芸だ。ぜんぜん大したことじゃない。
とんでもなく広大な釣り場が目の前にひらけている。
フライの雑誌 125(2022夏秋号)
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Flyfishing with kids.
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