【公開記事】
「フライの雑誌」126号
隣人のシマザキフライズ2特集 より
特集後半は
シマザキフライズを巻くなら
当然これしかないという
TMCフライフックを中心に。
Ken Shimazaki
speaks on the
TMC Hooks
島崎憲司郎TMCフックを語る(2001)
▼ 本誌編集部では、2001年頃に米国市場向けにティムコ社が制作した英文書類を入手しました。
「ティムコが世界に誇るオリジナルフライフックを次々と生み出していく手法は、エベレット・ギャリソンがバンブーロッドの理想的なテーパーを正確な計算で導き出したアプローチと似ています。TMCフックは、当社独自のガイドラインであるTMCシステムに基づいて設計・製造されています。これがフックチャートだけに表れないTMCフックの背景です。 高度なTMCシステムの基礎は、1984年から1985年の間に確立されました。将来の技術開発を考慮して、インチのぎくしゃくした分数表現ではなく、100分の1ミリ(0.01mm)単位で設計されています。」
で始まります。
書類の後半部は、TMCフックデザイナー、島崎憲司郎さんへのQ&A。ここに初公開します。1997年に『新装版 水生昆虫アルバム』を出したばかりの島崎憲司郎さんの、キレッキレぶりをお楽しみください。
(編)
・
ボツになったのはたくさんありすぎて忘れましたね。
理由はお決まりの「まだちょっと早すぎる」ってやつです。
Q: フライフックのデザインにエキスパートの意見を採り入れたりする場合、どんなことを心がけていますか?
島崎憲司郎: 分かりやすくするためにフックを「料理」に例えてみましょうか。その人が有名な食通だとしますよね、僕の方は料理人の立場なんです。
その人好みの料理にするのは簡単ですが、なおかつ他の人が食べてもおいしいと感じるように料理しなきゃね。そこんとこですよ、難しいのは。グルメってのは気難しい人も多いしね。
それとねェ、僕自身がグルメになっちゃダメなの。「グルメ」が必ずしも優れた料理人ではないですしねェ。いずれにしても、一人ヨガリの料理(フック)をつくっちゃったらダメなワケでね。ティムコさんもそういうのは望んでいないだろうし。
Q: 釣り以外の話になると、どんな内容であれ「そんなの釣りとは関係ねえよ」と言わずにおられない人がいますがそのへんどうです? ガツンと言ってやってください。
島崎憲司郎: いますねェ、そういうタイプのゴツイ人。
でも、釣りさえすればいいんならさ、山ん中の職漁師の方がよっぽど毛鉤でバカスカ釣ったりすることもあるワケ。それじゃ、そういうトッツァンに本物のフライフックができるかってェと、まず無理だろうね。
たとえばこのTMC518の#30だとか#32なんて見せても「メダカでも釣るのか」ぐらい言うのが関の山だろうね。「オジサン、これでこんなデッカイ鱒釣るんだゼ」つってもニワカには信じられないだろうし(笑)。
それとは逆に、ペンシルバニアあたりの超ウルサ型たちが「これだよコレ、こういうものが欲しかったんだよォ」ってヨガッたりするワケだ。
そういうとこですよフライフィッシングの醍醐味は。
Q: 島崎さんが手がけた製品で国内には出回らなかったものやボツになったフックはありますか?
島崎憲司郎: そりゃ色々ありますよ、日本じゃ売れないゲテモノ(?)とかデカ過ぎるやつとかね。
たとえば10/0のパイクフックとか……あれは確かオランダ向けに5万本だけつくったのかな……全長10㎝ぐらいあってね、エモンカケのフックにも使えそうなやつ。
TMC80Pっていう今じゃマボロシのフックで僕んトコにも1本しかないの。この間まで3本あったんですが、そのうちの2本にカディス巻いて(カディス巻いて!)、アメリカに送っちゃったからさ。これ見てる人でどなたか持ってないスかねェ……あったら何本でも僕マジで買います、いやホント。
それとか、ゲーリー・ラフォンテーンさんに頼まれたフレックス・ホッパー用のエクステンション・シャンクなんて変テコなのもあったな。もちろんそういうのもちゃんとした図面にしてありますよ。ワームフックとかスプーン用のシングルフックとかも幾つかやらされたっけ。
ボツになったのはたくさんありすぎて忘れましたね。理由はお決まりの「まだちょっと早すぎる」ってやつです。
Q: ミッジ用のフックが豊富に出そろいましたが、極小フライをスッキリとタイイングするヒントを具体的に。
島崎憲司郎: 以前から何度も言ってることですが無駄な巻きをしないことですね。ミッジに限ったことじゃないですが、何が何でもキッチキチにビターッとごていねいな下巻きをしなけりゃお作法に反すると思っている人がいますけど、そのへんは臨機応変にやりゃいいんですよ。
それに、フライってのはグルグルグルグル糸を巻きさえすれば丈夫になるってもんじゃなくてね、無駄巻きせずに耐久性がある仕上げにすることは十分可能なの。タイイングのエキスパートが巻いた場合、むしろその方がポテンシャルが高い。マテリアルは「少なめ短め小さめ」がコツかな……マ、何事も例外はありますけど。
それと、スレッドは当然細いものがいい。細くてもテンションに弱すぎるのはダメですけど。極細のタイイング・スレッドは開発課の方で今やってる画期的なのがあるんですが、これなんか相当いい線いってますよ。他の使うのがバカバカしくなるものね。
それからこれ、我田引水になりますけど、マルチグルーを活用することもヒントだね。その場合、量をごく少しにすること。綿棒っての? 耳なんかアレするやつ、マルチグルー使う時にあれが実に役に立ちます。あんなの安いからバイスのそばに1パック置いとくと重宝しますよ。
いまだにマルチグルーの威力を信じない人がいますけど、たとえば#32のフックでミッジピューパかなんか巻くときにソラックスの部分をマルチグルー+ピーコックハール(のフリューを爪でシゴキ取ったもの)でタッチダビングしてみてください。これだとヘッドセメントなんかも不要ですしね。したがってフックアイが目詰まりすることもないワケで。
極小フライのタイイングなんて決して難しいものじゃありませんよ。慣れりゃ、むしろ普通のフライより余程早くタイイングできるほどです。マテリアルも最小限で済むしね。こういう不景気な時代にピッタリじゃないの?
Q: では最後の質問。もしアラブの石油王が「金に糸目は付けないから最高のフライフックを1本つくってくれ」と言ってきたとします。どんなフックにしますか?
島崎憲司郎: TMC518#32。できるだけ無造作に1本選んでそいつに送ってやるだけさ。その包み紙にはぜひこう書いてやりたいね。「これがそのフックです。いいですか王様、これを最高に正しくお使いになるにはね、キャスティングとランディングとタイイングを少なくとも10シーズンみっちりとお稽古してくださいますように。以上。」とね。
(了)
…
第126号〈隣人のシマザキフライズ特集〉続き。島崎憲司郎さんのスタジオで2022.12.26撮影。狭いシンクを泳ぐフライ。まるっきり生きてる。これ笑うでしょ。まじやばい。(音量注意) pic.twitter.com/vFuHHPEJvh
— 堀内正徳 (@jiroasakawa) December 27, 2022
フライの雑誌 124号大特集 3、4、5月は春祭り
北海道から沖縄まで、
毎年楽しみな春の釣りと、
その時使うフライ
ずっと春だったらいいのに!